17話 優秀な奥様の処遇について


 帝と別れ右近衛大将屋敷に戻った私は一日暇を持て余していた。ネコネちゃんの視線が痛い。何もしないのも退屈で何か出来ることはと探したけれど邪魔なので大人しくしているですと言われれば何も出来ない。することがなくて退屈だ。暇も過ぎれば苦痛しかなく思い出さなくてもいい事に思考が飛んでしまうんだ。

 先日、隠密衆の皆が家を出た際私はネコネちゃんに謝罪した。オシュトルと突然こんな関係になりさぞ動揺させただろうと前置きをつけ妹の件を明かそうとしたのだが、出仕前のオシュトルが事情を打ち明けてくれたから蒸し返さなくてもいいのですとピシャリと言い切られる。妹の死に動揺しているから付いているようにと厳命されたようで、不満ながらもほかならぬオシュトルの頼みだから傍にいてくれるらしい。
「可哀相なだけですから、けっして認めたわけじゃないですからそこのところ勘違いするななのですよ」
 何を指しているのかは知らないが気にかけてくれて嬉しかった。礼を言い頭を下げると妹の代わり扱いしたら酷いですからねと宣告された。なのでお姉ちゃんって言って?と乗っかれば年上だからって生意気とキーキーかわいい。私は笑ってそのうち泣いて、私に妹の話題を振るのは地雷と気遣ってくれたのか話題が尽き、さっきから居たたまれない。ネコネちゃんはオシュトルの言いつけをやり通すつもりらしく、何か用事がなければ私から離れようとしない。実に気まずい、しかも一心に見つめてくるから睨まれてるようでちょっと怖いんだ。

 義妹の前で横になるのは気が引けた。だからせめて文字の手習いをしたいので荷物を取りに行かせて下さいと頼むが外に出て襲われては事だから兄様の許可なく外出絶対禁止が言い渡された。何でだ、もうそんなお命狙われるような状況にされてんのか私は、いつになったら溝掃除は出来るんだろう。

 すごすご部屋に戻ったけれど本当にすることがない。部屋は清潔に保たれ草子っぽい物はあるが家主の居ない間に家捜しをするのは気が引けた。仕様がないから暇つぶしに歌ってたら五月蠅いですと傍に控えるネコネちゃんがお小言を言うし。
 うるさくなければ問題ないと解釈してネコネちゃんが客の応対に私から離れた際、手を打って読んだ家人に使っても良い土地を尋ねれば用件を聞かれてしまう。屋敷の主オシュトルになにも伝えずというのは不味かったかと反省し、説教覚悟で畑を作りたいとダメ元で明かした。家人は優しくて身分や立場にあった振る舞いのお小言はなく奥様なのですから好きにしていいのですよと問題のない箇所を教えてくれた。奥様という立場は万能だ。しかし悪ノリしてヘマを踏まないよう気をつけないとと胸の内で決め、家人に礼を言い戻ってきたネコネちゃんに私ちょっと体調悪いから部屋で休むからと誤魔化した。一人の方が寝れるからと心配げに見守るネコネちゃんに手を振り部屋に戻る。人怪我無いのを確認して先ほど聞いた用具入れ目指して転身、特に邪魔もなく目的のものを手に入れた私は指定の個所をルンルン気分で耕した。
 通りすがりの家人に(さすがにぎょっとしてた。事情を話すと納得してくれたけど)育てやすい野菜を聞いて、この時期でも出回る種を買いに行ってもらい、ついでに故郷にゆかりのある花の球根も用意してもらい土に埋めた。良家の子女のする事じゃないのは分かっている。単に自分の居場所が欲しかっただけだ。
 脳内では育てる植物のことで頭が一杯で周りの状況はとんと見えていなかった。収穫もそうだが成長過程を見るのも楽しい。上手くいけば出荷まではいかなくても白楼閣の皆と食べられるぞなんて、まだ見ぬ野菜に心弾む。気分は有頂天である。
 いい汗かいたと額を拭い水を巻き、さあ明日から忙しくなるぞと鍬や桶を片付けていると仁王立ちするネコネちゃんと目があった。
「なにを、しているですか……?」
 妹様は拳を握り震えていた、尻尾どころか全身が。正確には持つお盆毎、乗った湯呑も揺れていた。お茶出ないのは見なくても理解できた。だって薬湯の香りがしてたから。私を気にかけてくれたらしい。優しい子だ、ネコネちゃんの気遣いを無下にした私が悪い。ちなみにいつから彼女がいたかは分からない。不味い状況なのは悪ノリしがちな自分でも理解できた。
 止めようとしてくれたのだろう、ネコネちゃんの後ろで中途半端に手を出していた家人が手を合わせ必死に謝罪の言葉を口にしている。貴方は悪くない、血迷った私が悪い。
「もう一度聞くのです、何をしているですか?右近衛大将の屋敷で平民出の貴方が、この武家屋敷で何を?」
 これは多分超怒っている。土まみれの手を指さすネコネちゃんは爪先まで震えていた。私は慌てて仕事が忙しいオシュトルの滋養強壮にと言い訳が浮かぶが、あからさますぎて誤魔化せないと方針を転換した。
「し、執務室の飾りに手製の野菜をどうかと」
「飾る馬鹿がどこにいるですか〜〜っっ!」
 ごもっともです。
 妹様は激昂し怒りのままに素足で畑を踏みならした。妹様に確認しなかった私が悪い。

