夏の陽の下

 13.

勝負前に、俺、わりとつえーから、なんて相手に言われて面白い訳がない。
マウンテンバイクの青年は、もう始めていいかと少し苛立った声で訊いてきた。

「ご、ごめんなさい!」

「あはは。じゃあ行って来るわー」

「もう、馬鹿! 勝手にしなさい」

なんて能天気な人なんだろう。
相手を苛立たせておいて。

「君、手持ちポケモンは彼だけ?」

「は、はい!」

急に訊かれて、たじろいてしまう。
もう、相手に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「ふーん。じゃあ、1対1の一本勝負ね。俺はこいつで行くぜ」

そう言って、相手がモンスターボールを放る。
地面に着地し、独りでにボールが開かれた。
中から出てきたのは、灰色の翼を持つ、巨大な鳥だった。

「……凄い」

当たり前だが、初めて見るポケモンだ。
私の肩程の高さはあるだろうか。
あまりの迫力に、思わず感嘆してしまう。
私が目を見張ったのは、その見事な紅い鶏冠だった。
仮面の様に顔を覆い、2本の尾の様に伸びた冠の先は体幹まで伸びている。
よく見ると腹部は濃い緑色の羽毛で覆われており、太陽に反射してきらきらとしている。
こんなに巨大で綺麗な鳥は、初めて見た。

「ケンホロウかー。よろしくな!」

緊張感の無い声で、こちらのポケモンが挨拶する。
大丈夫なのだろうか、この人は。
あんなに強そうなポケモンが相手なのに。
心配していると、不意に彼がこちらへ振り向く。
そして、にっと口角を上げると、大きく後ろへジャンプし、くるりと一回転した。

「う、わ……」

一瞬の出来事だった。
綺麗なバック転を決めて着地した彼の姿は、いつの間にか大きく変わっていた。
その姿は、全身を真っ赤に染めた、人型の羽虫といった所だろうか。
細い両足で直立しており、よく見ると小さな羽で羽ばたいている。
大きな特徴は、両腕の先についた、巨大なはさみだろう。
丸い形に目玉模様が付いている為、それだけで一つの生物の様だった。
背丈は元の彼の姿の時と大差無いのだが、迫力は充分だ。

「なるほど、ハッサムだったのか」

んじゃ、遠慮なく行くぜ!
そう言った相手と、そのポケモンの動きは早かった。
ケンホロウというポケモンはその羽根を雄々しく広げ、次の瞬間には私達の身体を突風が突き抜けていった。


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