夏の虫の話

 95.

彼女がコンテストに出場する為に育てられたポケモンだったと知ったのは、それからしばらくの月日が経った頃だった。
初めて彼女の覚えている技や身体的なバランスを見た時、直感的にそう思った。

コンテストとは地方によって様々なものがあるが、これを総じて言ってしまえば、ポケモンの芸術性を競う勝負のことを指す。
彼女は、その勝負の為に育てられてきたポケモンだろう。
彼女はある意味でボクと同じ、アーティストだったのだ。

「今でも私は、こんなにも醜く、愚かで、弱い。こんな私のことなどに構わず、捨て置けば良かったものを」

ある日、彼女は吐き捨てる様にそう言った。
ボクはこれでも、芸術家の端くれだ。
ボクの周りには、沢山の芸術品が集まる。
自分で創り上げたものもあるが、資料の為に集めた写真や造形物もある。

ボクは、これらのものになるべく彼女を接触させないようにした。
あんな姿で、ボクの元へやって来たのだ。
何か、大きなトラウマの一つや二つ、持っているに違いない。
そう確信していた。
……いや、後から聞いた話、実際にそうだったというからボクの予想は当たっていた。

しかし、ボクがこうして彼女をその根源から引き離しても、彼女の傷が癒えることはなかったのだ。
それが何故なのか、この時のボクには分からなかった。
分かっていなかった。
彼女が何を失い、何を求めていたのかを。


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