10話 独り占め


 馬に引かれほどなくしてウコンは地図を出し旅程を教えてくれた。帝都からトゥスクルまでの道行きはおよそ一月、街道沿いに進みシャッホロという港町から船に乗り航路を使う。行商に使う船のためかなり時間が掛かるとのことだった。川沿いの船は使わないらしい。理由は車を乗せるほどの大型船は海路しかなく、港から出る行商船に乗りトゥスクルに付いた後も馬を主な移動手段で使う予定だそうだ。
 急ぐなら公式に軍の要請をだしシャッホロの皇が所有する船を使えば早いが事が大きくなり誤解を生みかねないので最小限で行くのが最善と熱く語ってくれた。
 密命だしね、知る人が少ない方が確かに動きやすいよね。こうして身分を偽り庶民として動いた方が面倒も少なくてすむとの意見には大賛成だ。

 そんな訳で、一歩間違えば私だけが死にかねない旅は始まったのだが……
「あー、のどかだねえ」
「そうだなあ」
「干しアマム食べる?甘いよ」
「おう、一つ貰っとくぜ。あんがとな。体調戻ったばかりだろ寝とけ。んで重たいもんあんま食うな、胃が下るぞ」
「ん、気をつける……風が出てるね」
「おう、風邪引いちゃいけねえ、車に入っときな」
 めっちゃ緊張して私の言動は挙動不審だった。なにせ好きな人が傍にいるんだ。双子も一緒だけど二人は別だ。なにせ何も喋らないんだからいないのも同然、いや私を気遣ってくれてかさっきから背中撫でたり喉渇いたなと思ったら水筒渡してくれたりで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるんだけどね。
 やっぱ好きな人、それも二回もごにょごにょした相手が御者引き受けて黙々と任務に勤しんでるのみるとね、なんかしてあげたいな、手伝える事ってないかなとそわそわするのが人情だと思うのよ。適当に和ませたり小腹が空いたら差し入れたり労ってあげたいじゃん?でも会話が見つかんないの!
 傍に寄ってみたら肩に頭を乗せられて、ぎょっとして見つめればにかっと微笑まれ緊張しつつ微笑み合ったりは出来る。可愛いなと呼びかけられればありがとうと下を向き肩を抱かれて照れてじっと時が過ぎるままに馬車に揺られもするが、それで重責を癒せるかと考えても首を傾けざる負えない。話題を膨らませたり労いたいのに言葉は出ないし心臓が超速度で動くから呼吸も難しくなってきて辛い。
 そもそもがだよ、会話の取っ掛かりが見つからなくて困りまくっているのが現状なんですわ!
 興味がある話題振り返っても押す私に辟易してた印象しかないし、比較的仲良さそうなハクやマロロとは飲んだり食ったりちょっと色町の話ししたりの印象が強い訳よ。私?ノット酒、食事?吐くから少量。風呂?爛(ただ)れるから入んなかった。色町の話題なんて言語道断、何が悲しくて恋人宣言してくれた人に良かった女の子の話し振らんといかんのよ。

 そんなこんな非常に悶々とした私はせめて筋トレをして体力をつけようと、用事を思い出したからと渋るウコンに見送られ車に戻った。逃げたわけじゃない、耐性をつけるためにもまずは心臓から鍛えねばと転身しただけだ。わかってる言い訳だ。落ち着くためにもひとまずは意識を無にして気を取り直そうとスクワットに取りかかった。
 そして早速脚を痛めた。
 双子の視線が痛い。もだえる私を気にしてか引っ張られ当惑するウコンを連れてきて察したのだろう、ウコンは水で濡らした手拭いを宛ててくれた。
 用意する間に双子が車の外へ出て行く。御者を変わってくれたのか、ぴしりと手綱を振るう音がしてウコンが離れゆるやかに落ちていた速度が元に戻った。気遣うつもりが逆に労られるなんて、ガッデム!
「なんかゴメンね、面倒掛けてさ」
「まったくだ、これに懲(こ)りたらいきなり動くの控えて来んなよ。心配でおちおち目も離せねえよ」
 申し訳なくて私は顔もあげられなかった。
「本当ごめん、迷惑ばかりかけて。仕事も沢山あるのに護衛なんてさ、ほとほと申し訳ない」
「……嬢ちゃん一つ言っとくがこれも仕事だ。迷惑だなんて思っちゃいねえよ」
 ううう。気を遣わせてしまっている。項垂れていると拳に手が重ねられて、視線をあげれば真剣な眼差しが私を見つめていた。
「あともう一つ。無理に喋る必要もねえ。嬢ちゃんが何の命令を受けて他国にいく羽目になったかは知らねえが俺は俺の任務を全うするのみ、余計な気遣いは逆に失礼だって忠告しとくぜ」
「そっか、そうだよねごめんね」
 再三の謝罪をそうじゃねえんだよなあとウコンが首を振り頭をかいた。ウザかっただろうか、でもそれ以外掛ける言葉が見つからないのだ。どうすれば納得のいく答えを返せるのだろう。
「謝罪もいらねえって俺は言いたい訳よ。逆に、嬉しいって思っちまってんだから謝るのは俺の方だ」
「?」
「嬢ちゃんを独り占めできる」
 にかっと笑われて頬が熱くなる。何が独り占めだ、ハクならいざ知らず私は凡人だ。独り占めされる理由はない。
「気づかなかったか?あんちゃんもねえちゃんも嬢ちゃんに首ったけだ。ルルティエ様ですら何かと嬢ちゃんを気にしてる」
「病人だからだ。弱ってる人を気にするのは当然だよ」
「それだけには見えなかったけどな」
「そうだよ。そうでなかったら逆に申し訳ない」
「なんで?」
「私も貴方を独り占めしてる、皆に悪い。ネコネちゃんにも同僚さんにも悪いことしてる気分。ハクだって貴方と飲むの楽しみにしてた、クオンさんも貴方と話すのが楽しい。だから悪いの、皆が必要としてる人を今だけ私が独り占めしているから」
 ぶっちゃけ嬉しいですけどね!もの凄い罪悪感ですけどね!ウコンさんはなんだそんなことかと事も無げに言い切りましたよ。
「何が悪い。任務をまっとうすりゃそれでいいんだ。終わった後で尋ねりゃ向こうもそれで安心するだろうよ。だから、嬢ちゃんも楽しもうぜ。
 式も挙げれねえんだ。少し早い新婚旅行とでも思えばいい……安全のためとはいえ籍も入れられねえ甲斐性なしの言うことじゃねえと我ながら思うがな」
「ウコン……」
 気にしてくれてたのか。囲うと言ってたからそうとしか扱われなくても仕方ないと思ってたのに……この人はオシュトルでもウコンでも、本質は真面目な人なんだろう。
 湿っぽい雰囲気だ、ウコンもそう思ったのか影の差す表情を一変させて抱きついてきた。
「う、ウコン!」
「帝都は俺の管轄だが他国にも馴染みがねえわけじゃねえ。ついでに案内するぜ、行きたい所がありゃ気兼ねなく行ってくれ。任務の範囲内でだが、他ならぬナナコの頼みならどこでも連れてってやるからさ」
「ありがとう……」
「おう」
 見つめ合うと妙な緊張が走った。視線をそらせないのを良いことに真剣な表情が振ってきたがすんでの所で手で押さえる。不満そうに睨みウコンがふごふご文句を言う。掌がくすぐったくて恥ずかしい。
「夜、せめて夜になってから!」
「するのに変わりはねえんだ。別に今ココでも」
「だめ!せめて壁がないと。あと屋根、恥ずかしいって」
「……別に最後までするとは言ってねえが?」
「〜〜っ!」
 穴があったら入りたいとはこのことだ。にやにやするひげ面が腹立つ。
 照れやら何やらでヤケクソになった私はにやける男のヒゲを勢いに任せて引っぺ返した。痛ってと言うくせにその表情に痛みはなく、ほっとしていると力任せにのし掛かられる。ウコンと焦れば今はオシュトル様だからと口を塞がれ床に倒れる。
 脚をばたつかせて抵抗したけど、満足するまで話してはもらえず、ようやく口づけが終わった時には息も絶え絶え。何が琴線に触れたのか、オシュトルは楽しそうに髭を付け直しウコンに戻ると私を抱えしばらくくっついていた。


