夏の夜の下
106.「……ねえ、陽」
「……」
「それは陽の、本心……なの……?」
「…………それは……」
分からない。
わからないよ。
「……それが陽の、本当の気持ちなら、私、悲しくて泣いちゃうわ」
困った様に、ミツキは笑った。
「でもね、陽。私は、知っているつもりよ。……貴方は自分自身にも、嘘をつこうとしているのね」
嘘?
俺が……?
「……私としては、もっと一緒に旅をしていたいって言ってくれた方が、嬉しかったんだけどな」
「なっ、そんなこと……!」
そんなこと、言える訳がない。
そんなことを言うことが出来る資格、俺には無い。
そう言おうとした。
そう言おうとしたのに、俺の口からは、何も出てこなかった。
声の出し方を、喉が忘れてしまったみたいだった。
「大体、酷いじゃない? 私をこんな所まで連れて来ておいて、置いてけぼりにするつもりなの?」
ミツキの手に、力がこもる。
「そんなの、許さないんだから。こんなところで私は一人、どうすればいいっていうの?」
「そ……、それは……」
……ダメだ、返す言葉が見つからない。
そう思っていると、ミツキは可笑しそうに笑い始めた。
とても、とても可笑しそうに、笑い始めた。
「あははっ! 陽ったら……、ふふっ」
「なっ、なんだよ……!」
「私の勝ち! 逃がさないんだから!」
俺の胸に、ミツキの小さな頭がぶつかる。
抱き付くように背中に回される、ミツキの細い腕。
体幹に伝わる、熱。
え、ちょっと。
ちょっと、待って欲しいんだけど……。
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