26話 ミカヅチを紹介される
今日も今日とて旦那様のおかえりは遅くなりそうで、適当にだらけていると何となしに、壁際の盆に畳まれて置かれている着物の袖口が解(ほつ)れているのに気がついた。明日オシュトルが着るやつだ、手抜かりのない家人なのに珍しい。気が向いたときにしか出せてないトリコリさん宛の手紙はまたにしようと筆を置いた。私は器用じゃないけど手持ち無沙汰、不格好でも目立たない箇所だからたまには奥様らしいことをしようと裁縫道具を手に取る。漆塗りの綺麗な裁縫箱はオシュトルが嫁入りように形だけでもと用意してくれたもので自分の服が解(ほつ)れたときに使おうと寝室の脇に飾っていたものだ。大抵こちらが気付く前や気付いてもほったらかしにしていると優秀な家人が勝手に繕うから有難いんだけど少々持て余していた。宝の持ち腐れと自分でも思わなくもない。
私が不真面目なのは置いといてだ、オシュトル相手に何かしてあげられるの滅多にないからやっとの出番に私は大張りきり。手習いも大事だけど一人ぐーたらも気が引けてたんだ。
夕刻から取りかかりあれこっちに糸が飛び出した、今度は別の箇所が解れてしまったと手直しする間に気づけば高いびきを決め込んで仕舞ったらしい。
気づけば夕暮れはとおに過ぎ辺りはすっかり暗くなっている。前屈みに床に突っ伏していたはずがいつの間にか布団に身を横たえていた。夢遊病の気はないはずだけど、そんなに疲れてたっけと首をひねり身を起こしたせば背中に掛けられている上衣がずり落ちた。旦那様の外套である。おそらく散乱していたはずの裁縫道具はきっちり仕舞われ定位置に戻っていた。無駄に解(ほつ)れさせた着物も綺麗にたたまれそっとはぐると解れなどなかったように綺麗に直されていた。役に立ちたかったのにまた迷惑をかけてしまったようだ、反省の極み。
起きるまで待っていてくれたのか、廊下に控えていた家人に名を呼ばれ返事をすれば要件を伝えてくれた。オシュトルが帰投したこと、仕事で遅くなるから先に就寝してくれて構わない。綺麗にしようとの心遣い有難かった等々。伝言に礼を言い食事の用意が必要か聞かれるが今更手を煩(わずら)わせてもと辞退する。厨房に簡単な物を用意してあるのでいつでもどうぞと退く家人を労い去る足音を見送った。マリカも気を利かせたオシュトルが休むよう言い渡したから自室で休んでいるらしい。
……ちょっとだけほっとする。屋敷の守りは堅いのにマリカは気を張り詰めすぎて閨でも廊下に控えようとするから心身全然休まらなかったんだ。下がり休むよう伝えれば言うこと聞くから来た当初よりはマシなんだけどさ。悪い子じゃないしこの機会に是非休んで欲しい。
さてもう一眠りといきたいが中途半端に起きたからか眠たいけど眠たくない。夫が仕事中に寝こけるというのも続くと罰が悪くて小腹を満たすためという題目で厨房に足を向ける。お茶の一杯でも差し入れたげよう。
厨房で手元の夜光石に水に浸しお行儀悪くつまみながら茶を一杯いれた。ついでに自分のもと注いだ一杯を一飲み盆を両手にいそいそ夫の書斎へ向かう。甘い物が苦手なヒトだし今日は作ってないからお茶菓子は悪いけどなしでごめん。
もしかしたら仕事終わりで一献傾けているかもしれないとの期待はあいにく外れのようだ。襖は閉じ明かりが付いている。学がないと言うけれど月見酒や花見酒が好きなヒトだから仕事終わりにはきっと綺麗な夜空を肴に呑んでると当たりを付けたけど。いつもご苦労様ですね、こんな時間まで残務処理お疲れ様です。しみじみそう思いつつ膝を落とし入室の許可を取ろうと手をついたところで誰だと聞かれた。おや?と首を傾ける。オシュトルの声じゃない。不審者というわけでもなさそうだ。彼の邸は厳重に見張られているから相当な手練れでないと侵入することもできない。過去の暗殺未遂は例外中の例外だろう、とくれば答えは一つ。