 旅は順調に進み始めた。
 密命というのもあり荷は最小だが、オシュトルが私の着替えや必需品を用意してくれていたから着替えに難儀することもなく恙(つつが)ない日々を過ごせそうで一安心だ。採寸もぴったりで逆にそれが怖いが珍竹林よりはましだろうと解釈しておく。着物がオシュトルと揃(そろ)いの藍色と言うのが少々照れるが。
「なんか欲しいもんとかあれば言えよ、家にあるもん適当に見繕ったから足りねえもんあるだろうし」
 野営地で休憩中、車の中で籠(かご)を開け私物の確認作業にいそしむ私にウコンが顔をのぞかせて声をかけてきた。
「十分だよ、十分すぎる。でも揃いの色ってなんか妙な勘繰り生まないか心配で」
「色なんざ気にしてたら何も着れねえだろ。第一似たような色着てる奴なんざ山といる。気に入らなければ他で買い足すか?」
 何を言いますか!
「滅茶苦茶気に入ってるよ、嬉しいよ!だから他はいい……っ」
 慌てて止めようと思うまま口にしたところでニヤつくウコンが見えて羞恥で頬が染まる。
「そ、そこまでして貰ったら悪いなって話で、いやオシュトルの配下の貴方が主君と同じ色着た女連れてるのって仕事に支障きたさないか心配で」
「公に発表すれば多少はあるかもな。だが内々の話だ、あんま気にしなくていいと思うぜ」
 そうですか、ならウコンの言う通り気にしないのが一番なんだろう。納得したところでさあ明日はどれにしようかと着物に視線を下ろすと更なる追撃が振ってきた。
「オシュトル様は喜んでたけどな、奥方と揃いだって」
「そ、そうなんだ……」
「おう」
 飯用意したから食おうぜと呼びかけるウコンに続き、後ろから袖を引いて私もうれしいとだけ言い捨て車から飛び降りた。着地した足が痛い。嬢ちゃんはしゃぎ過ぎ。苦笑するウコンに腕を引かれ怪我をしてないか確認された後は二人手をつないで双子が待つ席につき静かにご飯を頂いた。

 旅の間何から何まで頼りっぱなしというのも気が引けたので色んな手伝いを買って出た。
 食事の用意もウコンにからかわれながらだけど(主にんなことも知らないとはどこのお大尽だとか使った鍋は油を引いて懐紙で拭うだとか双子を交えてだけど)、料理や野営の天幕の張り方、食べれる食材や道具の手入れなどを教わりながら私は日々を過ごした。
 野宿する際は天幕を張るとのこと。天幕は二つ分あり野営をする際は双子と私二手に別れて床に就いた。山賊や獣の襲撃に備え片方が見張りにつくと説明を受けたときは当然納得した。男女に別れた方がいいと提案し双子含めた三人で大きい方に入ろうとすれば、んじゃ先に寝るかとウコンに引っ張られ小さい天幕で自然と抱き込まれたときはせめて説明が欲しいと訴えたが女房と別々に寝るのはやだと口をらせる姿に力が抜ける。密命だぞ右近衛大将、そんな簡単に信用していいの? 口にできない文句を胸中に留める間に伸し掛かられついでに嫌かどうかも確認され首を振ったところで前後不覚。
 後日双子に謝罪しまくるが私が気を失った後ウコンが見張りを交代していると双子との身振り手振りで察して恥ずかしかった。結局私だけが寝付く日々を送っていて申し訳ない。嘘、実は求められて少し嬉しく感じている。双子たちは謝罪するたび気にするなと慰める様に頭を撫でてくれるが元凶はどこ吹く風。御者台で、嬢ちゃんは体力ねえからなとからから笑うのが恨めしい。誰のせいだ誰の、半分は私のせいだけどさ。
 せめてこれ以上皆を煩わせないよう手伝いをきっちりして上手(うま)く休ませたいのに中々上手くいかない、嘆かわしい。

 そんなこんな、日々悶々とする私に反し街道は石畳みで整備され歩きやすいようで、行き交う人も帝都の大通りほどではないが里が近いとそれなりに多く見える。
 集落や町に着くと宿の手配をしたウコンに行きたいところはないかと尋ねられる。
 そういえば名所を案内すると言っていたっけ。ウコンに任せると告げればおっしゃまかせろと当人は大張り切りだ。でも所々で案内されたのは人の少ない滝や風景、食い道楽のゆっくりできる場所ばかりで、気遣われてるのが在り在りとわかった。花畑や緑は見るだけでも楽しい。ありがたいなあとその気遣いに甘えて私はのんびり外の風景を眺めていた。


