19話 手を出さない理由
朝食の用意が調ったと報せに来た家人に続き居間を目指す最中、執務室の前を通る。換気のため半分開かれた部屋内を通り抜けざま視線をやるが。昨晩の血なまぐさい痕跡は欠片も残っていない。何事もなかったみたいだ。先導する家人に尋ねはせずひっそり思った。オシュトルは優秀な臣下に恵まれているようだ。私は武人じゃないから殺し合いとか暗殺とか遠い世界のようにしか感じられないけどオシュトルが無事に帰ってくれるならそれでいい。
家主のいない席で朝食をネコネちゃんとつまみ今日の予定を教えてもらった。少し体調を私は崩したから今日は一日屋敷に留まるようにとのおっ達しがオシュトル直々にあったらしい。すこぶる元気ですが寝不足以外。そう力こぶを作ればげんなりした顔であの方の過保護も度が過ぎて困るですと溜息をつかれてしまった。
「昨日のこともお話し致しました。花を書斎に飾り付けているが誰が用意したのか聞かれたので巡邏の際一悶着あったとご報告したところしばらくお一人の外出は禁止とも仰っていたです」
「それはごめんね。わざとじゃないのよ」
「わかってるです、わかってるから張り切らないよう申し上げたいのです。溝掃除に書類仕事、オシュトル様が言われたようにナナコさんは病み上がりなのです。きついお仕事なのはネコネも知っています。
張りきりすぎなのです。ナナコさんはご自分を元気だと言いますが、不調なのはネコネからみても明らかなのですよ。だから今日はお休みなのです」
どっちも過保護という指摘は飲み込み何が不調なのか考えて思い当たる出来事に口をつぐんだ。
「オシュトル、今朝何か言ってなかった?」
「?……ああ、差し入れとても美味しかったと仰ってたです。花も癒やされたとかでとても嬉しそうにされておりました。よろしくと言ってたですよ……お姉様に」
「ふふっ、気の利く妹が居てくれて私も嬉しいよ」
「内だけです。外じゃ呼びません。姉面するななのです……精々オシュトル様の前だけですので調子に乗らないように」
「はいはい♪」
夜分の出来事はやはり内々に済ませたようだ。知らぬが花と言うことだろう。そう結論づけた私は静かに過ごした。
楽なのはいい、何もしないで穏やかに過ごすのは万々歳だ。厭うことはないのだがこうも好きにさせて貰えるのは逆に居たたまれない。
ぶっちゃけ暇だった。手持ち無沙汰に昨日買った本を数冊流し見るが思ったよりも楽しい。
亜人に人間が作った情感溢れる趣味が表現できるかとなめていたけど、中々どうして説得力があって面白い本ばかりだった。番付があるぐらいだから玉石混合、中には自分に合わない本もあるんだろうが、どの本からもカップリングへの溢れる愛を感じる作品ばかりだ。
詩的表現に優れた日記小説、戦乱に揺れる架空戦記の中で育む愛、淡々と軍事戦記を綴った者から純愛鬼畜ほのぼのギャグ、果てはエスエフまで網羅されてて亜人のお腐れ本は奥深い。正直貴腐人が作るやおい本に勝るとも劣らない出来だ。なめていたのは私の方、職業に貴賎がないように趣味に上下があってはならない。
乙女書万歳!こんな素晴らしい本を薦めてくれたウォシス様に乾杯!ああこの胸の高鳴りを誰かに伝えたい、同じ趣味を持つ同士と語らい歓談しまた新たな乙女書の世界に浸りたい!……こんなに素晴らしい本を作れるのに、どうして自分が作った家来を捨て駒にできるんだろう。止めよう、暗くなる。
気分転換がしたい。ルルティエちゃんに会いたいなと切実に思う。同好の士と打ち明ければきっともっと仲良くなれる筈だし兎にも角にも語らいたいんだ。いかにあのカップリングが尊いか、ううん、例え同じ趣味カプじゃなくてもキャラへの尊さを伝えてきゃっきゃうふふしたい〜。
と胸に思えども、私は乙女書登場ランキングがあればきっと堂々一位のオシュトル邸に囲われて悶々とした思いに耽るしかないのが現状だ。
