夏に似た瞳

 123.

*****

目を開けると、そこは白い蛍光灯がまばゆく光る個室だった。
……また、心当たりの無い場所で目覚めてしまった。
一体、最近の私はどうなっているのだろう。
周囲を見渡すと、自分の左腕に点滴を繋げられていることに気が付いた。
……ここは、病院だ。

「……」

本当に、訳が分からない。
こんなことになる経緯を、全く思い出すことが出来ない。
私は、どうしてしまったんだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう。
……あれ。そういえば……

「は、る……?」

「おにいちゃんなら、ここにはいないよ」

「え?」

ベッドサイドから、ひょっこりと顔を覗かせる、朱い瞳の少年。
くりくりとした大きな目を輝かせて、ぴょこぴょこと飛び跳ねている。

「おはよう、おねえちゃん」

「あ……。おはよう……」

「えへへ。いちばんにおはようができて、うれしいなあ」

「……。あの……」

どうして私と君が、ここに?
そう尋ねようとしたが、少年から次々と紡がれる言葉に、遮られてしまう。

「だってね、すごーくこわかったんだよ。ぼくね、ここにいたら、いけないんだって。なんでだろうね? こわーいおじいさんがきてね、むりやりどこかへつれていこうとするんだ。だからぼく、」

「くぉらあークソ坊主。勝手に抜け出しやがって……。じいに着いて来いと言っただろう」

がらりと部屋のドアが開いて現れた姿に、私は目を丸くした。

「へ、兵太さん……!?」

「うわーっ、きたー!」

「ああ、どうもな、嬢ちゃん。あー、こらあ、病院の中で走り回んじゃねえ」

ちょろちょろと逃げ回る少年の後を、目で追いながらこちらへ近付く兵太さん。
……何が一体、どうしてこんなことに……?

「ははは、何がなんだか、さっぱりって顔だな」

「はい……」

半ば呆け気味のまま応えると、再びははは、と笑いながら、兵太さんは傍の椅子に腰を下ろした。

「まあ、済んだことだし、心配するこたぁないさ。……嬢ちゃんは脱水と、軽い熱中症」

「え……ええ!?」

「もう点滴も終わるし、心配ないんだとよ。お疲れさん。陽の野郎は、頭を冷やして来るついでに、食い物の買い出しに行ってる」

「……?」

「で、俺はこのちょこまか坊主のお守りだ」

「ちょ、ちょこまか坊主……」

「しつれいだよねぇ。ぼく、きずついちゃった」

兵太さんとは反対側…点滴を打っている方の私の手に、少年の手のひらが乗る。
い、いつの間に……。
驚いたのは兵太さんも同じだった様で、呆れた様に溜め息を吐いた。

「だから……。すぐに走ってどっか行っちまうのは、勘弁してくれ。俺はついて行けん」

「ふーん! いやだよぉーだ」

「……」

「……」

……何というか、こんなに兵太さんが手を焼いている姿を見るのは、初めてだ。

「ったく、フウロより手が掛かる……」

そう独り呟いた兵太さんの言葉に、私は曖昧に笑って応える他に術は無かった。


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