6話 まさかのエロイベントに歓喜より困惑


 どういうことやねん。思わず関西弁になってしまったが客観的に見てもおかしな状況に私はただただ混乱するばかりだ。

 口付けの後は服を乱されて肌をガン見される。なんか言えやと言われたが何を言えというのか、きゃー恥ずかしいといつもの調子で振る舞うのを期待したの?機会を逃せば滑稽すぎて笑えないから私は答えに窮し逆に聞き返す。何を言えと言うんですか?って。視線を逸らしたままというのも気にくわなかったのか、頬に両手を添えられ強制的に視線を合わせられた。行灯の明かりが瞳に写りゆらゆらと揺れている。
「俺を見ろ」
「見てます」
「見てねえだろ」
「見てますってば」
 自然と涙が零れる。そうだ、私はいつも貴方を見ていた。短い期間だけど。
 実はそれ以前から貴方の動向を見守っていたとは言えないので黙って睨む。傷つけばハラハラしいなくなれば不在に胸を締め付けられて、それなのにどうして無関心を咎められねばならないのか、私はいつも貴方に夢中だったのに。
「好きだつってんだろ」
「そうですか良かったですね、私も貴方が大好きですよ」
 これで満足でしょ!もう嬲るように一々確認するの止めてよとせめてもの抵抗に睨んだ。
 逆撫するとわかっていても抗議の声ぐらい上げておきたかったんだ。あれほど好意を示したのに好意の有無を疑われるのは腹立たしかったから。罵倒が来るかもと私は構えていたのだけれど。
「おう、やっと聞けたな。俺もおまえが大好きだ」
 ウコンはへらへら笑って得意げだ……なにが楽しいんだろう、さっさと抱けば良いのに。それとも風情を楽しむ性分なんだろうか、こちらの不機嫌を悟れない鈍いヒトでもないだろうに。触れる手は撫でるばかりで優しい。
 微笑みながら触れる手はかすかに震えてるようにも感じられる。骨張って薄い肩に口付け、肉の付いた首や胸は跡を刻むように強めに噛んで一心に花を散らす様が、妙に緊張する。

 亜人は強靱だ。人の何倍もの力を持ち過酷な環境にも耐えれるよう調整され生まれた種族と原作から私は知っている。彼らと共に在るなら肉体的接触は避けるべきだ。ただでさえ私は病弱なんだから。気安さから怪我を負えば逆に彼らを傷つけかねない。そして私に被虐趣味もない、痛いのはイヤだ、最悪骨が折れる。そうしたらただでさえ真面目な彼のこと悩みの種にもなるのもイヤだった。
 そうわかっていても、機会を逃すのは惜しかった。大好きなキャラに求められる好機はこれを逃せば二度とないだろう。酔って人恋しくなり出会って間もない相手をと同衾なんて、後の遺恨を考えれば冷静なオシュトルなら避けたい事態の筈。彼を思うなら辛辣に振る舞ってでも拒絶すべきだった。そうできないのは浅ましさ故だ。
 一夜限りでも良い、せめて求められた思い出を胸に秘めてそれで終わりでも良い。そう血迷ってしまっている。