 初めて、白楼閣以外の旅籠に泊まったときだ。到着して店番が宿帳に書き込んだ部屋の確認をしたいと声を掛けてくる。同室を気にしたのか二部屋取ったらしい。一緒でもいいよウコンがのぞきをするとは思えないし経費もかかるでしょ?と問えばお二方に見られながらはさすがに俺も嫌だわと返される。
 夜の気配がする言葉に恐る恐る私と貴方の関係って?と尋ねれば、夫婦だろ?旅の間はそうした方が色々便利だと何でもないように返されて、私は応えに窮した。
 ナナコ、今更だろ、何恥ずかしがってんだよとウコンは事も投げに嬉しそうに肩まで抱いてからかってくる。
 違う私は、そこまで思ってもらえるような女じゃない。だって貴方にまだ何も明かせてない。何を目的とした旅で私の正体や帝の思惑諸々を。
 お熱いですねと囃す番頭にウコンは新婚だから羽目を外すのは許してくれよと軽い口調で返えした。そっちは嬢ちゃんの従兄弟様方だ。さすがに同室はご遠慮願いたくてなあ、名門の出だと簡単にいちゃつけれねえから辛いとぼやいていた。双子に反論はないようで黙って店番がどうぞと差し出す鍵を受け取っていた。番頭はますます嬉しそうに、なら二人きりの間は存分に、そのための旅籠です、ごゆっくりと手を振るものだから私は何も言えずウコンに促されるまま黙って部屋へ赴いた。
 宿はそれなりの場所を取ったようで二階の一室はそれなりに広く白楼閣ほどではないが品の良い調度品が飾られている。窓からは欄干の下大通りを行き交う人が見えた。二人きりだ。
 私の緊張を悟れないほど鈍くないくせに、ウコンははあ〜疲れたと背伸びをして入った早々用意されている座布団の上に頭を置いて寝転がった。
「疲れたろ?顔しんでえって書いてる」
「ウコン、私……」
 それは貴方の方では、こんな高いところ良いのか、何故私の護衛を命じられたか聞かないのか。疑問は多々浮かび口に出来ずに胸に落ちるばかり。戸惑いばかりが先行して労う言葉も掛けられず私は下を向く。
「いいよ黙ってて。色々言えねえのはこっちも同じだ、気楽に行こうぜ」
 まだまだ時間はある、のんびりが一番だぜとウコンが手を振る。何がのんびりだ、戦場で宮中で、下手したらいつ倒れたっておかしくない職に従事してるくせに。時間があるなんてよくもほざける。
 沈む気持ちを誤魔化そうとお茶でも入れようかと卓に備え付けられた鉄瓶と茶葉に手を伸ばすが。後ろからその手を覆われ止められた。背中越しの温もりが暖かい。
「帝都について早々の長旅だったろ。あんま無理して寝込んだらいけえねえよ」
 無理してない。
 どこがだよ。
 無理してない。
 いいから寝とけ、布団敷くぞ。
 そう言って離れたウコンが襖を開けて布団一式をよいしょと抱えて敷き始めた。もじもじしていたのだろう、寝るかと意地悪く微笑まれ困る私に冗談だよ長旅で求めちゃ酷だしと敷いた布団に寝転がる。夕飯まで寝とくわとまた掌を振りそっぽを向かれた。言い様のない寂しさを感じて近寄る。ウコンはそっぽを向いたままだ。
 名前を呼んでおうと返されたので了承を得たと解釈してその背に縋った。
「癒してあげたい」
「嬢ちゃん……」
「好きなの。だから、ウコン」
 温もりが離れ抱き込まれる。
「おう、俺もだ」
 頬ずりをしながら覆い被さる背に私は腕を回した。何故か耳を噛んでくるウコンに擽ったいと文句を言い、楽になるといいよねと肩を何度か押し込み思わぬ硬さに驚く。こりまくってるじゃん!激務が伺える感触におののきつつしっかり抱えて癒してあげようと意気込みもしや耳も凝ってるのかと勢いで触れればやはりそこも硬かった。褥以外触れてはいけないと教わった個所は固いが暖かく手触りがいい。触れたとたんピコピコ動くのも可愛い。こんなに可愛いのに疲れているなんて可哀そうだ。
 抱きこまれた意図がわからなかったが、もしや全身が疲れて思わず寄り掛かったんだろうかと思案する間に視線を感じ、目をやれば半目の美麗に直視されていた。いたたまれず視線を落とす。視界の暴力!
「……いや、嬢ちゃん何してんの?」
「お疲れの体を癒そうとマッサージを」
 まっさーじ?と訝しむ物言いに慌てて按摩だよと答えると、納得したのかああと頷かれる。
「癒してくれんなら俺は別のがいいねえ」
 意地悪くにやつくウコンにきょとんとしていると耳を甘噛みされて意図がわかり赤面する。二度の閨の際教わったことだ。尾や耳、動物の部位は急所でありそれを触るのはよほど親しい間柄に限る。基本褥へのお誘いや感度を高める際に触れられると。
 妙な勘違いに恥ずかしくなるが速攻頷くのも品がない気がして(初対面で口説いた分際で何を言うかなんて突っ込みは無視した)、疲れない?と確認すれば焚き付けたのは嬢ちゃんだしここには屋根もあるとウコンが喉を成らす。お相手様は乗り気のようだ、焚きつけた側が袖にするのは宜しくない。そう言い訳して私は流れに身を任せた。

 優しく熱い夜は未来への不安を幾分か紛らわせてくれた。


 旅は順調だった。各地で食べる料理は土地の毎に異なり好物もあれば苦手なものもそれなりだ。美味しいと言えばウコンがこれ食えアレ食えと世話を焼く。ハクよりは食べるけど小食な私の体調をよく気遣ってくれた。
 宿に泊まれば自然と抱き込まれ夜を共にするのが常になった。そのくせ無理はしないように毎回いいかどうか確認するものだから恥ずかしくてたまらない。
 ある日思わぬ障害が起きた。目覚めて初めて生理が来たんだ。体調が回復したからか思わぬ量に慌てふためく私に双子は断りなく適切な処置を行い敷いた布団に寝かせてくれる。ナプキンがないと不便だ、懐紙を突っ込み過ぎるのを待つだけなんて。着物を汚してしまい謝罪するがウコンは気にするなと逆にこちらを気遣ってくれた。痛みに立てない私に揺れが堪(こた)えてはと車を止めようとするのはさすがに待ったをかけたけど。旅程が遅れてはいけない、渋るウコンを説き伏せて車を走らせたが、速度は緩めにしてくれて大変ありがたかった。時折御者台から離れ腹を温めないとと撫でときには尻尾まで乗せてくれて嬉しかった。
 生理はこの世界では月や花にたとえるそうで、一週間目に上がったときはほっとしてウコンに報告し大変喜ばれその夜食われた。一度で済んだのは気を配ってくれた証ともいえるがどこか雑なのががっかりでもある。一応抗議して上がった後致すのは許可を取ってからというのには承服してくれたから良しとする。

 ウコンは双子と同じく雑な面もあるがとても優しい。しかし着替えに関しては配慮がなくて困っている。いつも直視されて偶(たま)にくっついたり着物の耽(すそ)を捲(めく)ってくるんだ。恥ずかしい、でも好きにさせれば調子に乗って時間考えずに事に及ぶから私は布団をかぶり着替えるようになった。そのくせ意地悪く笑われるんだ。私の前でも簡単にすっぽんぽんになるし。馬鹿らしくなり布団に隠れて着替えるのはやめた。貴方も多少恥ずかしい思いすればいいんだとウコンの着替えをガン見してやったがすげえ筋肉だろと自慢されこっちが照れるだけで終わった。衝立(ついたて)や物陰に隠れるうちにニヤつかれてそのうち疲れ、隠れるのをやめた。拒否すればいいのは分かってる、惚れた欲目で強く拒絶できない自分が悪いのも分かっている。
「照れた顔も可愛いぜ」
 うっさい助平!着替える最中楽しそうに零されてつい罵(ののし)ってしまったが応えてはいないのかニヨニヨ微笑むウコンにちょっとだけほっとした。毎日視姦されてるみたいで恥ずかしいなんて言えば酷い目に合うのはわかりきってるからいつも流している。男は狼(おるけ)だから気をつけなよだって、重々身に染みてわかってる。

