
僕はヤツらの手から逃れ、東都水族館への道程を急いでいた。
僕を助けてくれたのは、恐らく…赤井だ。
何故かは知らないが、赤井だったかどうかは東都水族館に行けば答え合わせができるだろうことを確信していた。
なんとか東都水族館に辿り着き、公衆電話からまずは覚えたてのなまえの番号に電話を掛ける。
昨晩、身勝手ながらもデートを断ってしまった彼女の安否が急に心配になってきたのだった。
『お掛けになった電話は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、掛かりません…』
「…チッ…」
不安が増幅する。
彼女は家でおとなしくしているだろうか。
彼女と付き合い始めたのはつい先日で、組織が彼女のことを嗅ぎ付けているとは考えづらいが、彼女はコナンくんという事件吸引機と知り合いになってしまっている。
僕は乱暴に受話器を置いた後、もう一度持ち上げた。
今度は押し慣れた番号だ。
次の電話の相手…風見は、すぐに電話に出た。
『えっ{emj_ip_0793}観覧車に乗れと言うんですか?』
「あぁ…定かではないが、今はこの方法に賭けるしかない…やってくれるな?」
『えぇ…それより早く合流しましょう…』
「いや、組織の目がどこで光っているかわからない…観覧車までこのままでいく…じゃあ…」
『待ってください{emj_ip_0792}降谷さん{emj_ip_0792}』
ガチャン!と音を立てて受話器を置く。
ベルモットが僕に変装してなまえを攫いに行ったりしていないだろうか…
声が聞きたい。あの可愛らしい声で、零と呼んでほしい。大丈夫だよと言って欲しい。
せめて、寝ていたとか、地下鉄に乗っていて電波が悪かったとか、そういう言い訳をしてくれと祈りながら、僕はStaff Onlyの扉からひっそりと東都水族館の内部に忍び込んだ。

東都水族館のスタッフに扮した僕は、観覧車乗り場で風見とキュラソーが観覧車に乗り込む背後にコナンくんの姿を捉えた。
そのまま僕はバックヤードを抜けて観覧車の内部に忍び込む。
「これで先回りができたはずだが…」
外に出ると、僕の帽子が飛ばされた先に赤井の姿が見えた。
「ふっ…どうやらうまく逃げ切ったようだな…」
「ヤツがここにいるってことは…やはりアレは…」
あの時、僕を助けたのは赤井だと確信した。
「照明を撃ち落とし、ヤツらの視界を奪ったあなたは…僕がまだ倉庫内で身動き取れずにいることに気付き…外に逃げたかのように偽装するため…ドアを勢いよく開け…ヤツらを欺いた!!」
赤井は静かに僕の話を聞いていた。
「お陰で僕は物陰に隠れることができ…その後のヤツらの動きを知ることができた…アレがあなたの仕業なら、どうせここに来ると踏んでいましたけど…聞かせてくれませんか?僕達を助けた了見を…あんな危険を侵さなくても…ヤツらの情報を盗み聞くことは出来たはずですよね!!」
赤井は、ゆっくりと口を開く。
「わざわざこんなところまでお喋りに来たのかな?」
相変わらず、逐一人の癇に障る男だ。
「えぇ…FBIに手を引けと言いに来たんですよ…キュラソーは我々公安が貰い受けるとね{emj_ip_0792}」
「イヤだ…と言ったら?」
「力づくで奪うまで{emj_ip_0792}」
「ふっ…」
「引けーっ!!赤井秀一〜〜〜〜!!」
僕が赤井目掛けて駆け出すのと、彼が截拳道の構えを取るのは同時だった。
拳と、たまに蹴りが混じった激しい攻防戦は暫く続いた。
僕らは上になったり下になったりを繰り返し、殴り殴られ、お互い傷だらけになって一旦止まる。
「言ったはずだぞ安室くん…狩るべき相手を見誤るなと…」
「あぁ…ヤツら組織を狩り尽くしてやるさ…貴様を制圧した後でな!!」
殴り合いが再開される。
随分拳や蹴りを食らった気がするが、アドレナリンが出ているせいか痛みは感じていなかった。
「こんなことをしてる間にキュラソーの記憶が戻り…ヤツらが仕掛けてきたらどうする!?」