 むずがり怯える私の声が聞こえてないはずないだろうに、絶賛脳内を悩ませているオシュトルは、たまにちらりとこちらを見て目元を緩めまた赤い跡を刻むのに一生懸命だ。何でそんなに必死になのか私にはわからない。わからなかったけど、もう一度視線が合ったときにひらめいた。
 あれ、こいつもしや本当に。
「一応、聞いとくけど」
 胸をすわれ揉まれる最中に尋ねる。
「おう、何でもいいぞ」
「何が……良かったの?」
 人を好きになるには理由が必要だ。性格がいい見た目が良い、最悪流されてだとか理由は様々だけど、自分で自分を省みても私には長所がない。適当に生きて適当に努力し恵まれた人生を送っていたが特に秀でた物はなく、またそんな面も彼には見せたことがない。好かれる理由がないんだ。
 良くて積極的だったとか?ストーカー行為に我ながらドン引きしかないが他に良いところって何があったんだろう。以てはかなげだったとか?ゲロしか吐いてなかった気がするけど。
 うんうんと唸りだした私に何か思うところがあるのが、ウコンは怪訝にこちらを見て少し考える素振りをする。ちょっと胸元で首傾げるのやめてくれませんかね恥ずいわと羞恥に身もだえているとぱっと顔を上げて首を傾げた。
「さあ?」
 は?……さあ、だと。
 そしてまた胸をすうのを再開するのでいやいやちゃんと言えやと私は頬を掴み顔を上げた。おお、ご不満な顔。そして自然と触れた耳の感触とじょりっとしたつるつると思っていた肌触りに慌てて手を離し弁解した。
「いや、好きだと告白する程度の気概があるんだから場を盛り上げるためにもなんか言おうぜ言いましょうよ。正直に告白すると、衝撃の連続で混乱のまっただ中で納得できる理由が欲しいんすわ。余裕全然ないんで気晴らしにこうなった経緯を教えて欲しいし、いいなと思った点は継続していこうと思うので参考までに聞きたかったんだけど、あ、やっぱない、いいところ……」
 涙目になり羞恥心から顔を覆ってそのくせ反応が気になって指の隙間からのぞき見てしまう。混乱して支離滅裂だがウコンは何か思うところがあるのかふうむと唸り考えこんでいる。だから胸元で考えるな恥ずいわ。
「ナナコのいい所かあ。吐きまくってた印象しかねえな」
 そこで名前呼びってどうかと思うよ。なんだよ人が必死になって付いた言い訳はがん無視かよ。
「まあ強いて言えば、おまえ諦め悪いよな」
 胸が飽きたのか、今度は帯を解き始める。ついでに乗っかっていた足に手をやり膨ら脛を押して股の間に滑り込んだ。うわああ、さすさす撫でられて怖いのにぞくぞくするう。そういや脱毛してない。する器具もないし誰も見ないしいっかとする習慣もなさそうな現状を楽だわあと受け入れてたけど、せめてカミソリとか借りて剃っとくべきだったか?あるか知らんけど。お願いウコン、すね毛濃くても無視してくれ……
 ……緊張と不安しかない体をまさぐる彼の手で快楽の花が咲き始める。零れる吐息を手で押さえるが許されず片手で両手を頭の上に縫い止められる。くっそびくともしねえ。
 羞恥に震える合間もウコンは自由な手で良いところ探っていき、ついに辿り着いた箇所に目をやって溜息をつく。あああ出来れば隠しておきたかった。
「おまえそりゃねえだろ……」
 うるさいうるさい、パンツのない生活なんて考えられなかったんだ。仕方ないじゃん、まさかこうなるなんて思ってもなかったし、実際これで賊に浚われたとき助かったんだから文句を言うなとぶーたれた。
 この世界に一般的なパンツはない。男性は褌(ふんどし)で女性は腰巻きを身につけるのが普通らしい。武芸に携わる女性は自作のモノを身につけるそうだが保護者に却下されたので股を冷やしたくないとねだり褌を巻くのを許されている。
 ブラもないのでさらしを巻く人もいるそうだが哀しいかな私はそう大きくないので生地が厚いから隠れるから大丈夫というクオンの弁を信じて胸は無防備だった。それはウコンも気にしなかったんだろうが、さすがに褌は宜しくないような反応に私はブーブー文句を吐く。
「スースーするのがいやなんだって、無いと寒いし不安定だし」
「男じゃないんだから我慢しろよ。まあ嬢ちゃんの場合風邪引いたらこじらせて悪化しそうだし、その辺は目を瞑るべきか」
 そういうとウコンは腰に手をやり浮かせて手際よく褌を巻き取っていく。まさかこれアンちゃんと共有じゃねえよなと呟くのでさすがにそれはないと海老反りのまま否定しといた。ほっとするな。なんだこの状況。
「褌巻いて吐きまくるこんなのの何が良いんだか」
「本当になあ、客観的に見ても嬢ちゃんはねえよなあ」
 股開かせて指突っ込もうとしてる相手が何言ってんだとひそかに思う。つっと急に太いものが侵入する感覚に体が強ばった。
 力を抜けと言われるが抜こうとしてもそう簡単にいかないのが性交ってもので。痛いし怖いしで意識しなくても歯を食いしばってしまう。脂汗をかく間に気を逸らせよとウコンが呟き何やらつらつら語り始めた。
「好きだって付きまとうくせにその気はねえ、嫌がられても最低の線引きには入らずうろちょろしてるし、間者かと探っても裏はねえ。警戒してるの気づいてるくせにその間もひたすら俺に付きまとってただろ?馬鹿なのかなあって思いはした」
「馬鹿なのは正解かもね、利口だった試し一度もないし」
 ねめつけるように口角を上げる視線を無視してとりあえずは頷いといた。目下それどころじゃない。とろりとした感触に視線をやればウコンの手には香水瓶っぽい淡い瓶が握られている。指に垂らしたそれが秘所に宛がわれあれほど異物感の強かった感覚がはたと消えた。滑りをよくする香油だろうか、用意が良いよな、その手際の良さでどれだけのお嬢さんを泣かせてきたんだか。