 怒りはしたものの人様の物を足げにするのは多少気が咎めたんだろう。しょんぼりする私にネコネちゃんが早口で踏みつけたことを謝罪し、噓をつくのが悪いのだとふんぞり返る。反論のしようもなくひたすら平身低頭でいると多少哀れに思ってくれたのだろう、そんなに暇なら手ずから教えてやるのですと手招きする。片付けどうすればと狼狽えていると必死にえっちらおっちら優しくしてくれた家人が片付け始めた。
「何してるですか、とっとと来るですよ」
 ごめんねと手を合わせて拝みネコネちゃんの後を追う。家人は逆き謝ってくれて振る舞いには気をつけないと密かに思う。誰であろうと迷惑は掛けたくない。

 気を取り直しのこのこネコネちゃんに付いていくと、書棚を置いてある部屋からいくらかの書籍と雑紙を取り文句言いながら差し出してくれた。勉強しろって事ね。頑張るわ、ありがとうと受け取ろうとすれば執務室に来いという。ワッツ?まさかとは思うけど文字のご教授してくれるの?
 答えは勿論、書類の束を翳されてこれから書類整理をするのだと告げられた。やっぱ邪魔でしかないかと立場を省みて反省するが意外にも面倒見は良いのか、整理中に文字を読めば理解しやすい、仕事の片手間手習いも指導出来ると補足され、なるほどと私は納得した。

「この文字はこの読み方であってる?」
「そうですが汚いです。もっと勢いを付けてください、滲んでます」
「ああ、ごめん……こう?」
「そうです……ちょっとぶれてますよ、一息です!間違って伝わったら意味ないです」
「う、うぅ……」


 ネコネ先生は大変厳しかった。以前読めて書けりゃ良いとウコンから習ったけど書き順から文字の運びまで懇切丁寧にご指導戴いた。書類整理は私を引き留める口実だったそうな。オシュトルも屋敷に留めたとき同じ言葉を口にしてたわ、似てるな兄妹。
 オシュトル様の文字を手本にするですネコネちゃんがと棚からなにやら出したけどいいんかそれは。
 機密じゃない?と確認すれば人目に触れて困るものを手に取れる場所には置きませんと返されて、そりゃ内々だから許されてんのよ、部外者が見る前提ないでしょと言い募れば奥を任された人の目に触れて困るモノないなんてないです、もっと堂々と振る舞うです!と豪語されてはもう何も言えず粛々と手習いに勤しんだ。
 奥、私が奥さんねえ……
 ネコネちゃんは納得いかない様子だけど目を瞑る気にはなってくれたんだと、嬉しくてニついヤけててしまう。優しいなあと感謝していると何ですか!とっとと動くですと牙まで剥いてお冠になるので慌てて草子に視線を戻した。
 オシュトルの文字はぶれがなく見やすい、まさにお手本に相応しいものだ。
 見比べてわかったけどウコンの文字は少々ぶれて豪快、いかにも裏社会に身を置く任侠者が認(したた)めそうな文字運びで、筆跡まで立場に応じて変えれるんだから本当にオシュトルは凄い。
「ちょっと待って下さい」
「何か問題あった?」
「……いえ、大丈夫です。ナナコさん手習いはもういいです、読めるならちょっと手伝っていただきたいものが……」
 ネコネちゃんがまた別の包みを取り出した。及第点出たから仕事を任されちゃうみたいだ。やったね!手習いから本格的な書類整理の手伝いに昇格だって。
 よかった、ただ飯ぐらいでいるの正直気まずかったから嬉しい。よしっ!任された分は手抜かりないよう頑張らねばと私は意気込んだ。

 ……よかったよかったと喜んだけどよく考えるべきだった。オシュトルは働き者だ、公私なく勤勉実直滅私奉公の固まりがオシュトルだ。実妹のネコネちゃんもあのオシュトルを崇拝する信奉者でくそ真面目、しかも超秀才と来れば任される仕事量は半端ない、そこに気づくべきだった。

