夏の夢の家
113.俺が森の追手から逃げている間、周りに頼れるやつなんて、誰ひとりいなかった。
森にはもちろん、森から抜け出しても、それは変わらない。
全く関係のない奴らでも、全員、俺には敵に見えた。
比喩なんかじゃない。本当だ。
一人で何とかしないと、捕まっちまう。
誰かを頼ってしまえば、捕まっちまう。
そう思っていた。
そう思っていたんだ。
「助けてほしい」
たったこれだけの一言を、俺はしばらく、言えないでいた。
なんて短くて、簡単な言葉なんだろう。
歪な形をした石っころみたいな俺の言葉は、掌に収まる小さな機械に、あっという間に吸い込まれてしまった。
「どうしたの?」
相手からの、返事。
ああ、この言葉は、俺のためだけの言葉じゃない。
俺の、大切な人のための言葉でもあるんだ。
「ねぇ、大丈夫?」
ミツキと旅を始めてから、色んな奴に出会った。
俺一人じゃあ絶対に関わることが無かったであろう奴らに、いっぱい出会った。
いっぱい出会って、言葉を交わした。
同じ時を過ごした。
たったそれだけ。
それだけなのに。
「何か、あった? ……出来ることがあったら、言ってよ」
こうやって、手を差し伸べてくれるんだ。
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