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ゼロになるまで自分を


午前6時。
マカデミー賞をライブで見たかった!とブツブツ文句を言うなまえを乗せて僕は彼女の家へ向かっていた。

マカデミー賞か…当分トラウマになりそうだなと僕は苦笑いしてアクセルを踏み込む。

朝起きてから、僕達はこれからのことを話し合った。

普段は、僕はなまえをなまえさん、彼女は僕を透さんと呼ぶこと。
週末のデートをきっかけに付き合うことになったと言えば、僕らの旧い関係に気付く人間も少ないだろうという話になり、僕達はとりあえず週末までは大人しくすることにした。

アパートで着替えを終えて降りて来たなまえを連れ、ポアロに出勤する。
これは昨晩、僕のせいで誘拐され、晩御飯を食べ損ねた彼女へのせめてものお詫びだった。

「ホットコーヒーとハムサンドがいいわ…この間は誰かさんに取って食われそうでちゃんと味わえなかったから」

「了解」

なまえは今日はカウンター席だ。
テーブル席の客にお冷を出し、彼女の背中を見ながらカウンターの中に入ろうとした瞬間、カランとドアが開く。

「あ…いらっしゃ…」

ドアを開けたのは、コナンくんだった。

「………」

2人の間に妙な沈黙が流れる。

「ウソつき…」

「君に言われたくはないさ…」

そう言い合う僕らを、梓さんが不思議そうに見ていた。

「コナンくん?」

彼女の目線入り口のコナンくんを捉えた。

「!…なまえ先生…」

コナンくんの目は、僅かに見開かれる。
それを見た彼女の片眉が何かを悟ったように上がったのを僕は見逃さなかった。

「コナンくん、聞いてくれる?昨日、マカデミー賞をオンタイムで観るつもりだったのに、私ったら誰かさんのせいですっかり寝ちゃったのよ。工藤優作の受賞の瞬間の喜びをみんなと共有したかったのに、残念だわ。今日絶対録画観なきゃ」

「へ、へぇ…先生、ミステリー好きなんだね」

「ええ…日本人作家なら工藤優作の作品が好きだけど、海外の作品ならそうね…“緋色の研究”が一番好きだわ」

彼女の声は、今まで聞いた中で一番よそ行きの声だった。コナンくんを威嚇しているようにも取れる。

「!!あ、ボ、ボク学校遅れちゃうからもう行くね!」

コナンくんは慌ててポアロから出ていった。

「どうかしたんですか?」

「何でもありません。コナンくんが私の初恋の相手の話をペラペラ他の人に喋ったようなのでちょっとお灸を据えただけですよ」

僕にそう答えた彼女の態度は、すっかりいつも通りだった。