余談 護衛紹介
マリカが来て数日後、白楼閣で紹介もかねて宴席が開かれた。護衛が付いたなら自然と隠密業に携わる可能性が高いため仕事で顔を合わせる前に紹介したほうがやりやすいからだとのこと。お言葉に甘えて出席し馴染んで貰おうと思ったのだが……
「ご主人様、どうしてマリカは簀巻(すま)きにされてるですか〜」
「そこでしばらく反省してるのです」
「自業自得って奴かな」
「私の秘蔵本がっ……うぅ」
「皆、ごめんなさいっ!」
早速彼女はやらかしてくれた。
宴席で改めて何が出来るか尋ねれば戦闘が大得意と言うから猛者のアトゥイが練度を測(はか)るため庭に出るよう要請すれば今この場で計れますと止めるまもなく術が発動して大爆発、大惨事となった。人死にが出なくてまだましな部類とハクが慰めてくれたけど部屋は半壊。駆けつけた女将に修理費を要求され、監督不行き届きだからとウコンが修理費を持つ流れになった。私は当然反対、部下の不始末は上司の不始末だからと、歌姫家業で頂いているお手当から払おうとするが修繕費が所持金の桁一つ上で無理。壊した仲間の私物を弁償するだけでカツカツの有様だ。平身低頭である。これぐらいですんで良かったじゃないかとウコンは苦笑い。本当頭が上がらない。
片付けの傍らネコネちゃんやハクが理路整然何がいけないか語るもののマリカはどこまでも前向きに戦場では役に立つから今度は敵地でお試しくださいと息巻いている。いや余計ダメだろ、隠密集の戦場って狭かったり気づかれないうちに逃走それか内々に一撃必殺とかそんな感じだもん。
「大爆発で居所割れるわな、無理だろ。使えん」
「おにいさんに同意やえ。あれはあかんわ、いくら威力が強くても一々壊滅させてたら忍ぶ意味がないえ。加減も知らん状況見ない術士なんておらんほうがええんとちゃう?」
剛速球ですねアトゥイさん。でも事実その通りだと私も思う。消沈しているマリカには悪いけど隠密行に携わるのはよした方が良い。精々わたしの護衛で傍に居るぐらいが妥当かもね。
「強いのはわかるえ。でもそれだけじゃここでやっていくのは無理やよ」
「でも、私はご主人様のために働きたいのですっ!」
「それで悪目立ちしてご主人様を窮地に立たせるん?それ役に立ってない、足手纏いや。無能な働き者なんておらんほうがよっぽど役に立つと違う」
「む、無能?私が足手纏い……」
もの凄い正論過ぎるけどきつすぎて突っ込めない私にアトゥイさんが視線をよこした。
「気い付けた方がええよ。知らん間に物壊して借金しててもおかしないえ。うち嫌やよ、詰め所に督促状来るの」
私は後片付けに勤しむ面々に向き直り改めて頭を下げ謝意を示した。
「それは私も勘弁です。え〜皆様、この度は不詳マリカが多大なご迷惑をお掛けし大変申し訳なく」
「それはええし。まずはほら、片付け」
絞った雑巾を差し出され金槌を渡される。何故二つ?首をかしげる間に簀巻きをとかれたマリカにアトゥイが視線を向けて微笑んだ。
「初めて外出たって聞くしきっと加減するのに慣れてないんやわ。まずは獲物振るんとちゃうて手近なところから加減学んでいこね?」
「お子様と聞いてたのにうっかりしてこうなった訳ですからね。まずはお子様はお子様らしくお子様らしい手習いで学ぶのが一番です」
アトゥイ、ネコネちゃん。
「ありがとう二人とも」
もう一度頭を下げ項垂れてるマリカに催促した。色々思うところがあるのだろう、彼女は素直に私に続けて頭を下げてくれる。
「ごめんなさいなのです。今度は気を付けるのです」
「ネコネのマネするのは止めるですよ!」
「ご主人様の近くで一番謝ってる方を参考にしたのですが何が悪いですか?」
「お、なんだ?ネコネはもう嫁いびりしてんのか。それでウコンに叱られてると」
「んなーーー!違うのです嫁いびりなんてしてないのです!謝るのは否定しないですけどネコネは単に早く慣れていただきたいと頂きたいと……う〜」
「大丈夫、されてなんてないよ。ネコネちゃんが怒るときは私がからかいすぎた時だけだもん。ネコネちゃんは厳しくても優しい先生だよ」
「ほら見るです!嫁いびりなんて欠片だってネコネはしてないのですよ……多分」
「ま、そうなる前に俺が一手打つわな。理由を聞いてそれから決めるが安心しろネコネ。おまえは嫁いびりなんてしてねえよ。そのぶん嬢ちゃんが反撃してるからな」
「ひどーい旦那様が裏切った〜」
「あ、あのっお辛い目に遭いそうならいつでも私の実家に避難して頂いて良いですからね!ウコン様ならそんなことなさらないとルルティエは信じてますけど!」
「こいつは手厳しいな」
「ナナコは後ろ盾がない分皆で守ってあげないとね。遠慮があるならこの私を頼れば良いかな?ハクを盾に私の故郷に避難すれば良いし」
「自分関係ない巻き込むな。あとうまい酒が飲めるなら自分はどっちでもいい」
それ一生会えないフラグじゃないですよね。信じてますよトゥスクル皇女。
「アンちゃんそんときは頼むぜ!上物弾むからカミさんが逃げそうなら引き留めといてくれよな!」
「そうなる前にどうにかするじゃなかったですか兄様……」
「それはそれ、これはこれって奴だな。だがなんにせよ、お互い無理しないのが一番だ。無理すんなよ、ネコネも」
「してないです、する訳がないですよ兄様」
ウコンに頭を撫でられてネコネちゃんのちょっと気分が上向いたみたい。良かった。
二人をきっかけに周囲の視線は暖かい物に変わる。マリカの縄を解き片付けに勤しんだ。散々な出だしで迎えた宴会は半壊した詰め所の修理で終わるものの自分達でほぼほぼ直せたから修理費はまけにまけてもらえて私のポケットマネーでどうにかなった。本当に良かった!
多少迷惑を掛けた負い目もあったのだろう、マリカは少し考えるようになったようでご主人様これぐらいの威力ならどうですかね?これぐらいなら物は壊れず半殺しで
すみますかねと一々聞いてくるようになった。往来で謎の光源を構えるのは止めて欲しい。
今まで自主的に誰かと接触しなかったのに隠密集の面々とも交流する気になったのか折に触れて話をする姿が見受けられるようになった。聞けば戦術や道徳などを学んでいるらしい。
「略奪再利用は戦場でも許されざる行為と雑談で知りました。無駄に思う行為でも得るものはありますね。皆さん物知りでマリカはとても助かっています。おかげでご主人様の品位を損ねる真似をせずにすみます」
朗(ほが)らかに往来で笑うマリカがちょっと怖い。
風と行く