 達筆すぎて読めない文字を後にして出来る範囲を片付けていけば次々仕事が舞い込んだ。
 喜んだのは初めのうちだけだ。オシュトルの執務室で彼の卓を使うわけにも行かず、客間の卓を持ち込んでせっせとその上に書類を広げて流し見る。
 昼の鐘が鳴り一休みを申し出ればネコネちゃん直々に膳を卓に届けてくれた。
 うんざりしつつ食事が終われば、また重なるよく分からない計算書付きの書類が間違ってないかの確認を行い(間違ってれば雑紙に正しい答えを書き挟んだ)済ませて終わりと思いきや、巻物付けの手紙の優先順位の分別並び替え。
 いいのかこれ重要書類だよな明らかに!八柱将の名前があったぞ!なんだよ会合の連盟文って、何を妹ちゃんは内々の妻に確認させてんのよ。突っ込むのも怖いから見ない振りするけどさあ。

「ちょっと」
「そこっ、はらいがおかしいですよ」
「文節が間違ってます書き出しはこう!」
「間違い理解してるのに他で間違うとはどういう事です?」
「オシュトル様はそんな抗議致しません!」

 ネコネちゃんの文句が右へ左へ飛んでくる。おかしいな、最初は、ふふん私優秀でしょ?ハク以下でもそれなりに使えんのよと優越感感じてたのに、なんでぼろくそに叩かれてんの?
 そしていつの間にか絶対にまねちゃ行けない人の代筆してない?やばいって、バレたとき連座されかねん、つ〜か連座確定の公文書偽造に携わってるし。妹様が言うならいいんかな?良くないけど、オシュトルが止めてくれるのを信じて今は筆を動かすしかない。だって立場ネコネちゃんが上だからね、邸に来た年月に実績その他諸々。
 誰か助けて〜なんて祈ってももちろん助けは来なかった。

 淡々とこなした。時折正座を崩すとだらしないとお小言が飛ぶので足が痺れたと訴えても慣れなさいと言われて、うんざりしながら姿勢を戻し文字を綴る機械のつもりで積み重なる巻物の誤った箇所を正す作業に没頭した。

 雨音に気づいた所で書類整理どころじゃない事態に我に返る。外から入り込む湿気を纏った冷たい空気に身を震わせれば横からネコネちゃんお手製のお茶が入りこれ幸い礼を言って喉を潤した。渋い。
「手習いどこ行った……」
 暮れていく外の気配につぶやけば目聡い小姑がサボるなですと声を荒げた。
「ぼやく前に手を動かす!」
 きっ、厳しい〜〜!



「そろそろいいでしょう」
 傍でいつの間にやら繕い物に専念していたネコネちゃんが盆に処理した巻物を載せて頭を下げる。
「お疲れ様です、あらかた片付きましたね。これはいずれオシュトル様にお目通しするものです。簡単な分類分けが可能か試したのですが中々のお手並みでした。ついでに色々させましたけど今日のことはきちんとご報告致しますです。
 ナナコさんが読み書きできて助かったですよ」
 天才のしかもネコネちゃんにお褒めにあずかり光栄だが読み書き程度じゃすまない仕事だった。室内の光源は夜光灯のみで日はとっくに落ちて暗い。超頑張った、偉いぞ自分と胸中で労い、やっと解放されると立とうとして床に落ちる。足が痺れすぎて立てない。疲れた。
「お迎えはネコネが致します。ナナコさんはゆっくり休んでください、その調子じゃしばらくは立つのも無理でしょうし」
「オシュトル帰ってきたの?」
「はい、今声が聞こえました。今日は早めに切り上げられたようですね」
 亜人は耳が良いなあ。そりゃお出迎えせんとと立とうとするけれどネコネちゃんは構わず出て行き置き去りにされた。ちょっと酷くないとむくれてよいせと卓に捕まるけどやっぱ無理でへたれ混む。頬に当たる床の冷たさが気持ちいい〜。

「大丈夫かナナコ殿」
 失礼すると声を掛けどうぞと促せば入室したオシュトルが心配げにこちらに寄ってきた。
「オシュトル、お帰りなさい」
「これは……休んでいろと言い含めたはずだが」
 周りを見回し、分類付けした書類の束を見やって咎めるような物言いをするオシュトルに焦る。
「あ〜それはだね、私が仕事したいって言ったからで」
 落ちる雷に備え言い訳をする間に襖(ふすま)を閉めたネコネちゃんが両手を地に着け遮るように頭を下げた。
「オシュトル様にお話しがございます」
「……聞こう」
 めっちゃ不穏な気配に戸惑う私だけど、ネコネちゃんが視線で私を流し見て滞在されたくないのを察した。立ち去ろうとするが立つのにまた失敗する。
 見かねたオシュトルにまずは休まれよと抱き起こされ寝所に連れて行かれ布団に降ろされた。ここに来るまでまったくの無言が怖い。
「ネコネちゃんは悪くないんだよ。私が無理を言ってからで」
「まずは言い分を聞かねば」
 ではと襖を閉め去る背にあたふたしたけれどどうにも出来ず、大人しく彼の帰りを待つ。大丈夫、罵り合う声も聞こえないから大した話はしてないはずだ。してないはずだけど……