 蒸し風呂の使い方が分からないと言えば双子が使い方を身振り手振りで教えてくれて、外套を取ることはなかったけれど、三人で入る風呂は馴染みはないが楽しい時間だった。温泉は格別、そうでなくても久しぶりのお風呂はお湯のありがたさが身に染みて分かる一時だった。
 旅の炊事全般は基本手の空いたものがする流れとなった。最初はウコンが全部やると申し出たけど、三人雁首揃えて見てるだけというのは気が咎める。なので体力を作る名目で説得に掛かったところ力仕事でなければそれぞれ状況を見て動くという方針で決まった。
 拙いながら料理をすれば上手いと褒められ天幕を張ればよくやったなと頭を撫でられる。汗を流して貰おうと川沿いの岩の窪みに風呂を用意すれば無理をしてないかと気遣われた。その風呂も、用意したものが一番風呂と押し切られゆっくり入る羽目になったのだ。双子も手際よく準備を手伝い私の頭を良く撫でてくれた。皆優しかった。

 急ぎじゃないが早いほうがいいと馬を急がせる。しかし座っているだけというのは手持ち無沙汰で空いた時間に私は文字の手習いに勤しんだ。時間は有限だ、無駄にしたくない。世の中に絶対はない、平穏なんて壊れるときはあっという間だ。その可能性を潰すべく少しでも役に立ちたい、そのための努力はそれなりにしておきたかったんだ。
 教本は面白そうという理由でウコンが書いてくれた簡単な文字だったり立ち寄った店で見かけた草紙を手本にした。雑紙に思うまま書き連ねるけれど揺れで硯を滑らせるのは至難の業、専ら木炭を太めの箸で挟み紐で固定したモノで手習いをした。鉛筆はないの?と尋ねてもそんな物はないんだろう、誰に聞いても不思議そうに聞き返されたから使いやすい物を自分なりに工夫して用立てたけど、ウコンは興味深そうに見て、部下に広めれば即興の書類作成に役立ちそうとぼやいたのでそれは広まらない程度に使ってくれと釘を刺しといた。活版印刷が広まってないんだ、それなりに文化や科学技術の発展は帝が抑制してるはず。怨みは買いたくなかった。聖上に睨まれたくないと理由を告げればとりあえずは納得してくれたらしい。
「アンちゃんに劣らず嬢ちゃんの発想も凄えぜ」
 褒められて調子に乗るけれど胸中は苦かった。うんだってそれ、二次創作で見た流用だから私の手柄じゃないのよ本当は。言えない言葉がまた増えた。

 鍛錬は文字だけには留まらない。暇を持て余した私は気晴らしに筋トレに励み、それを見たウコンがどうせなら本格的な鍛錬に興じるのもいい暇つぶしになるぜと得物を寄こし、素振りが木への打ち込みから双子を捕まえる追いかけっこ、果てはウコンや双子との一戦からの逃亡にまで発展したときはもう死ぬと思った。
「病み上がりに無理させる気はなかったが、アンちゃんに劣らず嬢ちゃんも酷いな」
 言うな。体力ないのは嫌と言うほど思い知ってる。すぐに捕まえたくせにウコンは思った以上にスパルタなのか明日またがんばろうなと双子が用意してくれた食事をへばる私に差し出してくれたけど知ってるんだから。そう思うなら夜ぐらい離してくれないかな、抱き潰されて翌日の疲労が半端ない、って文句はやっぱり言えなかった。遠慮されて以後ばったり手を出されない、なんて展開がすぐに頭に浮かんだから。
 思ったよりも私は横でにやにや微笑むこの人に依存してしまっているらしい。きっと寂しいからだ。いつになればこの胸の空虚な感覚は消えるんだろう。暗い表情をしていたからか、どうしたと気遣わしげに尋ねられたのでお腹が空いた〜と誤魔化した。


 野宿をした時だ。野営を整え食事を終え、後は寝るだけで双子は歌を歌いウコンは武器の手入れをしていた。私は見上げた満点の星空に感嘆していると、特徴的な星を見つけて懐かしさから星座を指で結んだ。
 気になったのだろう、ウコンに何を見てる
と聞かれた。星をと答えればキレイだよなあの三つ星、なんで空の上で燃えてんだろと首を傾げる。星座って知ってる?と尋ねれば、なんだあ、今反省するようなこと言ってねえぞと憤慨された。ああ星座もデコイの文化に残らなかったんだなあと胸が苦しくなる。勘違いだったゴメンと謝った。
 ……よくあることだ。緑茶も桜も私がよく知る文化のほとんどが、環境の変化や人類滅亡の影響で消えたり様変わりしているのはよく知っているじゃないか、感傷なんて意味ないのに。
 双子に頭を撫でられた。よしよしと言いたげな動きに、労ってくれたのだろうかと礼を言う。
「大丈夫、元気だよ。ありがとうね」
 撫でてよいものか迷ったが、ゆっくり頭に手をやっても拒絶されなかったのでそのままよしよしと撫で返した。双子は無言でされるがままになっている。
「巫方と嬢ちゃんはお知り合いか?」
「ううん、ルルティエの護衛で初めて会ってそれ以来」
 そっかとウコンは返し、撫でられるのに飽きた二人は私から離れて歌に興じていた。
 ……時間が出来ると色々考えてしまう。これからのこと今までのこと、遠い昔に滅んだ故郷。考えても仕方ないと割り切っているのに堂々巡りを繰り返している。手の空いたときはふと思い出す。遠く離れた同胞を今何をしているんだろう。
 ハクに会いたいな。離れても平気だし、むしろ私はハクから少し離れるべきだと思っていたのに。甘えて馴れ馴れしくして依存して。だから二つ返事で帝の話に乗ったのに、好きなのはオシュトルなのに、無性に会いたくなるのは何故なのか。同郷?価値観の類似?勝手な親近感?考えても答えはみつからないままだ。うんわかってる、寂しいから依存してるだけ。はた迷惑極まりない。
「目的地まではまだ掛かる、気楽に行こうや」
「うん」
 先を憂いていると心配をかけたのだろう、ウコンに肩を叩かれて私は迷いを脇に追よけまた空を眺めていた。

 気遣われてばかりの道中だ。何かお礼したいと申し出れば、元気でいてくれるなら何もいらねえとウコンは笑うばかりで逆に困る。気を利かせてくれたのだろう、二人が歌を歌うのを見て見よう見まねで気晴らしにでもと歌えば聞いたこともねえ歌だおもしろいと褒められ私は気をよくした。

 曇り空の昼中ごろ、見つけた川で汚れを落とそうと三人の勧(すす)めもあり一人水浴びをしていた。何故か見張りを買って出たはずのウコンが木陰からこっちをガン見していて、隠す気もないのがいたたまれなさに拍車をかけた。無視しようにも一心に見てくるから羞恥心から堪(たま)らず見る理由を尋ねれば嬢ちゃんが綺麗でとさらりと返される。裸の女を盗み見るの良くないし取り締まる側でしょと口をとがらせればカミさんだし見る権利はあると悪びれず答えた。ああ言えばこう言う、減らず口の応酬にしかならないと口をつぐめば、どこも悪いところねえならいいんだと返されて理由を知り申し訳なくなった。ゆっくり離れる背にごめんと声をかけると今晩のおかず礼代わりにもらったから気にすんなと手を振るから思いっきり水をかけてやった。ついでにこんなんで礼になるなら幾らでもどうぞと手を広げれば、夜たっぷりもらうからのんびり漬かりなと苦笑される。
 体(てい)よく流されてしまったが体を洗うのに専念しよう水辺に戻り腰を下ろした。痛みこそないが馬車の揺れは目覚めたばかりの体には堪(こた)えているのも確かだから。

