
『ゼロ!また怪我したの?』
怪我だらけの僕を起こしてくれる女の子。
『うるさい!男のケンカに女が口出すな』
僕がそう言うと彼女は整った顔を少し歪めるが、それでも彼女は負けなかった。
『…ッ、ほら行くよ、エレーナ先生のとこ!』
僕より一つ年上だった彼女は、膝小僧を派手に擦りむいた僕を負ぶってくれた。
暖かい背中に揺られているうちに、いつの間にか眠たくなって、意識が薄れていく。
『…バカね』
ずり落ちそうになる僕を負ぶい直した彼女が呟いた言葉が、遠くに聞こえた。

ふわりと意識が浮上する。
随分と昔の夢を見たようだった。
インフルエンザと診断された翌日の朝五時、僕は比較的スッキリとした状態で目が覚めた。
未だ少し熱っぽい感じもするが、微熱程度だろう。
キッチンには、昨日僕のせいでこの家に来ざるを得なくなったみょうじ先生が置いていってくれた薬があった。
薬袋には、綺麗な字で“解熱薬”“次回服用可能時間は午前二時半以降です”と書かれている。僕が意識朦朧としていたため、彼女が見かねて書いてくれたようだった。
こんなにも人に迷惑をかけてしまったのは久しぶりである。自己管理がなっていない上に他人に迷惑を掛けるなんて、トリプルフェイスが聞いて呆れるなと僕は溜息を吐いた。
だが、もし彼女が送ってくれなかったら、僕はきっと道端で倒れていたに違いない。万が一辿り着いていたとしても、汗が冷えて症状が悪化していたかもしれないし、脱水症状を起こしていたかもしれない。言わずもがな、スーツだってシワシワになっていた筈だ。
懐かしい夢を見たのは、彼女が掛けていた眼鏡のせいでエレーナ先生のことを思い出したからだろうか。
彼女は来なくていいと言ったが、後日改めてきちんとお礼をしようと心に決め、僕は出勤はせず家での仕事に切り替えることと、あと数日ハロを預かってもらえるよう風見に連絡を入れ、彼女の置き土産を味わうべく冷凍庫を開けた。
棒付きアイスをかじりながら、僕はみょうじ先生について少し調査をする。
「みょうじなまえ、東都大学薬学部薬学科卒業、現在三十歳。薬剤師免許番号PH73101202。新卒で東京都米花市のベイカ薬局に就職。昨年、系列店舗“ジキル薬局”の開局に伴い、最年少ながら管理薬剤師に抜擢される。医師、同僚のみならず患者からの評判は上々…か…特に問題なさそうだな…」
僕は彼女について調べた内容をぶつぶつと読み上げて、口元に手を当てる。
僅かに頭がつきりと痛んだが、インフルエンザのせいだと思い僕はパソコンを閉じた。
今日はゆっくり休んだほうがいいと判断し、ソファに沈み込む。
暫くすると穏やかな眠気が襲って来て、僕はその眠気に身を委ねた。