 話はそこでいったん中断し少しだけ香油の塗り込みに専念していた男が顔をあげにんまり微笑んだ。
「俺といるときはぎこちねえけどよ、アンちゃん達といる嬢ちゃんはなんかいいなあって思った訳よ。笑うと可愛い、ぼんやり無表情なのも気を許してると思えば悪くねえ。諦め悪いのは呆れるが愛しさ故と錯覚すればそこもまあ可愛いかった。んで、いいなあとなびいちまったわけだ」
 ふうん……子供みたいに笑うよなあとぼんやり思っているうちに秘所の異物感が増えた。しばし無言、いや時折声を零しながらだけで、少したって私は続きを催促した。
「……で?」
「うん?」
 あれ?
「……そ、それだけ?」
「おう」
 ええ……
「こ、好みに……ん、ドンピシャだったっ、とか……?」
「かすりもしねえな、胸がデカくて色気がないと興味すら湧かねえし」
 なんでそんな対象外の相手に手え出してんだよおまえは!わかってるよ胸も尻もないだらけた鶏ガラだって、まさか抱かれようとしてる相手に精神的なトドメを刺されるとは思わなかったわ。
 突然の精神攻撃に震えてる合間に何かを思い出したのかなかを弄っている手が止み身を起こした。
「そんでだ。俺は傭兵上がりで体力が資本の仕事をしているわけで、それなりの修羅場は経験してる」
 そうだね、正しくは武人だものね。傭兵どころか小さい頃から訓練して志願して、たたき上げの軍人出身やん。下級貴族設定あんま出世に役立ってない、お役所仕事のかなりハードな部隊所属だよねえ、トップだし。
 異物感が消えて覆い被さっていたウコンが離れていく。自然と縋ろうと浮く腰を支えられ寄り添うように身を起こした。好意に甘え、向かい合い何か言いたそうなウコンの話しに耳を傾ける。

「斬った張ったですみゃ楽だが世の中楽なことばかりじゃねえ、むしろ辛い方が多いもんだ。誰かが幸せになるために言い訳して誰かを泣かせてよ、そんでもっと悪い奴がどんどん至福を肥やして泣かせる数も増えてくる。だがその裏で悪銭と知らず法を尊びのんびり生きてる奴もいるわけだ」
「世の中ままならねえよな……」

 はあと溜息をつく姿に肯定しそうになるが話の流れが見えない。世の中ままらならいというのは全力で肯定する。ままなるならこういう状況にはならなかっただろう。だがその話は私とは関係ないでしょうが。どうした右近衛大将。じっと見ていると悩ましげな視線を浮かべていた彼は胡座の片方の手で頬杖を付き瞳に揺れる行灯の明かりを灯しながらゆっくり瞼が下がっていく。