 その日オシュトルは戻ってこなかった。夜遅くになっても戻らず気になり寝所を抜け出すと扉の外で控えていた家人の方が、用事が出来て帰投できない旨を詫びる言伝を伝えてくれた。食事もネコネちゃんが共に食べたいと待っていると教えてくれたので怖々広間に顔を除かせれば仏頂面の妹様が席に着き私の到来を遅いですと罵ってくる。
「だ、大丈夫だった?」
 頂きますと手を合わせ遅い食事をつつく間に尋ねると溜息をつかれた。
「雷が落ちたです……」
 オシュトルの雷ってどんなだ。拳骨か説教か、鉄拳制裁好む人ではなさそうだから後者だろうが。
「全部全部、ナナコさんのせいですからね。私一人が悪い訳ではないのにオシュトル様は兄様は……」
「ネコネちゃんは頑張ってるよ、えらいえらい」
「……元凶に褒められても嬉しくないのです。しかも雑ですし」
「秀才天才、なのに才に溺れぬ努力家兄の似美少女。私が男ならネコネちゃん絶対ほっとかない。友達になろ?」
「っ!胡散臭すぎて反吐が出るです。おべんちゃらはいいから食べるです!意味分からない御託はもう沢山です」
「はーい、大人しく食べまーす」
 何を話してたんだろう。めっちゃ不満そうにぶつくさ言ってるけど、蒸し返すのも気が引けて後は黙々食べるのに専念しといた。
「お残しは子供のすることですよ。好き嫌いせず食べなさいです」
 うっ、お残ししてる妹ちゃんに言われたくない。でも姉という手前頑張って口にした。いいじゃん一口だけでも、そんな目で見ないで。多すぎて食べれないのよ。


 家人の言伝通りオシュトルが戻ったのは日も開けぬ丑三つ時だった。待ちくたびれうたた寝していた私がかすかに寝室の戸が開く音に目を開ければウコンがいた。悪い起こしたか、と続く言葉に首を振り明かりを灯そうとするが止められた。これから聖廟に行くから不要だと言いながら服を脱ぎ捨てもの凄い早さでオシュトルの身形に整えていく。凄いな早き替え、なんとなく見るのは気が引けて視線を逸らせば衣擦れの音を意識してしまいどこか落ち着かない。ふと昼の出来事を思い出し尋ねてみた。何故ネコネちゃんを責めたのかと。
「文官に其方を押されたのだ」
 仮面を付ける前のオシュトルの顔を貴重だなと眺めていると思わぬ言葉に耳を疑った。
「は、誰が?何で?」
「ネコネだ。読み込みが早く過ちにもよく気づく。右近衛府の雑務処理を押された。某にその気はないのだがな」
 やれやれと言いたげな溜息に溜息をつきたいのはこっちだとも思う。兄弟共に相当毒されている。隠密衆の一員として私は雇われたんだとすっかりお忘れのようだ。
「其方には家に居て欲しいのだ。どこでどんな危険に見合うかもしれぬ、外に出せば無事に帰ってこぬやもしれんと危惧してな。ネコネに過保護すぎると言われたが最後は納得してくれたのだ。あの子もそれなりに察するものがあるらしい」
 どんだけ危険なんだよ外〜。そもそも私にそんな魅力はないんですよ〜。まやかし幻覚気のせいなのに。滅亡から数百年たっても有効だなんて、凄いなあ大いなる父の遺伝子って。
 私は苦笑いで間違いを指摘する。
「ネコネちゃんが正しいって。私拐かされるほど地位も名誉もないし美人でもないから杞憂だよ」
 へらへら笑ってみせるけど、美人過ぎる旦那様は相当目が疲れてんのか眉根を寄せて否定してくる。
「わからぬぞ、某のように立場を忘れ手に入れんと画策する者が出ぬとは限らん。注意するに越したことはなかろう」
「買いかぶりすぎ〜」
「某の妻というだけでも危険なのだ。現に女を連れて戻ったと張り込ませた草から聞いたのか、高官方に尋ねられた。濁したが誤魔化しきれるものではない。直に其方の存在は殿中の方々に漏れる。オーゼン殿の娘に手を出す愚か者は早々おらぬが、力ずくで弱みを作ろうとする者は少なくはないだろう」
「心当たりがあるの?」
「二三ほど。証拠がないため捕縛出来ぬのが辛いところだ」
 うわあ怖い世界。ドン引く私を見てオシュトルは某の手勢で守れば済む話だと気遣ってくれる。
「そもそもがだ、其方の体を労ろうと一計を講じ病み上がりという話しとしたのに、匿う邸の者が机仕事を押しつけるのは本末転倒ではないか?そうだろう?」
「ええっと……」
 そうですねと頷くには私を買ってくれたネコネちゃんに申し訳なくて頷けなかった。
「畑仕事に精を出していたとも聞いた」
「うっ!」
 ネコネちゃん情報ですね?夫の気遣い無碍にしてすみませんねと思えば完璧に私の負けだわ。
「暇だ〜って騒いだ私が原因な訳で、ネコネちゃんにはあんまり厳しく言わないであげてね」
 お願いしますと拝んでみたけれど意地悪げにオシュトルは眉根を上げる。視界の暴力!
「ほう。ネコネから其方は終始大人しかったと聞いたが」
 ネコネちゃん疑ってごめん!
 家人の方が私が昼どのように過ごしていたかを報告したそうで、まるで妹様が仕事を押しつけたような物言いに違うのよ抵抗しない私が悪いのよと言い募れば堪えきれなかったのか破顔成された。
「大丈夫だ、殊更に責めてはおらぬしその気もないよ」
 妻をからかってみただけなのだと弁明されて憤るより私はほっとした。たった二人の兄妹だ、私が原因でこじれて欲しくなかったから、良かったと思う。