面白かった、次出かける機会があれば是非また乙女小道を行こう。ウォシスに会う危険性は追々考えるとして仮にあったとしても同じ趣味がありましてと打ち明ければ多少はお目こぼししてくれる……と良いなあ。ハクを連れてけば同族のよしみで見逃してくれないかなあ、無理かなあ。
なんてお腐れ本に没頭し悶々する内にかなりの時が過ぎたようで、昼を告げる鐘の音に我に返った。
家人が主人の帰投を告げる声に返事をして
書斎に赴けば乙女書登場ランキング筆頭、げふん……夫のオシュトルが座卓に腰掛け書類仕事に邁進していた。
また書類ですか、武人なのにね。どんだけ仕事を押しつけられているんだか、あるいは任される仕事量が多いのか、本当難儀だね右近衛大将。
腰を下ろすよう薦められ下座に正座で座る。正座文化に馴染みはないけど仮面を付けたオシュトルの前で膝を崩すのは気後れするからこうして背筋も伸ばしてしまう。
「さて何から話そうか」
一区切りついたんだろう、筆を走らせていた巻物を脇にやり筆を水置きに漬け硯に蓋を被せた手は膝に下ろし、さあ何でもどうぞと薄く微笑み見んでくるけど、卓の横の巻物はまだ結構量がある。こいつ寝てんのかな、こいつって呼ぶの失礼だけど寝てないよな。昨日突然の襲撃に掃除報告調査の指示出してその許可を取る書類を書いて……寝る間もなさそうだ。
時間を取らせてはいけないとよく見れば隈でも出来てそうなオシュトルに手を止めなくて良いからと言葉を返す。
「仕事しながらでいいから。また徹夜されても嫌だし」
「それでは有り難く、このままで良いのなら」
頷いて、書簡に視線を戻し筆を走らせるオシュトルを伺いながらややあって切り出した。
「……私に手を出さない理由が知りたい」
さらさらと紙を滑る筆の音が一瞬止まる。にっと微笑んだと思えば仕事にならないと判断したのか、水置きに筆をまた突っ込み両手を組んだ甲に顎を落としたオシュトルはウコンのように口角を上げる。
「いきなりそこを突っ込んでくるかい、嬢ちゃん」
「突っ込み待ちなんだろうけど言いやすい方で良いから流しとくわ。知りたいの、まだるっこしいのは私も苦手だから単刀直入に言わせてもらう」
「寂しいの、だからって無理強いしたい訳じゃない。私じゃ起たない?飽きた?何をそんなに躊躇わせるの」
ヤマトを二人で出立してからはどうかと思うぐらい睦んできた。屋根があり二人きりなら連日連夜率先して体を重ねてきた当人が戻ってからさっぱりご無沙汰だ。
言葉通り飽きた訳でもないんだろうと予測はつく。身分差に怖じけずいた可能性は低くないが、それならクジュウリで立場を明かして以降手は出さないはずだ。しかし彼は以後もずっと私を抱いてきた、帝都に戻るまではだけど。
何か懸念すべき事案があったかと回らない頭で考えても事案だらけで逆に見当がつかない。嘘だ、心当たりはある。
不安な心中を知らず、オシュトルは珍しく涼しげな顔を顰めて長い溜息をついた。
「時間がないのだ。仕事仕事、だが余暇ができたとてさあ其方を抱くぞというのもがっついているようで躊躇いがあってな。断じて其方の弁が原因ではないと弁解しておく」
昨日縋ったことを言ってるんだろうか?首をひねる間に邪魔ではないぞと補足されて、ぶり返す疑問を衝動的に尋ねてしまった。
「じゃあなんで抱かないの?」
「言い方……妹君の墓も建立(こんりゅう)されてないだろう。四十九日も開けておらぬ、身内が死んですぐの女人に色を強いるのは酷、と慮(おもんばか)ってのつもりだった」
私は驚いて口を閉じてしまう。不安はどうやら杞憂だった、気遣ってくれただけらしい。でもそれは言わないと伝わらない訳でして。
力が抜けるまま脱力し彼の言葉を反芻(はんすう)してええ?と当惑した。
「……妹って、え?あれを妹と呼んでくれるの?」
何を当たり前なことをと、直接的な物言いに顔を顰めていた夫様は抗議の声を上げてきた。
「姿形はどうあれナナコ殿の妹君であらせられるのは事実だ。あの方を抱き涙した姿を某はこの目で見ている。先を哀れみ行く末を案じる姿はまさしく姉が妹を憂える姿そのもの。