 あ、酔い潰れそうなのね。そう判断して布団を被せ寝させようかと腰を上げるが瞬時に手を押さえられ彼の膝に倒された。
 逃げると思った?逃げんな嬢ちゃんと返されてやっぱりと胸中で溜息をつく。
「寝て、アンタ酔ってる」
「酔ってねえよ」
 酔ってる奴は大概そう言うんだよ!そこんところは時代が変わっても万国共通なのね、はいはい。さあ手を話して早く寝て、今なら添い寝してあげるから、されて喜ぶのは私のほうだけどと頭をぽんぽん撫でてみた。不満げな顔が苦しげにゆがめられる。痛かったと尋ねればうんにゃと首を振られた。
「嬢ちゃんに伝えたかったんだ。余裕だと思ってんだろ?ちっとも余裕じゃねえよ、隠すのが得意なだけだ。毎日が苦しくてたまらねえんだ。何でこんな気になるんだ?追いかけて困らさせるくせに離れりゃ気になって目も離せねえ。危うくて心配で気づけば嬢ちゃんのことばかり考えてる。だからよ、考えたんだ。いっそ自分のもんにすりゃ安心だってな」
「悪手だからそれ、夜這い強要されて好きになる馬鹿いないから。しかも付けあがるの後押ししてる。一夜限りでいいって言っておいて結婚になだれ込むの目論んでる。気をつけなよ?」
「そこん所は気付いてたから大丈夫だ」
 じゃあなんで話に乗った?どうせ気になってとか言うんでしょ?今後のために興味本位で突っ込むところ改めといた方がいいよ。痴情のもつれで悩まされる右近衛大将なんて見たくないし。
「強要したか?」
 不安そうに聞き返されると自信がない。
「う〜ん」
「まあそれは別にいいだろ」
「良くないよ、大事なことだし」
「それでよ」
「聞いて」
「俺はこんなだから諦めっぱなしでよ、初恋だとか堪えて秘めた恋がどうなったか語ればこの胸のつかえも取れるかと」
 だから聞けよ、完全に酔ってるなこいつ…って、はぁ!? 何私を恋の鞘当てにしてんのよ!
 なんだよ、ときめいたらはしご外されたよ。なんなの?好きで告って辛抱溜まらず襲いに来たんじゃないの?!まさかの代わり?ちっくしょう、それでも相手が私で嬉しいとか思ってる時点で相当私も頭いっちゃってるわ!
 てかなんだそのエピソード!初耳!原作にも登場してないエピソードなんじゃない?
 あれか?多世界に存在する人物は同じ存在でも経歴が違うから異なる点が出るのは当然、百通りの本があれば百通りのキャラがいる、とかいうよく同人誌にあるエピソード的ななにかかな!なにそれ知りたい、お姉さんめっちゃ気になる。フタハク出る前の同人誌で甘党だったのに発売後は一気に甘味嫌い設定定着しちゃったけど、目の前の貴方はどうなんでしょうか、原作設定と何がどう違うのか、ぜひ教えて下さい。
 と抱きしめて口づけを寄こそうとする顔を押しとどめてその話しに食いついた。くっそヒゲが掌にくすぐったい。ウコンは口づけを阻止されて大変不満気だ。
「ちなみに、その初恋どうなったの?」
「知らん間にいいとこ貰われて幸せになってた」
 良かったじゃん。なんだ、悲惨な最期かと構えて損した。あんたの経歴からすりゃ相当幸せな展開に納まれたよねその人。会ったらおめでとうと言っておこうか、誰か知らんけど。
「俺はさ、俺が幸せにしたかったんだよお〜」
 あああ独占欲強い男の未練がましい姿なんて見苦しくて見てられないわ。泣きはしてないけど綺麗な顔なんだからそうしかめないでって……ちょっと。
「乗らないで、重い」
 ぐいぐい押せばナナコが冷てえと鼻をすすりだした。引き倒すときさりげなく背に回した手で衝撃をまたも防ぐのはさすがイケメンだが顔面はしょぼくれてて残念だ。部下にはみせれんぞそんな情けないところ、でもちょっと酷かったかな、よっぽどショックだったんだろうなと可哀相になり手を下ろした。とたんにウコンはのしかかりぼろ切れみたいな私を抱えて愚痴をこぼす。
「失恋してさ、ぐっと堪えてさ、すっかり恋の辛さなんざ忘れてたのに、嬢ちゃんが好きだ惚れただの言うからついうっかり思い出しちまってよ。可哀相で見てらんなくて、気づけばこのざまよ」
 文武両道、清廉潔白の右近衛大将とは思えない振る舞いだわ。まあ無理もないよねえ、仕事は過酷で醜態も見せられないし、ハクは気が合うとはいえ出会って間もない間柄で、情けない私となら泣き言言えるって甘えてるのかなあ。どんどん可哀相になった私は自分が無体を働かれているのをよそに置き彼を抱きしめて頭を撫でた。
「よしよし」
「ばぶばぶ〜、なあんて、うわ」
 調子に乗り赤ちゃん言葉を放ったウコンが首筋に顔を埋めたとたんに顔を離す。
「嬢ちゃん臭え……」
「そりゃアンタの酒の匂いが移ったの!それと薬、いい加減私が病人だって思い出せよ!」
 本当酷いな、襲われてるの私なんだけど、常に寝付いてた姿も忘れてこの人は何を言っているんだろうか……まさか普通の振る舞いを期待してたわけじゃないよな?私マジデ病人なんですけど。
「あそっか、病人だったわ嬢ちゃん」
 忘れてやがりましたわ。青筋どころか嘆息で今日はもう胸が一杯だ。切なすぎる、思い人に求められて散々罵りに近い軽口で否定されるほどの悪行私はしてないぞ……多分。