「失礼しました。お客様がお見えでしたか」
襖越しに驚かせる意図はなかったと声を掛けると足早に近づく音がして顔が覗く範囲で開けられる。
「どうしたのだ、この様な時間に」
……笑顔がないなんて珍しい、オシュトルが焦っている。マズい話の最中だったのだろうかとそっと奥に視線をやれば厳めしい顔をしたミカヅチ殿がこちらを見ていた。怖い、内々の内々な話でもしてたのかも。慌てて手をつき謝罪する。
「お仕事をされていると伺いまして茶の一杯でもと余計な手間を。申し訳ありませんでした、すぐに下がります」
「良いのだ。逆に苦労をかけた」
やっと微笑んでくれて若干ほっとするが、言外から早く去って欲しい意図を察した。もう一度深々と頭を下げ退こうとするが客人が待ったを掛けてきた。
「何もそう邪険にせずともよいだろう。茶の一杯ぐらい受け取ったらどうだ」
「ミカヅチ殿……」
「そう睨むな。お前が子飼いを何人か得たのは知っている。だがその者は紹介もされてないだろう。いつまで隠す気だ、とっとと挨拶させろ」
サコンとしてはウコンの妻として紹介されているし何度も冷やかされた。でも地位ある左近衛大将に挨拶はしていない。客に催促されるのはよろしくない事態だ。主人の面子に関わる。これまた珍しく渋面のオシュトルが視線をよこしたのを皮切りに改めて挨拶をした。
「初めまして、私はナナコという者です。オシュトル様のご温情でここに住まわせて頂いており時折こうして雑務に励ませて貰っております」
「それだけか」
なんでそこでオシュトルを見ますかね。
「……某の妻だ。控えめ故このような物言いをするが別に隠しも我慢させる気もない。まっとうに、某の妻をして頂いている」
「後ろ盾を明かす気もないと?姫をもらい受けたと報告を受けたがあれは戯れ言か」
「まだ聖上に挨拶もしておらぬのだ。確たる身分はその時に明かせばよかろう」
「オーゼン皇の娘御なのは周知の事実だろうが。それが真か虚実かはどうでもいいが毎回聞かれる俺の身にもなれ。仕事上の付き合いしかないと何度説明してもお偉方が納得されん。いい加減うんざりだ」
怖い顔が眉根を寄せて更に怖くなった。いい人と分かっていてもヤクザ顔負けの厳つさに自然と身が竦むが私を背を向ける夫殿は飄々(ひょうひょう)と答えてのける。
「これは驚いた。その顔に近づき尋ねる胆力が上流の方々にあるとは思わなんだわ」
「阿呆、尋ねもせんわ。兄上経由で来るからタチが悪いという話だ。いくら聞き流し無視を通しても臣下を通して尋ね回る。兄上のように無視を決め込んでも四六時中周りで騒がれれば部下も気にはなるだろう。仕事に障りが出初めた兄者に苛立たれ、興味もないが白黒付けろと催促される俺の身になれ」
「気にしなければ良いであろうに。某の所にはそのような話は来ぬ。聞き捨てればそのうち飽きられよう」
厚顔無恥甚だしい文言に同じ感想を抱いたのかミカヅチさんははっと鼻で笑った。怖い。
「何度聞き捨てた?」
「数えておらぬ故わからぬな」
「ほう、誤魔化すとは珍しいな」
「迷惑を先方に掛けてはならぬのでな。極力明かさぬよう努めている」
「頂いて貰っているとは?」
「妻は控えめなのだ。華美を好まず無用に謙る。いやそこは某も気にはなるのだが」
「あのっ、ごめんなさい!」
夫が軽く溜息を付いたところで口を挟んだ。
「私のせいで何か不都合がおありでしたのでしょう。煩わせて大変申し訳ありませんでした。オシュトル様が私を隠すのは身の安全を案じてでして、けっして隠すような大層な身分でもないのです」
「平民か」
さっと全身に視線をやり掛けられた言葉に窮する。貴族の貫禄や上品な立ち居振る舞いなんて身につけてないのは上流貴族に属するミカヅチから見れば丸わかりなんだろうな。