 仮面をつけたオシュトルはそこで区切りがついたのだろう。卓から懐紙を取り出しその上に刃物と妙薬を二つ置いた。卓の鏡台に掛かる布を外して蓋を開けた白いクリームを頬に付けていく。何をしているんだろ。じっと見ていると男が顔を剃るのを見るのは初めてか?と声を掛けられて驚いた。生えるんだ、そっか、そりゃ生きてるもんね。男女関係なく生えるよねムダ毛って。

 オシュトルでもか〜……なんか見ちゃいけないものを見た気がする。今更だけど私体弱いのに甘えてなんの手入れもしてなかったのが若干後ろめたいわ。そりゃ肌が荒れるから化粧水に近い液とかクオンに作って貰ったりウコンに用意して貰ってたけど、甘えまくってて悪かったかなあ。多少は私も気に掛けるべきなんだけど、懐も寒いって言い訳してたわ。多少重くなったら務めるべきですかな?それまでは甘えさせて貰ってもいいかしら。
 なんて算段を付けてるなんて思ってもいないんだろう。神妙に頷く私の前で鏡に写る己を見ながら刃先を当てて身嗜みを整えるオシュトルが語る。
「殿中の方々に拝謁する際に失礼があってはならぬ。気にせぬ者は気にせぬが、某は若輩の身ゆえ一つでも弱みを見せぬよう身拵えにも抜かりなきよう努めている。
 尊き方々の大半は臣下に任せるがこの通り昼夜ない仕事でな。出来ることは己で済ませているのだ。一々家人を起こすのも忍びない」
「大変だねー」
「慣れればそうでもない」
「……手伝った方がいい?」
「いや、ネコネが居るときは任せもするが、大抵は一人で済ませるからそう気負わずとも良い。其方は楽にしていてくれ」
 ……それってさあ、いる意味あるのかねえ私。寝て良いと言外に言われたけど突っ伏すのもなんだかなあと思ってなんとはなしにオシュトルを見続けている。夜の帳(とばり)に湿った空気、雨音だけが響いていた。
「寂しいか」
 剃り終えたのだろう、背を向けたまま透明な妙薬を頬に塗るオシュトルに問いかけられて考える。
「……どうだろ。前ほどじゃない、昨日の今日だけどそういう実感最近は余りないから、大丈夫だよ」
「そうか」
「うん、あ、でも……力になりたいとは思ってる」
「気持ちだけでも某は嬉しい」
 必要ないと言われた?実際要らないんでしょうよ、部下どころか家人も優秀でハクという手駒も手に入れたもんね。でもね、好きな人の役に立ちたいって気持ちは私でもあるのよ。
「手伝えることはない?」
 再度尋ねるとちょっとの間の後、家にいてくれるだけで充分力になっているって向き直ったオシュトルが返してくれたけど私にはどうにも腑に落ちず、相変わらず視界の暴力が酷くてまともに見えない顔を一生懸命視線を逸らして相対し、しつこいのを承知で畳みかける。
「待つだけじゃなくて力になりたいんだ。重要機密をどうこうなんて考えてないよ。
 他の分野で、例えば……溝掃除とか」
「溝掃除だと?」
 囁くように告げる言葉は意外だったんだろう。確認するように復唱された。
「オーゼン殿の前でも言っていたが本気か?」
 私は頷き選んだ理由を説明した。
「退屈って我が儘言う気はないけどさ、暇だと色々余計なことも考えちゃって。少し体を動かせばすっきりするかなって。溝掃除を選んだのは、慣れない訓練一人でするより隠密衆の皆と町を掃除して綺麗にすれば体も鍛えられるし町の並びとか覚えて一石二鳥、って思ったんだ……浅はかかな?」
「右近衛大将の妻が溝掃除か」
 うっ、そういや私ってめちゃ偉い立場の人の嫁になったんだったわ。おまけに名ばかりとは言え一國の皇の養女にもなってたし。確かに外聞悪いよね。バレたときオシュトルどころか快く受け入れてくれた義理の父の体面も汚しかねないお仕事だよね。
「や、やっぱ体裁悪いよねっ。うっかりしてたわ〜、知ってる人はもう知ってるもんね私がアレだって。ごめんねオシュトル無理言って。大人しくしとくべきだったわ!」
「いや、某は構わぬ」
 いいのっ!?身内に激甘のオシュトルにもこの案はさすがに反対されると思ったけど、うむと正座でこちらを見るオシュトルは快く頷いてくれた。
「隠密衆と共に従事すれば身の安全も保証できる。鍛える提案にも賛成だ。其方は脆弱すぎる。鍛錬に勤しむ判断は妥当だろう。後日白楼閣に使いを出す故その時にでも溝さらいに励むといい」
「あ、ありがとう〜!!」
 両手を取れば驚いた顔をされた。気安すぎた、出仕前に私の匂いが付いたら要らぬ邪推を買うと触れないように気をつけてたのに、自分からヘマするなんて。嫌だと思われたかもしれない。
 嫌われたくなくて、慌てて手を引っ込めようとするが握り返され引っ張られた。そのまま抱き寄せられる。
「オ、オシュトル……」
「しばし、このままで」
 強い力だ。乞うような響きに抵抗する気も失せて大人しく腕の中で縮こまる。
「畑仕事の件もそうだが」
「う、うん?」
「其方は何でも自分で解決したいのだな」
「や、畑仕事は偶然で土に触れたかっただけなの。頼りたいときは思いっきり頼ってるつもりだよ?」
「なれば良い。家のことならば其方の好きにしてくれて構わない。野菜を育てようが花を埋めようが其方ならば加減も分かろう」
 よっしまさかの許可でたから右近衛邸花屋敷にしてやろうっと。
 妻に甘過ぎと忠告も兼ねた悪ノリにオシュトルはツッコミもせず楽しそうに微笑んでいた。
 どうしたんだろ、なんか凹むような事でもあったんだろうかと案じるけれど、衣に焚かれた香の匂いが鼻を擽りついでかすかに感じるオシュトルの香りにほっとする。
 でもそれ以外にも匂いがするな。甘く腹に溜まりそうなこれは……お酒?
「控えめなのは美徳だが過ぎれば毒だ。気のない素振りをされても辛い」
 なんか珍しいことも言ってるし、これはアレか。
「酔ってる?」
「あらかた抜けた、酔ってない。聖廟に着く前には微塵も残さず消えるだろうよ」
 それ酔っ払いの常套句だから〜。まあ敵だらけの宮中を渡ってきた人だ、疑うのも失礼かと背を撫でて励ました。接待か仕事の引き継ぎか、ウコンで帰ったからおそらく後者。相手が誰かはあえて聞かない、呑みたいときは誰しもあるでしょうし。
「気をつけてね。誰と呑んで来たかは知らないし聞く気もないけれど、くれぐれも酩酊して行き倒れないように」
「心得ている。いずれナナコにも紹介しよう。だが今は出仕だ」
 そう言うくせに、有無を言わさず顎を取り熱烈な口づけを送った奴は腰の抜けた私を置き去りに、行ってくるとだけ言い残し颯爽と部屋を出て行った。
 散々翻弄された私はせめてもの意趣返しに放り投げられた服を畳んで正妻面しとこうと散らかる服に手を伸ばし、重く濡れたそれにウコンが雨に当たった事実にようやく気づいた。急ぎすぎ、せめて一声掛けて貰えたら布巾で体を拭いてあげたのに。濡れ鼠で送り出してしまったと後悔しても後の祭りだ。
 今度は、今度挽回できる機会があればちゃんとする。そのためにも今は一休みと横になり、翌日しっかり寝坊してネコネちゃんのキツいお小言で目覚める羽目となった。