「気は済んだ?そんじゃ帰って寝て」
 覆い被さる筋肉を押して(すごいマッチョだった。正直ときめいた)さっさとどけてと促した。
「おう寝るぞ!二度目の恋もそんな感じだったわ、三度目も似たような感じだったわ。俺って機会逃しまくりだよなあガハハ」
 そんで、数えるのも面倒な過去の末、今回は速攻動いたって訳ね。はいはい。
「だからとっとと寝に帰れって、はあ……もう突っ込む気すら無くすわ……」
 ごそごそ。
「いや寝て……え、なに?」
 股に潜り込まれて非常に恥ずかしい体勢、大股開きで開脚された。完全にあらわにされて固まる私を、ウコンはよっと掛け声を出しまな板の鯉のように簡単にひっくり返して片足を掴んだまま自分の褌をさらりと巻き取り私の局部に押し当てる。もう目も当てられない。
「突っ込みたい、今すぐ。ナナコだけだから」
 なんでだ。この状況でこんな雰囲気でどうしてそう簡単におっ立てられる。
「い、言い訳になってな、ひっ……!ばっ」
 秘所に触れる暖かい感触が許しを乞うように円を描き先端を差し込めてくる。生じる恐怖と快感に私はどうしていいかわからない。自然と股を閉じそうになるがウコンがいるから止められない。なにせ脚も掴まれている、何か言わなければと気ばかりが焦るが何も浮かびはしなかった。
 止めようと伸ばした手は逆に掴まれ、戸惑い見上げれば先ほどまで涼しげだった眼差しは濡れ燃えたぎり私を食らおうと一心に見つめている。食われると浮かんだ予感は当たった。
「待って、や……ウコ」
「もう遅い。逃げる機会あっただろうが。限界だ。潔く受け入れて、くれよっ!」
「はっ、あ……!」

 固く狭いから痛いだろうにそれは一気に侵入して私を引き裂いてくる。
「ん〜〜〜〜〜〜!!」
 止める間もなく海老反りになりあがる悲鳴はすぐに侵入者の掌で覆われて、ああよかった誰かに聞かれる心配はない、保護者やハクに聞こえれば事だ、でもこの関係が明るみになればいいのに、いやなってはダメだ彼の足手纏いになりたくないと思考は混乱のまっただ中に落とされた。この後におよんでこいつは服を着込んだままだ。私は慟哭とも悲鳴かもわからない喘ぎを少しばかり叫んでいた。ウコンは苦しそうだ。叫びが穏やかになるとウコンは口を塞いでいた手を離し頬や腰を触れるばかりの感触で優しくなで回してくる。
「ウ、ウコン……」
 引き裂かれそうな傷みをこらえ、私は尋ねる。
「おう、どうした?」
 やっと俺を呼んだなと汗を滴らせウコンがふやけた笑顔で微笑む。
「こ、コンドーム。ひ、避妊薬とか用意は……?」
「ああ?コ、なんとかは知らねえが薬ってのは遊女とかが使う奴か?ねえよ、外にだしゃ大抵防げるだろ」
 防げねえよ!なにその間違った保健体育、生で突っ込みたいのはわかるけどね、そうだよね科学技術これっぽっちも発達してる気配ないから精子卵子とか下系の正しい知識が広まるわけがないよね。欲望に忠実!忠実すぎて私の倫理観が追いつかない。早く正しい避妊法を市井に広めるべきだ。そういや生の方が気持ちいいと私がいた時代の薄い本にも書いてあったけど、人権考えてほしいよね。孕む危険性とか相手の人生壊しかねないだとか考えて行動すべきでしょう右近衛大将なんだから。そうだよこいつ右近衛大将様だよ!本当なに考えてるの、いや考えてるんだろうけど。
「なんか嬢ちゃんぼんやりしてるけど大丈夫か?」
 大丈夫じゃありませんけど!との言葉を飲み込み大丈夫だと私はあえいだ。そんでせめて上半身の服を脱いで肌をあわせろやと息も絶え絶え訴えれば、すっかり忘れていたのか急いで袖を取り腰帯も解いてくれた。振動が辛い、ウコンが身じろぎするたび内部が揺れて生理的な吐息が漏れて困惑する。ウコンは楽しげだ。こっちも見てくれやと服を脱ぎ捨てちゅっちゅっと口づけを寄せてきた。
 現れたウコンの肉体は鍛えて抜かれて筋肉がめっちゃ盛り上がっている。夢幻じゃない実感が欲しくて手を伸ばし触れた感触と熱にほっとして恐々興味本位で厚い胸に頬をすり寄せた。ウコンは何も言わない。何も言わないのを良いことに、私は身を寄せてじっと甘えていた。

