夏の夜の下
101.建物から離れ、光から離れ、人から離れ。
俺たちは暗がりの小道を、月明かりを頼りに進んで行った。
どこからどんなポケモンが飛び出すか分からないというのに、ミツキはどんどん先へ進んでいく。
俺の手を握って。
「なあ、ミツキ」
呼び掛けると、こちらへ振り向くミツキ。
なに?と訊かれるが、なんて言ったら良いのか分からなくなって、俺はまた、黙ってしまった。
俺は君に、何を言おうとしていたんだろう。
何を伝えれば、良いんだろう。
「陽」
「え?」
呼び返されてミツキの方を見ると、彼女は前を向いたまま、俺に話し掛けていた。
視線が交わらぬまま、ミツキは言葉を続ける。
「陽は、怖いの?」
……怖い?
何を言っているんだろう、ミツキは。
表情の分からぬまま、俺はその言葉の続きを待った。
「何かから追われるこの世界が、怖いの?」
ああ、あいつらのことか……。
どうなんだろう。
確かに、あいつらに追い詰められたり、捕まった時のことを考えると、心底恐ろしい。
何をされるか、分かったもんじゃないからな……。
でも、それよりも、今の俺が思うのは……、
「私はね、怖くないわ。誰のお陰だと思う?」
何かを言おうとした俺を、ミツキの言葉が覆い隠す。
俺の手を握るミツキの指先に、力がこもるのが分かった。
あんなに冷たかった手が、今ではこんなにもあたたかく、熱を帯びている。
ああ、どうしてだろう。
俺はきっと、これから話すミツキの言葉に期待している。
心がざわざわする。
やめてくれ。
やめてくれ。
これ以上、醜い俺の心を、露わにさせないでくれ。
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