赤井の目は冷静だった。
僕は大きく息を吸い、感情をぶちまける。
「ハッキリ言ったらどうなんだ!?情報を盗まれた日本の警察なんて信用出来ないと!!」
赤井は僕の拳を掴み、射るような目で僕を見た。
「俺は今、君の一番大切なものを預かっている」
「大切なもの…だと!?」
僕は赤井の手を振り払う。
「いいものを見せてやろう」
赤井はパンツの左ポケットからスマホを取り出し、僕に見せた。
「ッ、なまえ!!」
それは昨晩会ったばかりの彼女だった。
ブルーのワンピースを着た彼女は、悲愴な顔で唇を噛んで俯いている。恐らく、撮られたのは赤井の車の中だ。
「彼女に何をした{emj_ip_0792}」
攫われたのなら、先程電話が繋がらなかったのも納得がいく。心が言い知れぬ不安に蝕まれてどうにかなりそうだった。
「何もしていないさ…“預かっている”と言っただろう…君のお姫様は昨晩の君の様子から、君の命を脅かす何かがあったと察知し…待っていられず家を飛び出したというわけだ…」
「…チッ…」
「あのお嬢さんは、君のためなら命さえ捨てかねない危うい存在だ…無謀な行動に出ないよう保護させてもらったよ…先程君は、君達を助けた了見を聞かせろと言ったな?俺が君達を助けた理由は、彼女だ…」
確かに、今回の写真の彼女は拘束されている様子はなかった。
「君を傷付けるなとお嬢さんからキツく言われているが、殴り掛かって来たのは君から…過失の割合は
「クソ!」
「一つ言っておくが、お嬢さんにこんな顔をさせたのは君だ…安室くん」
赤井はご丁寧に、これを撮ったのは倉庫から僕達を助けた後だと教えてくれた。
銃声は、恐らく聞こえていただろう。怖いのも無理はない。
「強気なお嬢さんだ…銃は怖くない、君が撃たれるのが怖いと言っていたよ…」
「!!」
「もし君がお嬢さんを泣かせるようなら、俺が力づくで奪うぞ…」
ニヤ、と赤井が笑った。
僕の全身の血液が沸騰し、奴がスマホの着信に気を取られた隙をついて、僕は奴を突き落とした。
殴り合いは激しさを増していく。
僕が打ち込んだ拳が避けられ、赤井の拳が鳩尾に入り、柵に強か背中を打ち付けたところで、胸倉を掴まれた。
「もうよせ!!」
僕の怒りがそんな一言で収まるわけはなく、動きが止まった赤井の腹を蹴り、奴から逃れる。
「くっ…」
「もう降参ですか?さぁ第二ラウンドと行きましょうよ!」
拳を構え、赤井を思い切り殴ってやろうと思った刹那、子供の声にそれは遮られる。
「赤井さーん{emj_ip_0792}そこにいるんでしょ{emj_ip_0793}」
この声はコナンくんだ。
「大変なんだ{emj_ip_0792}力を貸して{emj_ip_0792}ヤツらキュラソーの奪還に失敗したら…爆弾でこの観覧車ごと全てを吹き飛ばすつもりだよ{emj_ip_0792}お願いだ{emj_ip_0792}そこにいるなら手を貸して{emj_ip_0792}」
「ヤツらが仕掛けて来る前に爆弾を解除しとかないと…大変なことに{emj_ip_0792}」
やっと、冷静になれた気がした。僕は深呼吸を三回する。
なまえのことは気掛かりだし、赤井は殺したいほどムカつくが、奴は彼女を保護したと言った。きっと彼女は組織の誰にも見つからない安全な場所にいる。
「本当か!?コナンくん!!」
僕が顔を覗かせたことに、コナンくんは驚いたようだった。
「安室さん!どうやってここに!?」
「その説明は後だ!!それよりも爆弾はどこに!?」
「車軸とホイールの間に無数に仕掛けられてる!!遠隔操作でいつ爆発するか分からないんだ!!一刻も早く解除しないと…!!」
コナンくんの訴えを一先ず聞くことにし、赤井を見れば頷いた。
「安心しろ…全て終わったらお嬢さんは君の元へ返す…勿論無傷でな」
「分かった!FBIとすぐに行く!!」
「うん!!」
そう言うと、コナンくんは安堵したように笑った。