「何を、考えている?」
 物思いに耽っていると思ったんだろう。これからのことだとは言わずに好きに解釈するのに任せた。
「ああもしかして、やや子ができるって考えてんのか?」
 お、おう、そこに行き着きましたか。痛みに耐えながらとりあえずこくこく頷く。
「心配すんな。孕んだとしても、孕ませた相手を知らぬ存ぜぬですましゃしねえよ」
 ど、どうするの?引き取るの育てるの、それか堕胎か……やだな、その選択だけは避けたい。万に一つの可能性で一緒になってくれればいいのに、馬鹿だな私、期待しないって態度で示して期待してる。
 不安そうな表情をしてたんだろう。頬を摩られた。
「責任取るから産んでくれや」
 阿呆か!せめて避けよう?立場を考えればうかつな行動は避けるべきだよ。迂闊すぎて地雷原踏み抜いてるけどな。にしてもその答えはあんまりだわ。あれでしょ一人で産んで育てろ、金ぐらいは出す的な価値観は私も好きじゃない。でも立場を考えれば当然かとも実は思ってるんだ。堕ろせと言われないだけきっとマシなんだろうなあ。あーあー、とんでもない奴に惚れちゃったな私。言いたいことを山と飲み込む。まずは市井に外出しでも妊娠は防げない、行為をしないのが一番と広めるべきだと考えてそもそもどうやって伝えるんだとはたと気づいた。
「嬢ちゃん、こっち」
 ……意識が逸れていた。我慢できねえとウコンが呟く。苦しそうなその姿にいいよといえば律動が始まる。痛みに耐えようと敷き布を握れば背に手をやれと腕を首に回された。爪も立てて良いと汗だくの色男が囁く。彼は色男だ。粗野を装っても目鼻立ちは整い肉体にたるみはどこもない。どうせウコンの時は市井の後腐れないお姉さん達と良い思いしてんだろうに何で私なんだろうと疑問が再浮上するがろくな考え浮かびそうにないから、目の前の彼に集中して事が終わるのを待つ。

 慣れているだろうに彼はまさしく必死だった。
 必死で、おそらく労っているんだろう速度でゆっくりと私を穿(うが)つが、肌を初めて重ねる私には耐えがたい痛みだ。秘所だけでなく全身を犯されている。体を弄(まさぐ)られ舌で口内を吸われ肌のぶつかる音で耳まで犯される。体の内側からウコンのものにされているのだと身をもって思い知らされるのが恥ずかしい。嬉しいのに口ではいやいやと言ってしまう。ウコンもわかっているのか私の言葉は無視して酷くない範囲で好き勝手振舞うからもうどうにかなってしまいそうだった。痛いのに気持ちいい、嬉しいのに恥ずかしくて見られたくない。身をよじれば腰を掴まれ逃げられない。顔を隠せば両手を取られ隠さないよう布に縫い付けられ至近距離で観察される。腰だけは揺らすから聞くに耐えないだらしない表情はウコンに丸見えで、なのにウコンは嬉し気に笑うのだ。もっと良くしてやるからなと獰猛な目線で汗を流しちょっとの間で見つけた私のイイところをしつこく突いてくる。
 やだやだやめて、そこはいや。
 幾ら訴えてもウコンはここがいいんだろ覚えたぜと嫌なところばかり突いて高ぶらせるから私は始終泣きっぱなしだ。小娘でもあるまいしいい年した女があんあん喘いでみっともないと思うのに、それでも離れる気は起きなかった。擦(こす)れる肌が心地よくて気持ちいい。もっと近くで彼を感じていたかった。感じていたいのに思考は碌でもない方向に転がっていく。

 ……疑われているのわかっていた、おそらく間者として。証拠はないが最近急に気を遣われるようになったのもそれが理由だろう。
 下級貴族だが成り上がりのオシュトルに敵は多い。上にいればわからない帝都の闇を曝くためウコンとして活動しても、期間が長びき人目に付くほど上の者にも自然と目に止まりやすくなるものだ。謀を何度も潰されそこに大抵現れる任侠者がだんだん目障りになり某かの流れでウコンとオシュトルの繋がりを彼の敵が知ったと仮定しよう。私は薬師に拾われた記憶喪失の旅人……というのは仮の姿、正体は敵対勢力の間者で旅人に取り入り最近下町で人気の任侠物を探りに来たと予測を立てるのも自然な流れだ。ウコンは右近衛大将オシュトルの部下でそれも直属、何か弱みを握れるやもしれないと彼に近づきオシュトルの弱みを得よう……ってな具合の画策を予感するほどきな臭い謀が各所であったのかもしれない。
 はああ、お偉いさんは大変だよね、権謀術数から身を守るのも一苦労でしょうよ。いっそ自分を蒔絵にここらで後ろ暗い連中を釣り上げて一気に片を付けようって算段たてるのもわかるよ。その覚悟私は好きだよ、惜しむらくはやり玉に挙げられた最重要人物がまったくの白ってことが残念なポイントかな。本当に好きで寝てるのが哀しいところだよね。まあ正体は彼らが神と畏れるオンヴィタイヤカンでもう一人は帝の血縁なんて情報、悟られる方が困るから黙っておこう。ふふっ、ちょっと優越感。わかりあえない溝を引かれたようでその事実がまた悲しい。