 何もなくてもどこか悪いところはないかとおでこや腕、果(は)ては腰まで撫でさするからウコンが近くにいなくても羞恥で頬に熱がたまる。
 ある時、馬車の中で昨夜の出来事を思い出し、頬に手をやり俯(うつむ)く私を御者のウコンはいつから見てたのか、こっちを見て二やつていた。ちょっとだけムカつく。
「最近嬢ちゃんいっつも何か考えてるけどよ。案外わかりやすくて可愛いよな」
 どうせ頭の中はお花畑ですよ。
「夜、しっぽり」
「私共はお気になさらずどうぞご存分に」
 多分ウコンは双子に呼びかけるつもりはなかったんだろう、視線こっちガン見してたし。私も双子が喋(しゃべ)るとは思わず驚く。いいのと尋ねれば内々なら問題ないですと返るのでそういうものかと濁(にご)しておく。ウコンは馬車奥に座る双子に少し勢(いきお)いを落として答えた。
「これ以上は旅に差し障るので止めときますわ。嬢ちゃん恥(はじ)で身投げしかねねえし」
 居心地悪くて全身がゆでだこです。思い出すたびに馬車の揺れやウコンの声が情事と連動して色々刺激するんでさっきから一杯一杯の私には何もかもクリティカルヒット。ウコンの指摘も尤(もっと)もと無言で肯定すれば我が道を行く倫理観の双子にも多少通じるものがあったらしい。布越しだが顔を見合わせるそぶりをした後神妙に頷(うなず)いた。
「愚門」
「意味なく自死する方でないとお見受けしておりましたがそこは盲点でした。以後気を付けます」
 会話はそこで終わるつもりのウコンは肩をすくめて前に視線を戻すがなぜか双子の会話は止まらない。
「望まれている」
「子を宿せば帝もさぞ喜ばれるでしょう。支障があれば姿を消すのでいつでもお声掛けください」
 涼(すず)し気(げ)に言い切られたがそれが逆に居たたまれなさに拍車をかける。まるで昼も盛(さか)ってるかのような言動はやめてほしい。一寸の虫にも五分の魂、私にだって五分くらいの羞恥心はある。頭の中お花畑で終始盛る奴に突っ込む資格ないのは自分でも分かってる。
「巫方(かんなぎがた)はこう言われてるけどよ、どうよ嬢ちゃん」
「聞くまでもないけど一応聞いとく。何が?」
 平然と返される言葉に予見しつつ伺(うかが)えば想定内の言葉を返されてしまった。
「車ちょっと止めて物陰にでもしけこまねえか? せっかくのご厚意無下にするのもなんだしよ。俺としちゃややこは早い方がいいってのは確かだし、一発どうでえ?」
 やっぱ下(しも)の話題ですかっ!
 ウコンのことだから進行方向に賊がいるとか襲撃察知して一旦止めようぜ的な配慮かと思ったのに。思うままを口にして、ついでに盛りすぎて体調に堪えてないか心配を装(よそお)えばじつは襲撃の恐れがとウコンは真面目に答えてくれた。それなら先に早く言ってよと私は不承不承気乗りしない風で申し出を受け入れ馬車を降りた。双子は手を振り見送ってくれる。
 馬の紐(ひも)を手近な木に括(くく)りウコンに手を引かれ草むらに腰を屈(かが)めて身を隠した。さあどんな難敵かと構えていると後ろからウコンに伸し掛かられ求められたところで嗚呼やっぱりねと納得する、襲撃はと提示した疑問は率直に抱きたいから聞いただけだがと返されてそうだよねと頷いた。
「嬢ちゃん考えすぎるの直した方がいいぜ、でないと俺みたいな輩(やから)にいいように扱われるからな」
「うぅ。今、みをもっておしえられてるさいちゅうです……ぐすん」
 ウコンは地面に手を付け丸まる私の襟元(えりもと)を大きく広げ直接肌をまさぐり揉(も)みしだいた。随分性急だが昼日中街道沿いの外(はず)れで事に及び人目に付く可能性を考えると急ぐ気持ちも理解できたから咎めはせず、与えられる快楽に呻(うめ)き時折下で肌を擽(くすぐ)る草の感触にも感じ入(い)る。
 好き勝手動く手はやがて下着を潜り茂みを掻き分け秘部へと侵入した。声を殺そうとしてもウコンの指が蠢(うごめ)くたびに生理的衝動からうんとかやんとか聞くに堪えない嬌声が飛び出てしまう。自然と腰を上げ受け入れやすいよう自分から股(また)まで開く始末。濡れそぼりなんなく指を受け入れた箇所に思う所でもあるのか背後から一方的に抱き込む男は楽し気にくくくと笑みを零(こぼ)した。
「すっかり馴染んじまって、そのくせ恥じらいは生娘(おぼこ)のままだからいけねえ」
「だ、だれのせいだと、う、あっ、やん、いや、いやっ……」
 侵入する指が増えた。しかもバラバラに動くから堪(たま)らない。
「俺だな、このまま俺だけでしかいけねえようにもっともっと仕込んでやるよ」
「や、貴方以外や、あなただけがいい。あ!」
 目を瞑(つぶ)り首を振って可能性を否定する私からウコンは指を引き抜いてひっくり返し、取り出した一物をすぐにも突っ込みたいだろうにぐずぐずの秘部に当て揺らし微笑む。
「当然、他の奴になんか、渡すかよ。ほら、泣くのはやめて、こっち集中、な?」
「う、うん……うぅ〜っ、ふっ」
 逆光のゆっくりと侵入する男に私は身を任(まか)せウコンの好きにさせた。

 太陽の高いうちから励(はげ)んだくせに事が終わったウコンは元気ハツラツで輪をかけて私に甘かった。
 事が終わり、いつものように放心状態の私の着物を整(ととの)えて、ウコンは私をお姫様抱っこで車に直行する。双子は空気を読んで姿を消し御者を買って出たのか出発する馬車の中で私は敷かれた布団に身を横たえた。水はいるか体は辛くねえかとウコンは私を撫でて構い倒す。無茶された特権であれが食べたい抱きしめてほしい果ては軽くキスしてチューしてと意味を教えて袖(そで)を引けば、蕩(とろ)ける笑顔で答えてくれる。いつもベタベタなのに特にひどい。毎日触(ふ)れてくるからいつもどうしていいかわからなくなると呟(つぶや)けば、俺は嬢ちゃんが可愛すぎて毎日どうにかなっちまってると、威厳もくそもない顔で教えたばかりの言葉を使いたがった。