 畑は屋敷の寝室端に作らせてもらった。寝室から見えない所に一坪程度の野菜と花の種をネコネちゃん監視の下巻いた。月見酒を好むオシュトルの邪魔にならないように配慮したつもりだが当人は不満のようで、収穫が終われば見える位置に移動するよう要請を受けてしまった。三日坊主で適当に済ませるつもりだったからこれは手を抜けないと私は余計に張りきり鍬を持ち続け手の皮がむけた。ずるむけである、痛い。仕事が出来たとはしゃぎすぎたのが悪かったのかもしれない。ネコネちゃんにも呆れられたし。
 幸い大したことはなく、帰投したオシュトル直々に軟膏を塗られながらこんこんと張りきりすると説教を食らう間に肌も保護されたので万事解決である。人に任せて良いと言われたが自分で初めたからには最後まで責任を取りたいと適度に力を抜きつつ畑の世話をするようになった。
 今日も晴天、頭に巻いた手ぬぐいからしたたる汗を拭い空を仰ぐ。地面には苗が芽吹きする事がないと腐る私の心を慰めてくれる。
「いや本当、何やってんだ私……?」
「ネコネが知るわけないじゃないですか。行儀作法に花の生け方学ぶべき勉強はたくさんあるというのに、何で好き勝手許してるか、こっちが聞きたいぐらいです」
 私が変なことをしないよう見張りながらネコネちゃんは書類整理に勤しみ廊下で愚痴を零す。付き合わなくても良いのに付きまとう理由は知らない。彼女の優しさだと思う方が穏やかでいられるから、今日もありがとうと 礼を言い草抜きに没頭した。