オシュトルに視線をやれば拒否の言葉や態度もなくある程度明かす気になったと汲み私は簡単に経緯を説明した。
「はい……釣り合わないのを承知でお声を掛けたところ情けを頂き屋敷に招かれました。全て、私を慮(おもんばか)り口を閉ざしていただけなのです。先ほど皇の御名があがりましたがその方々も名前だけならと好意でご助力頂いたまで。けっしてお二方の邪魔立てする気はないのですがこうして邪魔立てしてしまい大変に」
「ああもういい、口の良く回る嫁だ」
「申し訳なく」
「だから謝るな。おまえがどうこうこいつがどうのという話じゃない。嫁御が来たと聞き、雑談ついでに事の真意を確かめようと気が向いただけだ。気にするな。あと頭は下げなくていい、まるで俺が悪漢みたいではないか」
「十分悪漢だが。それと嫁御ではない、某の妻だ」
「揚げ足を取るな。貴様はどうでもいい点に一々……まあいい」
うんざりな表情をしてたミカヅチが眼光を鋭くして向き直る。
「こいつが亭主関白を気取るとは思えんが念のために聞くぞ、酷い目に遭わされていないか」
「とんでもないですっ!至れり尽くせりで逆にこちらが申し訳ないぐらいでっ」
「ほう、申し分けない弱みを握られていると?」
にっと口角を上げるミカヅチ。きっと和ませようとしたのだろうけど微笑んでも怖い顔は怖いままで私は固まる。
「揚げ足を取りすぎだぞミカヅチ殿」
「取りもするだろう。俺はか弱い女子供の味方なんだ。ごつい男がこうも取り乱すのを見過ごすと思ったか」
「面白がる方が本心であろう」
「当たり前だろう」
「ミカヅチ殿、某で場を盛り上げるのはほどほどにして頂きたい。先ほどから雑談ばかりだが其方は何がしたいのだ」
目を閉じ額に手をやるオシュトルに確かにと私も不思議に思う。性格こそ少々異なる物の仕事一徹真面目人間のはずが話がずれまくっている。
何故と顔に書いていたのだろう、ふんぞり返っていたミカヅチが爆破した。
「まだ思い出せぬか!さっさと俺に名乗らせろっ!」
あ、本当だ。自己紹介せず問答詰問ばかりしてたわ。
「其方、名乗りもせず某の妻に詰問するとはどういう了見だ」
オシュトル様ずれてる〜。怒鳴りはしてないけど語気粗めでありありと逆ギレしてます的な鋭い眼光にこっちがびっくりですから〜。
「逆にこちらが聞きたいわ!とぼけるのもいい加減にしろ!馬に蹴られたくはないが最近の貴様は浮かれすぎだっ!!」
「妻の前で某を辱めないで頂けないか。私事では確かに多少手抜かりはあるが仕事で下手を打った試しは一度もない」
「なお悪いわ!大体何故貴様が釈明をしている」
「某の私事だからだ。邸を出て晒した失態は妻に関わりがなかろう」
「そうではなくて先ほどの!」
「オーゼン皇の件か。借りは作らない方が良いと分かっていたが某が堪(たま)らなんだ。ナナコ殿に失態はない、有るはずがなかろう。仕事では迷惑を掛けぬよう努力するので温かい目で頂きたい」
「もう掛かっている!」
「表に出していない故掛けようがない。訳なく妻を誹(そし)るならぜひその理由をお聞かせ願いたい。答えに応じては表に出て貰わねばならぬが、如何か」
物騒な物言いにぎょっとして私はさっと室内を見回すが酒らしき痕跡はない。棚の上には書類と巻物硯道具等々仕事道具ばかりだ。オシュトルは素面(しらふ)で頭が沸騰してる。血迷いすぎでしょ右近衛大将殿。とうとうミカヅチが頭を抱えた。
「だからそうではなくてだな」
「では何がだ?」
「この、だから」
なんか会話がかみ合ってないな〜。
「私に関わる件ならば大変申し訳なく」
おずおず申し出ればミカヅチが疲れた目線で加勢の辞退を促された。
「貴様は卑下が過ぎる、関わると面倒だから堂々と控えてろ……そうだ」
堂々控えろって私にどうしろと。困っているとやっと合点がいったのかミカヅチの表情が明るくなった。お、的確な言葉が思いついたんだんだね!