 ちゅっちゅちゅっちゅ。
 旅の空、双子の目を盗み天幕の陰や御者台で頭に頬に送られる口付けがくすぐったくて嬉しい。なのに恥ずかしさから不機嫌を装い流され仕方なくウコンに付き合う振りをする自分は私からみても可愛げがない。
 ウコンに良く思われたい、思われなかったらどうしよう。
 生じる不安は知らず姿を現(あらわ)していた双子が心情を代弁してくれるからウコンを無駄に喜ばせるだけで終わった。
 ありえねえ、嬢ちゃんが可愛くねえなんて天地がひっくり返ってもねえから、んな心配すんな。
 ウコンは快活に言い捨てるが私の胸の内は重かった。身元を勝手に打ち明ける自由は私にはない。双子も私の悩みに関して勝手に明かすのは気が引けるのか、それとも許されていないのか身の上に関わる心情を明かすそぶりは見せなかった。帝の許しがなければ身の上も明かせない女、それがいつも胸の内で重石(おもし)のように覆(おお)いかぶさっている。


 歌は私にとって慰めだった。辛いとき口ずさめばその時だけは私でない誰かになれる。青空や夕焼け時に曇天(どんてん)、夜空に雨空、なんとはなしに口ずさめば近くにいる動物が寄ってくるのに戸惑った。
 ある時、皆が買い出しで私は宿で留守中、窓枠から外を眺めていると鳥がこちらを伺(うかが)うように近く旋回(せんかい)する。もしやと思い手を伸ばせば腕だけでなく指先に止まった。こんなの一度だってなかった。狼狽える私だが鳥は物おじせずに可愛い鳴き声をあげて腕を昇り頬に身を寄せた。どう考えてもあり得ない状況に途方に暮れ、そしてふと思い出す。今地上で活動する動物は人類が作り出したものだ、動物もすべて隷属するよう遺伝子に組み込まれていたと。
 今更思い知る罪深さに慄(おのの)く私を宥(なだ)めるように鳥は小さく鳴き声をあげた。
「慰めてくれるの、ありがとう……」
 礼を合図に小鳥は飛び去り、その日を機会に似たようなことが起こり始めた。
 私が沈んでいると動物が寄ってくるようになったんだ。飼われている鶏が集まるのは可愛い方だ。馬だけでなく酷(ひど)いときには狼がやってくる。幸い撫でたりもういいよと言えば落ち着いて帰りはする。しかし私たちは物見遊山をしているわけではない。迷惑をかけた人に謝罪するのも私だけじゃないから、世話になりっぱなしのウコンを困らせて申し訳なかった。面白いものが見れて愉(たの)しい、野生の狼(おるけ)が腹見せるなんて今まで聞いたことねえや、腹の模様も色々あんだな、と笑ってくれるのが救いだが詭弁(きべん)だともわかっている。

 車の中で物思いに暮れていると車を運んでいた馬が突然嘶(いなな)き車中に顔を突っ込んできた。危害はないからか双子は動かず私は奥まったところにいたから大事はないが、届かないのが馬の癪(しゃく)に障(さわ)ったのか、無理にでも首を伸ばす姿に痛めてはと慌てて前に飛び出る。後ろに下がってと言えば嬉し気に頬を寄せ従うんだから、またかとうんざりしても愛らしさには勝てず、仕方ないねちょっとだけ撫でたげると御者台に出て苦笑するウコンに出迎えられた。道のど真ん中だが行きかう人は少ない。多少止まっていても迷惑にはならないがまた旅程を遅らせてしまったみたいだ。
「ごめんねまた」
「いいよ、嬢ちゃんが出てくりゃ大人しくなるし」
 ウコンの隣に首を伸ばす馬を掻(か)いてやるとぴぎゃぴぎゃ嬉し気に身をよじらせる。体は大きいのに反応は雛のそれに近いから思わず吹き出した。主人は俺だぞと不満気に文句を飛ばしつつ腕を伸ばし反対側から掻(か)いてやるウコンの反応も愉(たの)しかった。
 しばらく掻(か)いていると何か思いついたのか、ウコンはしみじみした風で語りだした。
「森の娘ってのが海を渡った国にいたって聞いたことがある。動物に懐(なつ)かれやすいって話だが、嬢ちゃんのはちょっとすげえな」
 この前は野生の狼がきてすわ一大事だったもんね。私に狙いをつけて飛びかかるは追い払おうとするウコンから逃げ回り近くの双子を無視するのにもしやと思い、ウコン達に制止をかけたら擦(す)り寄ってきて、ひっくり返りお[腹|なか]まで見せるから試しに撫でたらくんくん悶(もだ)えて可愛かった。撫でるのが楽しくなったころには納得したのかワンと一鳴きして森に返っていくし。ウコンと二人顔を見合わせて脱力したなあ。慰めてくれるのは有難いが種族の特性まるっと無視するのはどうかと思う。狼は肉食だ。あの振る舞いはただの犬でしかない。
 物思いを切り上げたところで、感嘆交じりのウコンの指摘に特別視されては困るから慌てて他にも事例はあるんだと矛先をずらした。
「ハクも似たようなもんでしょ、馬に厩舎(きゅうしゃ)で伸し掛かられるわでもみくちゃにされてたよ」
「聞いた聞いた。困らせたのは悪かったがよ。あの後馬の機嫌よくて管理が楽だったって馬番喜んでたぜ。アンちゃん様様だとも拝(おが)んでた。アンちゃん馬番の才能あるかもな」
「職失っても食べてけるよね。毎回押しつぶされるわ舐めまわされて大変だけど」
「オシュトル様に追い出されるってのは万に一つもねえと思うが」
「例えだよ例え」
「……まあ気の毒だから薦めはしねえがよ。ふむ、案外多いのかもな、森の娘って奴の血縁」
 しみじみ頷くオシュトルだが森の娘はトゥスクルにしかいないと思う。人類の縁者か祖先が係累かもとの予測は言わなくてもいい推測だから黙っておく。
「山盛り」
「ヤマトは大国ですから謂(いわ)れのある者が訪れていてもおかしくはありません。ご兄弟、ご縁石が土地に根付き先祖がえりをしたとも考えられます」
「俺に出なくて良かったぜ。馬に近づくたびに騒がれちゃ仕事にならねえ」
 大丈夫、出たとしてもハクみたいに抑えれるようになる。オシュトルに扮(ふん)してからは意思をくみ取って馬たちも大人しかったし。ルルティエのココポを除いてだけど。
 嫌な連想を首を振り追い払う。
「何事も普通が一番だわ」
 平穏を勝ち取ろう。そのためにも急がねばと胸に思いを秘め、さあ頑張ってと馬の首を軽くたたけば意思が通じたのか、嘶(いなな)きを上げて馬は猛ダッシュで走り始めた。ひっくり返る私を慌てて抱きとめウコンは手を握り制止を呼び掛けた。人を引きかねない速さに手綱を打つが馬は大張り切りで幸いにも多少理性は残っていたのか、人をよけ馬をよけしばらく爆走した。人類の遺伝子効果抜群で制御できてないのが辛い。
 疲れたころには止まったので、手綱を木に括(くく)りしっかりウコンのお叱りを受けた後はしょぼくれる馬を撫でて慰めた。
 役に立とうとしてくれたんだよねありがとう。
 馬ははしゃぎ逆にウコンが分むくれる。俺だって頑張っていると主張するから労いの言葉をかければすぐに機嫌も直り、思わず可愛くて笑ってしまった。
 皆役に立っている。お荷物は私だけだ。