 そんなこんな腐りつつも健やかな日々を過ごす内に溝掃除をする機会がやってきた。出仕する際にオシュトルが白楼閣に使いに出るよう家人に頼んでくれたようで、朝食を食べていると迎えにハク達がやってきた。花屋敷計画はそれなりの収穫物を得てから実行に移すとして草抜きやら土の攪拌に精を出しているところを迎えに来たものだから、大事にされてないのかと憤るクオンとの問答がありハクのツッコミで事態は収束する。
「甘やかされてんだろ。どうせなら自分と代わってくれ」
「えっ、そうなのかな?」
「そうなんだってば!私の希望で畑を用意してもらったの。大事にされてない訳じゃないから大丈夫だよ、クオン」
「ごめんねナナコ、早とちりしちゃったみたい」
 聞く耳を持たず怒りまくった自分を省みたのか恥ずかしそうに縮こまるクオンに心配は杞憂だと胸を張る。
「オシュトルは本当に優しいんだよ!私がね、いつか屋敷を花まみれにしたいって言っても笑って許してくれたの!」
「えっ? そ、それはどうかと思うかな?」
 戸惑うクオンに内心で頷いた。武家屋敷が花まみれは良くないよね。威厳に関わる。だからこその一坪なんだわ。
「そりゃ聞き流されただけだ。一々病人つついて悪化させてもよくないと思ったんだろ」
 ごもっともの指摘だが多少遠慮はあったのかクオンとネコネちゃんにハクは鳩尾を打たれ呻いた。
「そんな酷い事言っていいのかなあ? ハクが寝付いたとき花差し入れしてやんないよ。散るのは可」
「悪化するからやめろ、演技でもねえ」
「嘘だよ、ちゃんといい花差し入れするね。花は癒やし効果あるから弱いハクなら効果覿面ですぐ治るかもよ」
「プラシーボだから、効くわけねえから」
「花で癒されるわけないじゃないですか。何馬鹿言ってるです」
 ぶつくさ文句を零すネコネちゃんだが花の中にも薬効があると諭すクオンには同調し馬鹿言うからバカ移ったですと私を睨んでくる。ネコネちゃんとは仲良くなりたいのに中々上手くいかない。
 とりあえずハクに礼を言うと程々にしとけよなと忠告された。もちろんだ、クオンの後ろで涙目で睨みつける義妹の好感度をこれ以上下げたら円満な関係破綻しそうだし。

 目的地へ向かう途中で仕事の流れを聞いた。空は曇天、昨日の雨で泥が詰まった箇所を掃除していくらしい。ルルティエちゃんはお姫様だからお留守番だ、高貴な方に溝浚いは無礼だからなとはハクの弁だが、隣でネコネさ〜んと笑顔で手を振るエンナカムイ皇子のことも思い出してあげて下さい。ネコネちゃんも超おなざりに、あ、キウルじゃないでしょ。自国の皇子だよ?もっと大事にしてあげて、私がネコネちゃんと同じ立場なら多分同じ反応してると思うけど!
 張り切る私に対しハクは明らかにやる気がなかった。道具を右近衛邸倉庫から持ち出して手押し車で目的地までえっちらおっちらやってきたけど全部クオンが後ろでぴしんぴしんと尻尾をしならせてやっと動く有様だ。そんなにキツいのと尋ねればやれば分かるよと返される。実地でやればわかるかと袖を襷(たすき)で括(くく)ろうとして失敗、見かねたクオンに結んで貰った。

 さあやるぞと構えたけど、当のクオンに見学のお達しをくらってしまう。何故と訴えればクオンはにこやかに病み上がりだからひとまずハクやキウルの動きを見て学んでねと微笑んでくれた。どうせそんなこったろうと思いやしたよとハクは嘆息しキウルを連れて溝の泥をだるそうに装い始めた。
 女性陣は男衆が掬った泥を車に積みごみ集積場に運ぶんだそうだ。

 最初は大人しく二人の動きを見てたけど、見てるだけというのも気が咎めて仕方がない。
 クオン達が集積場に行ってる間にそっと溝に降りる。鬼の居ぬ間という奴だ。咎めるキウルにハクは視線だけよこし放って置いてくれるらしい。
「……後で泣きを見るなよ」
 ごめんもう泣きを見てる。なにこれ、側道降りただけなのにもの凄い臭い。下水じゃないよ、帝都溝だよここ。泥とヘドロと言いようのない嘔吐感を催す刺激臭に私の鼻がもげそうになる。足もだるい、長靴用意して貰ったけど粘着力凄くて結構重いんだなコレが。私の呟きに深くハクが頷く。
「自分も最初はそう思った。慣れればどうってことない、と言いたいが、泥にゴミに羽目を外した誰かさんの吐瀉物が混じってな、結構きついんだわ」
「想像以上だね……」
「だろ?マジで倒れそうなら上がっとけよ。病み上がりに無理させて絞られるのは嫌だかんな」
 へ〜いと返事をしてクワを泥に振り下ろす。うわ腐っ!でもこんなことでへこたれていられるかっ、自分からすると言い出した仕事だ、できる限り全うしてやると腹を括って私は頑張った。

