
週末、僕らは当初の予定通りデートをした。場所は米花水族館。
念入りに2人で練ったシナリオは、僕が強引に押し切って付き合うことになったという内容で、僕は早々に彼女の手を握っていた。
「あむろ、さん…あの…」
なまえが困惑した声で僕を呼ぶ。そういえば先程から、芝居とはいえ握り返されない手に痺れを切らして彼女の陶器の様な手の甲を、いやらしく指で撫でていたのだった。
「デートなんですから、手くらい繋がせてくださいよ…それから僕のことは“透”って呼んでください」
実は僕達の後ろには、少年探偵団の子供達がデバガメをしていた。
僕達は横目でアイコンタクトを取りながら白々しい芝居を続ける。
「…じゃあ、透さん…」
彼女は頬を赤く染め、俯いてしまう。
「あ、ほらなまえさん、サメですよ」
僕はなまえの手を引き、彼女からサメが見やすくなるようにした。
「ありがと…」
僕が彼女を隠すように立ち、背後から抱きしめようとしたところで、子供達はわぁっと声をあげた。
「安室さん頑張って!」
「すごく良い雰囲気です!」
「安室のにーちゃんなんかどうでもいいからよー、飯食いに行こうぜ」
「ちょ、おめーら!」
「みんな、ダメよ邪魔しちゃ…」
付き添いの蘭さんのオロオロした声で、僕達はさも今気づいたかのように顔を上げた。
「おや…皆さんお揃いで」
「み、見てたの?」
なまえは慌てて僕から少し距離を取って、赤くなった顔を隠す様に口元に手を当てる。
「ごめんなさい…実は入り口でお見かけして…止めたんですけど、この子達が付いてくって聞かなくて…」
蘭さんの顔は、なまえに負けないくらい真っ赤だった。
「すみませんが…どうしてもなまえさんと2人きりになりたいので、今回は勘弁してもらえませんか…後もうちょっとなんですよ」
僕が彼女の肩を抱いてそう告げると、蘭さんが真っ赤な顔のまま頷いて、邪魔しちゃダメ!と子供達をイルカショーの方に連れて行ってくれた。
事情を知っているであろうコナンくんだけが、僕達のことを冷たい目で見ていた。
蘭さんと子供達が見えなくなってから、僕と彼女は見つめ合って笑う。
「全くすごいよ、君にはマカデミー主演女優賞をあげないとな」
「あら、あなたもよ?」
サメを見ながら2人で囁き合い、暫し海中さながらの水槽を堪能する。
「じゃあ透さん、次はどこに連れて行ってくれるの?」
「そろそろ疲れたでしょう?カフェでも行きませんか?」
「そうね、お腹も空いて来たしちょうどいいかも」
彼女は僕の差し出した手を握った。今度はしっかりと握り返してくれたので、僕は頬が緩みそうになるのを堪える。
「なまえさんはお昼は召し上がらないのでは?」
「休日は別なの。チートデイって言うんだったかしら」
休日のお昼時とあって少し並んだが、イルカショーの時間と被った事もあり、思っていたよりは早く案内してもらうことができた。
僕達は向かいあって座り、可愛らしいラッコのお皿に乗ったホタテパスタを頬張る。
「これ、可愛いですね」
「なまえさんの方が可愛いですよ…あ、ソースが」
なまえの口の端に付いたソースを指で拭ってからその指を舐めると、顔を真っ赤にした彼女に、心臓に悪いと怒られた。
食事を終えた僕達は、次の回のイルカショーを観て、夕方には景色の綺麗な海辺に移動した。
せっかくデートをするなら、僕の部屋なんかじゃなくて景色のいいところでもう一度やり直したかったのだ。
「なまえさん…」
「なに?」
「僕と、付き合ってください」
そう言って風で乱れたなまえの髪を耳にかける。
彼女は少し驚いたようで、目をパチパチさせている。
「透さんは…ほんとに私なんかでいいの?」
「あなた“が”いいんです…キス、してもいいですか?」
「ばか、聞かないでよ…」
頬を赤くしたなまえの頤を掬い、唇を奪う。赤かった彼女の頬はさらに赤くなり、僕の口角は喜びでニヤリと上がった。
「透さん、意地悪な顔してる」
コツン、と僕の胸に額を当てるなまえが可愛くて、僕は乱れた拍動を誤魔化すように、彼女を抱きしめる。
「あなたが可愛いからですよ…」
「2回も告白するなんて狡い…心臓に悪いよ…」
「やっぱり嫌って言われたらどうしようかと思って…ほら、僕だってドキドキしてるんですよ」
なまえの右手を僕の胸へ持っていく。
彼女がコツンと僕の胸に額を預け、僕達は時間も忘れてその場で抱き合っていた。
翌日、快くシフトを代わってくれた梓さんに“付き合うことになった”と報告すると、諸手を挙げて喜んでくれた。