
「もうり…じゃなかった、妃先生、お待たせしました」
私が睨みつけたお陰でしまった、と可愛く舌を出すみょうじ先生は私が通う薬局の薬剤師さん。
最初はたまたま入った薬局だったが、応対が良くその人柄も相俟ってか相談もしやすいので、最近は気に入ってここに来るようになっていた。
「ちょっとお母さん!保険証は毛利なんだからいいじゃない」
ちょっと風邪を引いただけなのに、心配して様子を見に来た上に病院まで引き摺って来た蘭が、横から拗ねたように口を挟んだ。
「あら、妃先生の娘さんですか?初めまして、みょうじなまえといいます」
可愛い!お母さん似ですね!とみょうじ先生は蘭に挨拶をする。
「毛利蘭です。母がいつもお世話になってます」
蘭は美人なみょうじ先生に可愛い言われたことに照れながら自己紹介をした。
「この子ったら、風邪を引いただけなのに心配して病院に行こうって」
「いい娘さんじゃないですか」
みょうじ先生はニコニコと愛想よく笑いながらも、テキパキとお薬の説明をしてくれる。
「そういえば妃先生、入院したんですか?」
みょうじ先生は私のお薬手帳に貼られた退院時処方の記載を見て心配そうにこちらを見た。
「この間虫垂炎になっちゃったのよ…それはすぐに処置してもらえたんだけど、あの人ったらね…」
「あらまた旦那さんと喧嘩なさったんですか?」
みょうじ先生が私に話を促すように微笑んでくれたので、私は先日、しょうもない親父ギャグをかました主人を病室から追い出した一件を彼女に話す。
「それは大変でしたね…」
こうやって私の愚痴を嫌な顔をせず聞いてくれるのも、彼女の魅力のひとつである。
「でも、妃先生。旦那さんも焦って走って来てくれたんですから、ね?」
そろそろ許してあげてもいいんじゃないですか?
そう悪戯っぽく笑う彼女には、私の気持ちなんか透けて見えてるんじゃないだろうか。
「そ、そうね…あら、随分長居しちゃったわね…お仕事の邪魔しちゃってごめんなさいね。」
「いえ、いいんですよ。妃先生の惚気話、ごちそうさまでした〜」
みょうじ先生は可愛らしく笑い、お大事にと手を振ってくれた。
「んもう!惚気話じゃないったら!」
あの時はあんなに怒って追い出したはずなのに、彼女に言われたせいであのヘボ探偵が私のために飛んで来てくれた方に意識がいってしまい、会いたいなどと普段なら絶対思いもしない甘い感情に苛まれる。
「惚気話だって、お母さん!このままうち帰っちゃう?お父さん喜ぶと思うな〜」
蘭はすごく嬉しそうにそうまくし立てるが、あのヘボ探偵が謝って来るまで許さない!と私は緩みそうになる頬をおさえて弁護士事務所へと足を向けた。