夏に似た瞳

 122.

「なんでかって? ……そんなの、きまってるじゃない」

俺を見下ろしながら、ジュペッタは俺の前を楽しそうに浮遊する。
……随分と余裕そうだな、お前……。

「ぼく、ミツキおねえちゃんがほしいんだ」

「は……」

「おねえちゃんといっしょに、いろんなところにいきたいんだ。いろんなところへいって、たくさんおはなしして、いっぱい、いーっぱい、あそぶんだ」

「……それって」

「だからさ」

朱い瞳が、目の前に降りてくる。

「おねえちゃんを、ぼくにちょうだい?」

…………、限界だ。

「ふ」

「うん?」

「ふざけんなああああああああああああ!!!」

口角が裂ける。
全身に熱が奔る。
血が沸騰する。
骨が軋んで、形が変わり、痛む皮膚が心地いい。
血が淀んで煮え滾って、心臓は強く脈打ち、破裂しそうだ。
耳が、鼻が、目が、口が、皮膚が、全ての感覚が、研ぎ澄まされていくのが分かる。
生きている。俺は、生きているぞ。

「……」

俺はもう一度、ぎりぎりと奥歯を噛み締めた。
ジュペッタの首筋は、思った通り、やわらかい。

「陽さん! 陽さん……っ!」

ああ、どこかで、タブンネが呼んでいる。
正直あんまりよく、聞こえねえ。
お前……早く逃げろよ。
でないと、お前も……、

「陽」

冷たい、朝露の様な声。

「なに、してるの……?」

ミツキ?
そう問う俺の、声にならない言葉は、次の瞬間、爆音と強烈な風圧に掻き消されて、聞こえなくなってしまった。

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