「後ろめたい点がないなら堂々としていればいいだろうに、ケツが小さい男め」
なんてことだ、悪口だった。
「ミカヅチ殿、そのような物言いは少々誤解を生む故妻の前ではくれぐれも止めて頂けぬか」
「夫は前側が私の至高なので大丈夫ですよ!」
今度はオシュトルがうんざり顔だけど私は構わず嬉々として答える。ミカヅチとして初めて会ったときのことを思いだしたんだろう。死んだ眼差しでそうかと頷くもさすが左近衛大将様は立ち直りも早くすぐに意識を取り戻して挨拶してくれた。
「俺はミカヅチだ。左近衛府で大将をしている。仕事上関わることが多くてな、時折こうして互いの邸を行き交うこともある。必要な書類が上の都合で滞(とどこお)っていたので急がせた。常日頃(つねひごろ)こうというわけでもないから安心しろ」
やっと話が戻りほっとして私も答えた。
「それはようございました。お二方ともお疲れ様でございますね」
「お前はウコンの嫁でもあるのか」
「はい、屋敷ではオシュトル様の妻でもありますが外では安全のためにウコンの妻として振る舞っております」
「会うのは二度目になるが覚えているか?」
ばっちし向こうも覚えてるのね。そりゃそうか、密書を隠し持つ不審者の荷物を暴いたら乙女書なんて本の題材にされたヒトには強烈な体験だもんね。
「あの時は散々迷惑を掛けて」
「構わぬ。俺こそとんだ恥をかかせてすまなかったな」
「何の話であるか聞かせて頂いても宜しいか」
乙女書の件は両者の精神安定のために打ち明けなかったけどそこはかとなく隣でドスをきかせる夫が怖いから仕方なしに細部をはしょって簡潔に説明した。労(ねぎら)おうと声を掛けたら怪しまれ乙女書を衆目に晒(さら)したと聞いたら色々理解してくれたのか、大変であったなとしみじみミカヅチを気遣った。乙女書人気ランキング堂々上位にしかわからない空気に私は若干興奮。ウォシスに提供するネタが出来だと内心で喜んだのは内緒である。
お二人は公私共に長いのか、居たたまれない空気を変えようと世間話を振ると色々苦労もあるのだろう、ミカヅチがオシュトルに関連する失敗談を語ろうとしそれを阻止するためにオシュトルがミカヅチの失敗談で塗り重ね両者軽口の応酬を始めたところで私は内心引き気味で親友兼腐れ縁と睨みを聞かせる二人の関係性はこんなもんだろうと判断する。乙女書的に実に美味しい関係ですね。
「女難の相に妻君を巻き込むなよ」
「そんな物はない。あまり近寄らないでくれまいか、妻が怯えているのでな」
怯えてないし軟派でないなら多少は目も瞑(つぶ)りますよ〜っと。
「お二人は仲が良いのですね」
「腐れ縁だ」
「良き理解者である点は否定しない」
互いを認める発言に本気で罵り合っていた訳でないと知り私は安心した。
さてさて長話に興じてしまった。部外者の滞在なんて邪魔なだけだろうとすっかり冷めたお茶を下げるため私はお邪魔しましたごゆっくりと声を掛ける。頭を下げ盆を両手に退室しようと腰を上げたがオシュトルがその茶は某が頂きたいと引き留めてきた。
「某のために用意してくれた物を無碍にしたくはない。頂いても良いだろうか?」
断る理由は一つもないので冷めててごめんねと彼の前に差し出した。先に失礼するとオシュトルがミカヅチに頭を下げたところでもう一つ頼み事があると尋ねてきた。
「すまぬがもう一つ茶を用意して貰いたい。主人が客に振る舞わず一杯というのも宜しくないのでな」
「気が利かなくてすみません」
「いや、手間を掛ける」
「市政に居たのだろう?知らずとも当然だ、習い事が多くて大変だな」
ミカヅチさんも労いの言葉ありがとう。