体面だけとはいえ妹だったお方を否定する物言いをするのは宜しくないと忠告致す。ん?ナナコ殿、如何された」
「なんか、辛くて」
あの粘液の固まりを案じてくれるなんてどんな聖人君子だよ。菩提弔うとか墓立てるとかそんなん身内のすることじゃん。実の姉は辛い辛いって妹のことすっかり忘れてたのにさあ、薄情だよね。そんでまた妹を想っていると勘違いしたのかこちらを見る視線は労りに満ちていて、どうして私はこの人みたいに血縁ぐらい優しく出来ないのか我が毎ながらやるせないわ。
「妹君を亡くされたばかりだ、不安定になるのも当然。某を重荷に感じるならば閨を無理強いする気もない。其方は好きに過ごして良いとの約束は違えぬよ。時間はたっぷりあるのだ。ゆっくり絆を深めていこうではないか」
有るわけないじゃん、よくもそんな嘘をつけるよね。私はまだ仮面を持つ者の宿命とか聞いていないんですけど。仮面の男は代々短命で力を使うほど死期が早まるだとか最後は塩になり散るとかいうやつを。どうせ私に掛かる負担とか考えて打ち明ける機会をうかがっているんでしょ。心労より何より自分優先すべきなんじゃない?いつ休んでんのよ馬鹿。自分の欲だとかまるきり無視して他人優先いや身内優先なんてさ。本当どんな聖人だよ、悪いけど私そこまでヒトできてませんから、この機に乗じて我が身優先させますからと、私は頬を拭って胸を張る。
「私はそんな悠長にしてる時間はない。いつだって貴方が好きだから空いた時間は叶う限り共にありたいと望んでる」
微笑んでいるけれどオシュトルは困った顔をしていた。四六時中べったりだとウコンに影響が出るとでも考えたんだろう、べったりは都合のいいときでいいと告げれば悪いなと返してくれた。私は気安い雰囲気の今なら打ち明けられると一番の懸念を口にする。
「洗脳に、気付いたかと思った」
「某がか?」
頷けば破顔してまさかとオシュトルは真に受けない。
「ナナコ殿が某を好きに出来るならばとうにヤマトは滅んでいよう。あり得ぬよ」
「それってどういう意味かな?」
「某を意のままに操れるならば市井の者達はひとたまりもない。例えばだ、其方がこう思ったとしよう。乙女書が欲しい甘味を食いたい、すると立ち所に信者共が献上し物が無くなり、果ては商売が成り立たずヤマトは直に……こら、袖を引くな」
あんまりな言い様だ。抗議もかねて裾を引っ張ると口とは裏腹に楽しそうにオシュトルは綻んだ。
「某が優先するのは帝である、故にあり得ぬ。何故そんな考えに至ったかは知らぬが其方は其方だ。人を洗脳できる力を持つ御仁とも思えぬ」
誰彼構わず振り向かせる美貌も持ってはおらぬしなと余計な注釈まで付けてきた。某のみに通用すればいいとアップテンポの激しい評価に私は付いていくので精一杯だ。
「絶賛、特定の身内を贔屓しまくる貴方が言いますか」
主にハクとか。ちくりとイヤミを零せば自覚はあるのか苦い顔をする。
「それを言われると耳が痛いが常識の範囲でなら贔屓にも入らぬ。おかげで某は誰に遠慮せずとも見所がある者を育てられる」
ハクと、あとは部下の優秀な人達を指したんだろう。ふんふん頷いていると今度は私に矛先が向けられた。
「其方は育たずともよいぞ。某のもとで安らいでいればよい。好きに生きる其方を見るのが楽しみなのだ。某の余暇を奪ってくれるなよ?」
駄々甘である。しっかりしてくれ右近衛大将、笑顔は常日頃と同じなのに感じる雰囲気が桃色で私の心拍数は急上昇。前後の流れ無視して裸足で逃げ出したいが切っ掛けを作った手前逃げもできず、話を変えて心機一転に取りかかった。私との一時を余暇扱いする奇特な夫に何故奪われる心配をするのか尋ねた。
「奪うって、なんで奪う前提なの?貴方なら自分でどうにか出来るじゃない。どうやってその……余暇を奪うって言うの?」
「実家に帰ると言い出さぬか実は危惧しているのだ」
「……」