 深夜皆が寝付いた天幕で、あるいは旅籠屋の一室で、悪夢から悲鳴を上げ稀(まれ)に上げず目覚めた私の逃亡は時に成功しあるいは失敗し、嗚咽を殺そうと手で口を隠し蹲(うずくま)る。ウコンに優しく抱きとめられた日もあれば双子に背を撫でられ小さな歌声を子守唄に寝付く日もあった。
 ヤマトについて鳴りを潜めた悪夢はハクと離れた不安からか寝入り端に現れるようになった。毎日じゃないのが救いだが見ないようにしても無駄、寝つきにいい民間伝承を試みても効果はなく、目覚めた私はため息ばかりついている。
 何を口にしたかは日によって様々で時に恨み言時に懇願、あるいは言葉にならない慟哭を叫びただ鬱々と泣き伏せる日もあった。内容は自分でも把握できていない。思い出したくない塗り潰してとウコンの胸に飛び込み意識を無くすまで快楽に溺れた回数は片手を超える。
 ハクの不在を当たり散らし、後日起き抜け一番にひたすら頭を下げた日もある。誰にも責められず逆にもうすぐ会えるから我慢だと、慰められて申し訳なかった。
 皆否定せずただ傍にいてくれた。ハクといた日々のようにハクの代わりを努めるように。そして朝になればそんなことは欠片もなかったという風にウコンの腕の中で目を覚ましおはようを言い合う。皆とても優しかった。その優しさが有難くて時に辛いと思うのは私の勝手な負い目ともわかっている。
 知らんふりが最善なのについ泣き伏せる日もあった。心配する三人は特段きっかけがないと知ると落ち着くまで傍にいて好きにさせてくれた。少しだけ泣きぬれた後最後にごめんねと軽く謝罪し照れくさげに礼を言えば、微笑まれてまた日常が戻ってくる。三人とも本当にやさしくて少しだけ辛く感じるのは私の勝手な我が儘だと理解している。


 ある日泊まった宿で深夜こっそり酒を隠し飲むウコンを見つけて気まずそうな彼に手酌をした。不真面目を詰られるかと思ったと安堵する彼になら私も労えやと杯(さかずき)を分けて貰えば懐かしい味に涙が出そうになる。ちょっと嬢ちゃんには強すぎたかと取り上げられ、薄めれば飲めるかと口づけられそのまま押し倒される。疲れないと聞けば癒されると胸元でしみじみ呟(つぶや)くので役に立てるならと好きにさせた。
 幸せと望郷の楽類、様々な感情が日ごと募り私は一杯一杯だ。


 山道に差し掛かる街道を馬に乗っていた時、暇を持て余し旅の空に歌っていると通りすがりの人が突然お金を投げてきた。別嬪な上に上手いな、良い歌をありがとうと声を掛けられ、すかさずウコンが腰に手をやり俺の嫁にあんがとよと憎まれ口を叩いた。おもしろかったんだろう、もう一人の連れが、嫁さん寂しがせんなよ、悲しい曲歌わせやがってとヤジを飛ばす。売り言葉に買い言葉の応酬だ。
 頭を引き寄せられ頬を擦り合わせてこんなに仲良しこよしだっつ〜のに、独り者のやっかみはやだよなあとわかってるくせにウコンは溜息をつく。髭が痒い、剃って。正直な感想を零せば受けたのか投げ銭をくれた二人は大笑いで去って行った。
 ひでえよ嬢ちゃんとウコンが零すが、貰った銭を私に渡す際、嬢ちゃんそれで一儲けできるぞ、ああ銭はいらねえ嬢ちゃんの歌が良かったから寄こしたもんだ、俺が貰うのは話が違わあなと、世話になる礼に銭を渡そうとする私を押しとどめて受け取らなかった。
 オンヴィタイヤカンの歌はアニソンでも受けると余計な知識をインプットした一幕だった。
 ヤマトは太平だが以前山賊の襲撃を受けたこともあり多少の難事はあると構えていたが争いもなく旅は進んだ。下るほどに熱くなりトゥスクルはもっと熱いが耐えられないほどじゃないと聞いて辟易する。聞くは安し行うは難しと言う奴だ。


 道を行き、やがて見える潮騒に時が流れても変わらぬ風情があると知る。無意識に知る面影を探してやはりこの世のどこにもないのだと落胆するのもよくあることだ。
 だが砂浜に転がる貝殻の欠片は綺麗で懐かしい。自分とネコネちゃんへのお土産にと拾えばウコンも手伝ってくれた。幼いと思われただろうかと不安になり、巻貝があったぜとほくほく顔で持ってきたウコンにこういうの控えた方がいいかな?と聞けば内内ならいいと言う。やはり子供っぽい振る舞いかと落胆すれば、可愛いが過ぎるから俺の前だけにしろよと注意されて自然集まる頬の熱にまいってしまう。
 うんと頷き、選んだ戦果を懐にしまい、船の乗車券を買いに道行く途中きらめく波を何とはなしに見ていた。
 海見たことあんのか?とウコンに聞かれたけど多分?とだけ返しておいた。家族旅行や
学校行事でなんて語っても意味わかんないだろうし詮索されても悲しくなるだけなのは想像できたから。
 聡(さと)いウコンは何も尋ねず淡々と入船の許可証をもらい行商船だという船に一般客として潜り込んだ。
 大勢の人と看板に出てそれなりに話し、夜になれば一般客室もとい大勢で雑魚寝というのは新鮮な体験だった。でもこれ以上は勘弁願いたい。楽しいのは最初だけだ。出来れば少人数で来やすい人との方が私には落ち着
く。いろんな人の会話や寝息を聞くのはもう飽きた。

 海を越えて着いたトゥスクルに故郷の面影はなく、古い時代劇の様相で故国だった土地に感じるものは懐かしさと寂しさが多い。温泉が残っていたのは幸いだが事あるごとに貸し切り風呂に連れ込もうとする誰かさんのせいで心身ともに休まらないのが頂けない。渇くよりはいいと思うので焚きつけついでに折に触(ふ)れて尻尾を存分に堪能していると酷くされる回数が増えた。閨毎でも過ぎれば毒になると身に染みたので最近は自重気味である。

 いい加減米食いたい米! 
 山道を分け入り集落で購入したふかし芋(あまむ)を頬張る際つい嘆(なげ)いちゃったけど、んな食いもん初めて聞いたがなんだそれ? とウコンに不思議そうに首を傾]けられ慌てた。我が儘はいけない。何でもないと話を切り上げ口が滑(すべ)った気をつけないとと戒めるのに、ウコンは望みを叶えようとしてかコメはないかと方々に声をかけ始めて諫(いさ)めるのに苦労した。故郷の食べ物ですでに絶えた味だからもういいの、懐かしくてうっかり叫んでしまった、美味しいもの沢山食べさせてもらっているから十分と言い含めたのに、帝都の伝手(つて)探せば見つかるかもしれねえとやる気なのが頂けない。

 急いだというのもあり一月かからずトゥスクルに到着した私達は購入した地図を頼りにう一週間掛けて山道を登り、ようやく目的の地、トゥスクル創始者ハクホロ皇の墓所に到着した。旧静岡県の富士山山麓、今ではオンカムヤムカイと呼ばれている。