「お気遣いありがとうございます」
「ところで、俺はそれで構わんのだが」
おっとオシュトルが呑もうと手にした湯飲みに視線を注いでいる。さては貴方猫舌ですか?嬉しいな。微妙な共通点に喜んでいるとオシュトルは両手で湯飲みを取り常日頃の笑みで断固拒否した。
「これは妻が某のために用意してくれた物であるからして、始めに頂戴するのは某で有るべきではなかろうか?貴公には暖かい物をわざわざ妻が用意するのだから待つべきと進言致す」
「いつも飲んでいるのだ、偶(たま)には客人を優先しろ」
「ミカヅチ殿でなければ優先するが?」
「清廉潔白はどこに行った。偏見の塊ではないか」
「これ以上ないほど誠実である」
「よく言う」
本当にね。
茶を入れて持って行き届けたところで自室に戻ろうとすればまたミカヅチに声を掛けられた。
「少し良いか?」
「何でしょう?」
「すまぬな」
「?いいえ、お仕事ですし仕方ないことです」
「その事じゃない。この唐変木で気の利かない男の失態で実に申し訳なかったと釈明したかったのだ。本当に申し訳なかった」
申し訳なさそうに頭を下げられるけどごめん、謝られる理由がわからない。戸惑いオシュトルに視線をやり謝る原因を尋ねようとすれば仮面越しでも明らかに消沈していた。
「あの、どうしたのですか?」
「わからぬだろうがケジメだ。某も関わりがある故理解できぬだろうが聞き流してくれると有難い」
どういう事やねん。失態くらった覚えもないし何か強制された訳でもない。本気で理由が思いつかずダメ元でヒントだけでもと尋ねてみる。
「えっと、説明は?」
「言えばこいつが切腹しかねない。知らぬが仏ではあるが俺もこいつも黙秘というのは腹の据わりが悪くてな。代わりにはならぬが一発見舞っている。気になるなら叩きつけて吐かせても俺は構わんが貴様はどうだ?」
「吐かねばならないのなら腹を切りたい」
俯き淡々と呟く様にこれは本気で落ち込んでいるのだなと若干引いた。知らないところで機嫌を損ねる何かをしでかしたのは確かだろうが幾ら考えても思いつけないならまあ、あまり気にしなくても良いかもしれない。ハクが切られたわけでもないし構わないからと私は落ち込む二人に声を掛ける。
「ええっと、聞かない方が良いことも世の中にはあると言いますし私は別に。正室が出来たとか後に影響がないなら聞かなくても構いませんよ。打たれたところ大丈夫だった?」
「平気であるよ。影響はないし某の室は其方だけだ」
「良かった」
その言葉に多少安堵したのだろうオシュトルが笑みを浮かべてくれて私もつられて微笑んだ。落ち込む理由が解消できたなら何よりだ!
「俺も一撃を食らっているのだが」
「ミカヅチ殿は自業自得である」
「その言葉そっくり返すぞ。私室に置く愚行は二度とするな。睨むな」
「当然、同じ過ちは二度とせぬよ」
二度出来る環境でもないしね。兎にも角にも悩みの種が晴れたなら何よりですわ。 おやすみなさいと退席した後は悠々自適で一眠り。
起床後、土産にどうぞと左近衛大将から頂いたお茶菓子をお茶の時間に家人から振る舞われ私の気分は上々だ。昼過ぎまで寝込けたマリカが廊下を凄い早さで走ってきて怒涛(どとう)の謝罪を繰り出すが、すぐさま行儀作法の指導を同じ勢いでネコネちゃんに迎え撃たれ私の部屋の前に到着したときには大人しく正座で正されていた。道理を説けばマリカは大人しい。初めの勢いに反ししゅんとする姿は中々滑稽で見る分には楽しいが少し可哀相。いつも気に掛けてくれてありがとうと礼を言うとすぐ調子に乗る様も可愛らしかった。
空は晴天、ご飯も美味しい。世は事もなしで何よりである。
風と行く