 頑張ったと思う、頑張ったけど甘かった。倒れはしなかったが溝浚いは中々の重労働のようで直に疲労で動けなくなった。
 上がって休み二人をなんとはなしに見ていると、重心のかけ方から持ち上げ方からして私と違う点に気づく。腰は負担が掛からないよう膝を使い腕は肘で上げず肩に重心を掛け腕全体で持ち上げる。目から鱗だ、クオンの言ったとおり先達から学ぶべき事が多い仕事だった。
 感心した私は早速試そうと溝に降りようとするが襟首を掴まれ溝に降りるのを阻止される。
 振り返れば黒いオーラを纏った保護者様がお帰り遊ばせていたようで、男衆もすっとぼけてくれたけど誤魔化せず以後は正座で見るだけの寛大な沙汰を下され私は涙した。

 結局その日も足を痺れさせ、くたくたのハクに背負われて帰る羽目になったのが申し訳ない。
「次はもっと頑張るね!」
 匂いも慣れれば問題はなく単純作業とは言え楽しかった。反復運動が私は好きなのかも知れないと豪語すれば背負うハクが心底嫌そうに理解できないと吐き捨てるのも面白かった。ハクは根っからの理系らしい。
 溝掃除が終わったのは昼中だ。正午を告げる鐘の音でそろそろ終わりに仕様と保護者さんが手を叩き一同帰路につくことになった。

 さて私は右近衛邸へとハクをせっつくがお前はこっちだろと白楼閣まで背負われた。ネコネちゃんも何も言わないので黙って連れて行かれたけど納得のいく理由をルルティエちゃんが用意してくれていた。

「皆様お疲れ様でした。ご飯の支度を整えましたのでどうぞごゆっくり食べて下さいね」
 どこの料亭ですかと言う膳が、詰め所となった一室に沢山並べられている。聞けばルルティエちゃんお手製で実家では城の台所を預かっていた身らしい。姫とは言え預かって貰った身で何もしないでいるのは心苦しく、時間があるときは隠密衆の皆の食事を用意するのが楽しいのだと朗らかに笑っていた。
 並んで席に着きいただきますを号令に頂いた料理はどれも味細やかで残すのが勿体ないほどだった。しこたま礼を言い、折角だから余った料理はウコンへという名目で器によそって貰う。デザートもこの世界では初めて目にするもので、聞けば私とウコンが長期不在の折にハクとルルティエちゃん二人で考案した甘味だそうだ。ルルとシュウはハクさんの助力なくしては作れなかったとても美味しい甘味なんですよ、とルルティエちゃんに綻ばれてお姉さんの胸はもうきゅんきゅん。
 嫁さんに貰えよハクお姉さん一番のお勧めだよと囁くけれど姉でもないしそういう対象に見ていい奴でもないだろと朴念仁はとりつく島もない。身分違いって言うけどそれ逆だからねと呟くが記憶のないハクに通じるはずもなかった。は?と呆れられたので何でもないとだけ返しておく。

 食事の後はハクは部屋を退席した。文字の手習いを保護者に強制されたらしくそれが終わるまで自由がないと自主的に自室に引っ込んだ、明日も溝浚いがんばろうねと声を掛けたけど聞こえるのは嫌だ〜と嘆く声ばかり。出された教材を流し見て思う。
 あれで手習いとか、この世界では難問の四則演算を手習い扱いとはさすがハク。やる気と体力があれば完璧なのに、超ハイスペックを生かせないのが釈然としない。
 苛立ちをよそにやり、さてそれじゃ我々もお暇(いとま)しましょうかと筋肉痛を訴える体にむち打って席を立てば、クオンが首を傾げる。どこに行くの?と聞かれてそういや事情ちっとも明かしてないと今更気づいた。やっべどうしよ。
「姉様にナナコさんが元気か見定めてもらってから白楼閣にお戻しする予定でしたので報告に戻ります。ナナコさんをもうしばらくお借りしても良いでしょうか?」
「なんだそうだったの。いいよ、部屋代も浮くし逆に大歓迎かな」
 は、薄情。いやセーフ!ネコネちゃんナイスフォロー!心の内で胸をなで下ろし、でも経過観察はしたいから服脱いでと言われキウルは詰め所を叩き出された。

 簡単な診療を行い完治してるのが逆に変と訝しむクオンの太鼓判を受け意気揚々私とネコネちゃんは右近衛邸目指し帰路についた。


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