呆れて物も物も言えない。至れり尽くせりで実家に帰る馬鹿は普通いないって。そもそも実家ないですから、強いて帰るならオシュトルの実家トリコリさんちに帰ってやる。御母堂に変な目で見られてしまえ。意地の悪い考えで浮上した私だが相変わらず目の前で消沈する男にまた気分が急降下。私は嘆息した。本気で実家に帰ると危惧しているのか心配げに視線を寄こすオシュトルと見つめ合う。常日頃同じく背筋はまっすぐで仮面に隠れて表情は分からないけど何処となく口元の笑みに元気がない。苦笑してる。
多分眉尻は下がっていると考えればちょっとだけ情けなくも可愛いなと血迷いもする。妄想結構、良好な人間関係のためには都合良く解釈した方が円満でいれると誰かが言っていた。誰かはもう覚えてない。
とはいえ、相手がそうだと思い込み勝手な解釈を押しつけ相互理解を怠ると大変だ。帝やウォシスのようになるのは私でも御免だ。なので私は、私だけに許されている優越感から思い上がるのを途中下車してオシュトルを見た。
いつ見ても格好いい、強くてたまに可愛い人。この人を大事にしたいと思うほど違う人種とわかりきった不文律が重く心にのし掛かる。
見返すまっすぐな瞳は本気で、オンヴィタイカヤンが洗脳を掛けているなんて思ってもいないと示していて、嬉しくもあり悲しかった。ひとまず洗脳に気付き避けているのではないと知れただけ良しとしておく。
嫌われてないならそれでいいんだ。でも私は欲が深いから一分一秒でも無駄にしたくなくて、無礼を承知でごめんねと先に謝り立ち上がって上座の彼へと近づく。
「頼まれても帰る気ないよ?」
「それは僥倖。今後ともそうであればよいと某は思っているぞ」
「一等一番、私もそうでありたいと願っている」
「ナナコ殿?」
急に近づく私を訝しみ見上げるオシュトルの横で膝をつき目線を合わせた。
「優先順位の話よくするけど、私にも優先順位があるのはわかっているよね?」
誰しも当然のことであるな。帰る返事に私も頷く。
「貴方の優先順位を私は当然尊重してる。大事なオシュトルを蔑ろにしたくないから。でもごめんね、それでも最後に私が選ぶのは結局自分の欲なんだ」
彼の横に座り行儀良く膝に置かれた手に両手を重ねた。
「いつだって夜になれば貴方に触れられたい。トゥスクル目指し旅したときのように二人きりになればくっつきたいし四六時中いいことだってしたいと思ってる」
「ナナコ殿……」
更に当惑が増す顔に、勇気を出して肩にしな垂れかかる。さすが武人動揺の気配もない様子に羞恥心から堪らず肩口に顔を埋めて、もう一押し懇願した。
「遠慮ならしなくていい。子供が欲しいの。確かな愛情の証しにどうか……」
おお、今度はかすかに体が揺れた。効いてる、効いてるぞ!
「っ、其方を好いているのだ。大事にしたいと某も心から想っている」
困り切った声音に私は顔を上げ、揺れる瞳に恥を忍んで訴えた。
「オシュトルの好きにされたい。都合が付くときでいいから」
数秒見つめあい、折れたのはオシュトルの方だった。仮面を無造作に取り卓に置くと私の腕を掴み暴力に等しい美貌が上から降りてくる。何でか知らないが手首腕がきつめに握られている。そういえば書類仕事の途中だったと思い返し、時間がある時で良いからねと重ねるがまるっと無視された。
「枷を解いたのは其方だ。後悔しても其は知らぬ」
あれおかしいな、とは剥かれる過程で気づいた。煽りはしたが日も高い内に清掃済みとはいえ惨劇から一昼夜も経ってない執務室で事に及ぶ予定は当然私の中にはなかった。せいぜいチュ〜からの寝室に引っ込む程度の想定が、押し倒され体をまさぐられている。私は抗議の声を上げた。
人払いは?仕事詰まってるんじゃ?せめて寝所に。