 こちらの機微などどこ吹く風、ウコンに扮したオシュトルはたまに私の意識が逸れるのがご立腹なのかこっちを見ろと苛立たしくだが傷つける気はないようで首に甘噛みを繰り返している。怖いけど嫌じゃない。くすぐったくて身をよじれば追われて舐められ逃げられない。くすぐったいのに心地よかった。ウコンの喉はさっきからぐるぐる鳴っていて、そういえば旅の合間、文字の手習いをクオンに指示していた際教えてもらったっけと少し前に思いを馳せた。

 人が喉をならすのは甘えて完全に無防備になっていたり極度に興奮している状態だから、そういう輩を見つけたら絶対に近寄るな。我慢が聞かないから弱いナナコやハクは太刀打ちできない逃げるが最善、と締めていたっけ。とりあえず喉を食い破られてもいないし痛くもないので逃げる気はない。
 普段なら隠れている尻尾も今は甘えるように私の太股を撫でていて感触がくすぐったい。白と茶だ、先端だけ茶色の太く可愛い狼の尾だ。撫でたい、撫でたいけどびっくりさせたくないから我慢我慢。

 ああそれにしても、ヒゲが邪魔だ。本心を知らなくていい、体だけの関係でも構わないと思っているのに、浅ましい私はちょっとでも取り付く割れるのが嫌でますますそのヒゲを毟りたくてたまらなくなる。
「ねえそれ、取って、んっ……いい?」
 腕を伸ばし彼の顎髭に手を伸ばすが意図を察したのか顔だけすっと離れる。ウコンの正体はオシュトルだ。正体は明かしてないから指摘すれば怪しまれるとわかっても止まれなかった。
 ウコンに動揺はない。いつもの人好きする顔で理由を聞かれた。律動は止まっている、
「……なんのことだ?」
 繋がったところから走る痛みが靜に彼との心の距離を示しているようで胸が痛い。
「ううん、何でも。ただ、んっ、もっと近くに寄りたかっただけなんだ……」
「これ以上ねえほど近いと、思うがねっ……」
「は、あ……好き」
「俺も……」

 再び体を揺すられて後はただ彼の背にしがみついて耐えていた。きっとこれきり今日限りの関係だ。そうでないなら嬉しいけれどウコンもオシュトルも危ない橋を率先して渡るタイプじゃないから望みは薄い。仕事は別だ、私事を優先するタチじゃないのは分かっている。
 どうせなら今死んでもいいかなと血迷って一人ほくそ笑んだ。もう事実上死んでるのに何を言っているんだろう。人類は滅び私を知ってる人はもう誰もいない。惜しむ価値などそもそも私にはないなと考えたけど、自分のせいで身勝手に私が死んだとす知ればきっと彼は悲しむだろうから、事が終わるまでは以て欲しいと早鐘を打つ心臓に願っていた。


 事が無事に終わった。無事に中出しされた、馬鹿か。抜こうとしたんだろうウコンは局部を見て固まり、私が処女だったか確認して一応頷くとまた勢いを取り戻して二度目の吐精に勤しんだ。自分の馬鹿、昏倒寸前の私はなんとか意識を失うことなく抵抗空しく再び中出しされた、馬鹿だ!


 さっきから私を翻弄していた張本人はこちらの動揺など目にもくれず、体勢をずらし覆い被さったまま幸せそうに眦(まなじり)をゆるめ私の頭を撫でたり口付けたりと忙しない。
 布団に横たわり羞恥やら何やらで悶えていた私は何か言えば墓穴を掘りそうで黙っている胸中安らかではない。違うから、嬉しくて感極まってるとか動けないぐらい夢中で疲れたとかじゃないから。動こうとすれば痛いし外出しすらされなかった事実に打ちのめされてるだけだし。
「童貞もらってくれてあんがとな」
 童貞だったんかよ、八柱将ならよりどりみどりだろ。てか寝ろ、寝たんじゃなかったのかよ。もう疲れたから寝ようぜって終わった途端に横に転がったのはどこのどいつだよ。おかげで私は体を拭きに出れないし後処理だとか布団に染みた血の始末だとかできなくて恐慌状態に陥ってんですけど。後処理考えて、無茶するなら特に。

