夏の影と陽
88.あの森が平和で、退屈で、それでも楽しかった日々が長かったから、俺たちの感覚は少しおかしかったのかもしれない。
王と俺は、複数の人間と、王の奥さん…お妃様に、ある悪戯をした。
眠っている人の瞼に落とすと、目覚めた時、最初に見た者を愛するようになってしまうという、花の汁。
その魔法の花の汁を、俺は、この人間達とお妃様の瞼に、数滴、落とした。
最初は、王と喧嘩したお妃様だけにする予定だったんだけれど……、まあ、王の気まぐれでな。
よくあることなんだ。
でも、彼らが目覚めてから、俺たちは気が付いた。
悪戯は、失敗した。
だから、とんでもなく間抜けな事になっちまったんだ。
失敗さえしなければ、こんな大袈裟なことにはならなかった。
きっと、罪に問われる様なことには、ならなかった。
こんな、罰を受けるようなことには。
「すまなかった、すまなかった。……ピスカ、すまなかった」
王は、ぼろぼろと涙を流して俺に言った。
俺は、罪に問われた。
人間と、深く関わってしまった事。
人間の、運命を変えてしまった事。
そして、人間の、心を操ってしまった事。
それらはこの森で、凄く重い罪になるらしい。
この悪戯を考えた張本人である王は、同罪にはならなかった。
まあ、王様……だからな。
森の中では、王の悪友である俺が、純粋な心を持つ王をそそのかしたとでも思われてるんだろう。
……そうやって王を縛り付けるから、王はこんなにも悲しそうにしているんじゃないのか。
ああ。王が、泣いている。
「なあ、ロン」
王が、顔を上げた。
なんて、なんて酷い顔してるんだ。
蔦の檻から、精一杯手を伸ばす。
「俺がここから出たら、また、一緒に遊ぼう」
差し伸ばした俺の手に、王はふるふると震えながらも応えてくれた。
ああ、王。その出来そこないの笑顔だけでも、俺は充分だ。
どんなに重い罰だって、耐えてみせよう。
なんたって、俺は、腹心の友だから。
王の、たった一人の、腹心の友だから。
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