合間呟いた言葉は、ナナコと過ごす時は人払いを済ませているし仕事に区切りも付いたから支障はない、一時でも早く交わりたいと切羽詰まった声に呑まれ叶うことはなかった。執務室来るたびに思い出して恥ずかしいからやめてと嫌がるも、いつでも思い出せて某は嬉しいと羞恥プレイ宣言されてしまった。首を振り抵抗するが焚き付けたのは其方と両の手を拘束される。覆い被さるオシュトルに弱いところを責められれば思考は散漫になり、まあ一回ぐらいいいかと絆されてしまった。必至に名を呼ぶ姿に一度抜けば冷静になるかもと朦朧とする意識の中そう考えて身を任せた。
種火は燃え上がるばかりで、食われるうちに余裕もなくなりついには諦めた。なるようになれ〜とせっせと励む内に、前後不覚。
気づけば明朝、珍しく乱れきった様相の体で私を抱き込みごろごろ喉を慣らす彼に辺りを見回し寝室にいると理解した。気絶してる内に運んでくれたようだけど、まあその後も好き勝手したんだろう、転がる布団のそこそこで見るに耐えない皺だとか体液が良いことした後ですよっ!と視界の暴力になって訴えてくる。
狸寝入りをすればどんな目に遭うか怖いから、素直におはようと照れながら告げればおはようと返され、出仕まで付き合ってくれとのし掛かられ考えが甘かったと猛省する。昨日存分に煽った手前大人しく従うほかなかった。
とりあえずだ、腰は死んだ。三日は建てないんじゃないかと判断したけど脆弱な私でも人間の範疇には納まるようで、またも夜分遅くオシュトルが帰った頃には壁伝いに移動できるまで体力は戻った。速攻また抱き潰されたけど。
優秀な家人と察しの良い義理の妹君は部屋を尋ねることなく部屋の外に膳やお湯を置いてくれるのが有り難かった。聞かれなくても分かってますよ的な態度が逆に恥ずかしいけどな!
厠に出てばったりネコネちゃんに会ったとき鼻を鳴らしそっぽを向いて小走りに逃げられたのが自称姉はショックです。何も言われないのも居たたまれないんだなと思い知らされた一件だった。
帰参早々、閨での文句も言い切らぬ内にまた寝所に連れ込まれ事に到る。本当いつ寝てるのと布団の中で尋ねれば、其方が気を失った後に仮眠を取っている、執務中も折を見て休んでいるから大丈夫だとオシュトルは満足そうに笑うばかりだ。
其方との一時で随分癒やされてるとオシュトルは微笑む。精神面ではそうかもしれないが肉体的にはどうだろう。体を休めるプランを考えてみたけれど、仕事を手伝うなんて無理だし言っても多分聞かない。
疲れさせて昏倒させるという案も現実味がないから、さあもう一戦と腰を押しつけ這い回る不埒な手を撫でて子守歌を歌ってみた。寝ない子には子守歌が妥当でしょ。子供どころか成人だし歌ったところでますます目が覚めるのを弟妹との関係で知ってたけど、何かしてあげたかったんだ。
しばらく楽しげに歌を聴いていたオシュトルだけどやっぱり疲れが溜まっていたのか程なくして瞼を落とし静かな寝息を零し始めたた。
よかった効いたみたい。恥ずかしいのを我慢して頑張ってよかったとのし掛かる体をそのままに居心地の良い場所を探り彼を抱きしめ私も瞼を閉じる。また休んでなさそうなら今度も歌っとこう。オシュトルには子守歌が効く、私だけの秘密だ。
帝都に戻って一週間だろうか。長く邸に滞在しているがクオンにどう誤魔化したの?と書斎で不埒な振る舞いを働かれている際に、睦言ついでに尋ねれば書類仕事を任せた体にしているらしかった。口説かれて五月蠅いとウコンに文句を言わせるのが辛いとぼやくので、いっそ屋敷の使い走りにして遠ざけたことにすればいいんじゃ?と提案するも。
「固めの杯を交わし義父の許可を得たとはいえ保護者殿の許可を得てないのでな。クオン殿の許可を頂いてから聖上にご報告申し上げたいのだ」
互いに裸になり床で寄り添いはしても、時に精錬時に奔放を装う漢の本質はどこまでも堅物なのか、まずはクオン殿の信を得ねばと床に私を押し倒し算段を付けている。
いつになるんだろうとどこか他人事を装って早く来るといいね、無理そうならこのままでも良いよと私はうつらうつら。何度か果てた後は心地よい心音を子守歌に瞼を閉じた。
風と行く