 到着したといっても神聖な場所だから見張りもあるし聖地巡礼の参拝客はひっきりなしに訪れる。到着したのは夜にもかかわらず参拝を許されているのはある意味観光名所になっているからかも知れない。屋台の串焼きが美味しかった。次はあの飴を強請りたいところだがひとまずはお役目を優先すべきと巡礼者を装い列に並ぶ。
 墓所の墓守が持つ鍵を下さいと見張りに頼む馬鹿はしない。不信は出来るだけ買いたくない、郷に入っては郷に従うのが得策よ。
 入った後はどうするかって?人目を忍んで深部に侵入って案しかないのがハクとの違いだよねえ。ウコンはそれでいいって背中を
叩いてくれたけどさあ。

 大人しく並んでいると背中に翼を背負った女性が奥から出てきた。金髪緑眼の美人に見惚れてウコンはこんなグラマスな人が好みだろうなあ、いいなあこんな美人と肩晴れる度量ないけど胸ぐらい欲しいなあと嘆息していると、なぜか私の前に止まる。
 怯える私に、自分はこれこれこういう者だが貴方はどちら様かと尋ねられたからびっくり仰天。なんて?怖すぎて耳に入らなかったごめん。
「私はオンカムヤムカイに連なる者です。尊き方がこの地に訪れた理由をお聞きすべく失礼を承知で伺いました」
 え?ばれてる、ばれてるなら隠しても仕様がないかと鋭い眼差しを彼女に向けるウコンに許可を求めれば了承を得たので、差し障りのない範囲で名乗りを返しマスターキーが欲しいので尋ねた。やはり駄目でしょうかと怖々問うと、存じております、おおよそはお聞きしているのでどうぞこちらにと列を横目に奥に来るよう促された。
 ……思い出した、彼女は前作で主人公を導いた巫の一族の姫だ。今では賢大僧正だったか。封印された大神の導きで私たちの前に現れたのかも知れない。
 罠を警戒するウコンに今は先を急ぐのが先決と言い含めて後に続く。蛇の道は蛇だ。なるようにしかならないと危険を承知で先を急いだ。

 深夜を過ぎ煌々と夜空に星が輝く夜だった。森林地帯を進み大きな窪みに案内されて岩の裂け目に入っていく。大きな空洞を進み描かれた規則的な文様を何度か見送った先、辿り着いた遺跡にウコンは驚嘆の声を上げていた。これほどのもんは見たことがねえとの呟きに心中で同意した。ただし心情は別の意味で揺れていたけれど。
 滅亡した大都市の名残、何も知らなければ同じように古代のロマンに興奮して私は颯爽と探索に意欲を示したろうし瓦礫をかき分けて古代文明に熱い視線を向けていただろう。一目見ただけでも技術の高さがうかがい知れる建築様式だが、端々に見えるのはタタリだろうか。彼らは浄化されている、襲うことはないと警戒するウコンに賢大僧正は仰るが何も知らなければ鵜呑みに出来ないのも当然だ。
 大丈夫、害はないよ。なんとかそれだけ言えた。理由を説明する余裕はなかった。双子にそっと背を撫でられ、私はやっと震えていることに気づいた。
「先を急ごう」
 私にはどうにもできない。連れ帰り消すことは出来ても聖上が許さぬ限りそれも叶わない。可哀相だと思う。生きてずっとこのままなんて、怖れられ怯えられて私にすら哀れまれるなんて惨い末路だ。でも何も私には出来ない。出来る事なんて集めて消して……やだな消すことばかり頭に浮かぶ。
 隅で震えてじっとして、少しでも間違えていたら私だって彼らと同じだったかも知れない。その同情が妙な共感を呼んでいるんだろうか。元凶に思考が逸れる。タタリを作ったくせに滞在を許すのは罪悪感か余裕なのか、少しでも罪の意識を感じるなら関わりのない者ぐらい戻してやってもいいだろうに……余計な詮索だ。感情移入はよくないと思うのに、一歩間違えば私もタタリになっていたと思えば彼らへの共感や感傷が抑えられない。
「大丈夫か、少し休んでからでも俺は構わないが」
 頭を振って大丈夫だからと否定して痛みに目を背けた。留まるほど余計に辛くなる。気分を変えよう。気遣わしげに見守る視線を意識から追い出して、私は今後の流れを思い返していた。
 思い返して早急に躓いた。困った、何が困ったって……原作でトゥスクル皇墓周辺の詳細流れがどうだったか私が全く覚えてないって点だ。

 偽りの仮面は大好きで周回した。だからおおまかな流れは覚えてる。次作の二人の白皇はオシュトル死んだ辛さで駆け足でプレイして、燃えて感動して考察も何もせずそこで終わらせたんだった。だから覚えてない。唯一覚えてるのは、ハクが色々頑張って皆に支えられて本懐果たしたよっしゃおしまい!ってぐらいの流れだ。なんてことだ、こうなると知ってりゃもっと細部までプレイして覚えとくべきだった。まあ異世界転生(に近い状態に陥る)なんて普通思わんからね、仕方ない仕方ない。
 ん〜、確かここはただの墓所じゃないんだよな。クオンの父親が封印されてるけど前作ヒロインの巫女もいて、話せばわかってくれたんじゃなかったっけ。
 ……なんか段々思い出してきたかも。願うと檄ヤバ展開になってライバルともう一度戦いたい!とか思っちゃったミカヅチが無力化されて、そもそも資格があるからとかで帝暗殺首謀者のウォシスを連れてきたあげくマスターキー渡したのがここのハクホロさんじゃなかったかな?いや違うわ、ミカヅチが無力化すんのは帝都のウォシス戦で……
 あああ、考えれば考えるほど訳わからんくなる。そもそも流れがおかしい。何でウォシスに渡した。奴は戦ってないぞ、手下に勝ったのハクだからね。でもでも、資格持ちなら快く該当する物を渡してくれる人?神?だと考えれば説得もいけなくはない?ハクホロさん個人は旧人類全員のタタリ化とか罪悪感にいじまれてたし、虐殺好んでする人でもなかったよね?どちらにしろそういう流れだったと祈りつつ行くしかないかあ。はああ〜分が悪すぎる賭けだわ〜。オシュトル大好き!とか願いに該当しない感情を胸中でのたまってたら何とかならんかなあ、成るわけないか。でも行くしかないよな、はああ〜。
「大丈夫か嬢ちゃん、さっきから溜息すげえぞ」
 おおう、さっきから油断なく辺りを警戒していた愛しのウコンが、私の異常に気づいたのかこっちを見てくれたよ。
「接吻してくれたら元気出るがんばれる、だから私にせ」
 ……おふざけを言い切る前にウコンは濃厚な口づけをしてくれました。双子、双子どころか賢大僧正もいるからと控えめに押してもびくともせず、最後は思い切りどんどん胸を叩いてやっと退いてくれた。
「ぷっは!」
「なんだよ、嬢ちゃんから誘ったくせに」
 まさかこの状況で乗るなんて思わないでしょうが普通。糸を引く涎を拭ってこほんと咳払いで誤魔化し、意地悪な男から目をそらして苦笑する賢大僧正の後を追う。



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風と行く