 荒い息で呼吸を整えるのに私は精一杯だ。背中をさすられてなんとか息をつく合間に、さっきから気になっていた疑問を尋ねてみる。
「なんで、童貞……」
 よりみどりだろうに。お決まりの嘘ですか?その程度の相手ですもんね私と蔑むが、ウコンは苦笑いでこの年まで守るつもりもなかったんだがよと言葉を繋いだ。
「敵が多すぎるんだよ。同業者にその下っ端、どこで足を引っ張られるかわからねえ、なら下手に動かず周囲が落ち着くのを待とうと気づけばこの年だ」
 だからってこれはないだろうに。ぜえはあ胸を押さえる私の背をよしよしとぽんぽんと打つが痛い。
「責任、責任絶対取らせるから、はあ、覚悟、しといて……」
 なんとかそれだけいい返せたがさっきまで童貞だった非童貞様は余裕綽々で微笑んでいる。
「こええこええ、まあ囲うぐらいならいつでも出来るぜ」
 ぽかんと呆ける私を前にウコンは楽しげに仮定の話を繰り出した。
 内縁の嫁としてだから贅沢はさせてやれねえがと言葉を続ける。衣食住、たまの観劇の世話ならできる。なんなら使用人雇って嬢ちゃんはぐーたらしててくれても構わない。無理に話そうとすんな、息するのも辛いんだろと病人に無体を強いた奴がのたまってくるから気遣いに便乗してこくこくと頷くに留めた。
 意味を脳内で反芻し恐々震える声で、ご家族は、こんなことしてもめ事にならないのか、妻子がいればとんでもないぞと凄んでみるけれど、その回答も織り込み済みのようで淡々と語った。
「ああ、所帯は持ってねえ。まつ……鉄火場が多いからよ、責任とって早々未亡人にさせたら申し訳ねえってんで縁談断り続けてこのざまだ。下に妹もいるし家のことはネコネに任せときゃ良い。まあ、俺が死んだとしても数年働かずにいれる蓄え用意はしておけるからよ、後のことは心配せずカミサンになってくんな。嬢ちゃんならいつでも歓迎だぜ!」
 ウコンさ〜ん、一瞬地が出ましたねえ。そんなんで大丈夫すか?帝都について帝のことで熱く雄弁に語りかけてましたけど、うっかりがすぎやしませんかねえと自分を棚にあげて内心で冷や汗をかく。泣きそうだった。行きずりの相手で済ませば良いのに、内縁の嫁扱いされるとは思わなかった。そこまで考えてくれていたなんて、家のこともネコネちゃんのことも、そうか……
「……頷いたら、貰ってくれるの?」
「おう、多少準備はいるがな。今月の終わりか、来月中頃なら迎え入れる準備も出来るぜ。俺の住まいじゃなく別宅という扱いにはなるが用意できる。何分裏社会にも顔が利くからよ、それなりに狙われもするから妹の他にもう一人追加は危ういってことで、下町近くか白楼閣近くに用意することになるが、いいか?」
 本当話早いな!試しに聞いたら即答ですか。さすが仕事の出来る男は違うわ。でも心配だな、何事もなく受け入れてもらえるビジョンが浮かばない。囲われて用意された家で彼が来るのを待つのは私は構わない。でもクオンはまず心配するしネコネちゃんは愛人なんて許さないだろう、てかネコネはどうするんだ?納得できる理由浮かばないんですけど、あやっぱだんまりですね?言えるわけないもんね。いいですよ〜日陰の身で傍に入れるなら何でもいいしとかぐるぐる自己卑下さすがに過ぎるんじゃないと思いつつ、怖々その申し出の保留を願ってみる。
「貴方は好きだ、出来るならその話し乗っかりたいけど、もう少し待って欲しい」
 なにせ私は病弱だ。色よい返事をしてぬか喜びさせて自分はぽっくり、ってなったらウコンに申し訳ない。
「おうよ!いい返事を期待してるぜ」
 有りがたい、保留を受け入れてくれた。
 私はウコンにそのまま横抱きにされぎゅーと苦しくない力で抱きしめてられた。尻尾がぶんぶん振っている。可愛い。撫でたいが我慢だ。
「……俺はよ、この通り義侠を気取った風来坊でお天道様の下を軽々と歩ける身分じゃねえが、誰かと所帯を持つなら好いた女がいいってのは思うときがある。また気のいいときに返事聞かせてくれよ」
 うんと返しておでこに口づけをされる。
「んじゃ寝るか、おやすみー
 仕事は大丈夫なのかと思うけど余計なお世話だろう。
 おやすみと返事をして大人しく彼の中に収まるけれど、当分寝れそうにはなかった。でも結局色々あって私は寝てしまった。後始末も何もかも放り出して寝るなんて、今までには考えられなかったけど、多分疲れてたんだと思う。



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風と行く