夏に似た瞳

 126.

「あの坊主はな、小せえなりして、中々の曲者だぞ」

そう少年を見据えながら話す兵太さん。
今、少年は陽と取っ組み合いの喧嘩をしている。
……といっても、私にはじゃれ合っているようにしか見えないのだが。

「ここら辺りの過去の事件だとかニュースだとか、お嬢ちゃん、覚えているかい?」

「いえ、あまり……」

「そうか。まあ、こんな辺鄙(へんぴ)な土地の……しかも、怪奇現象みてえなネタ、安いジャーナル誌ぐらいしか取り上げんのかも知れんなあ」

「……」

「あのでかい屋敷はな、ここヤマジの町はずれに建ってるんだ。どこの誰が残していった廃屋かは分からんが、皆、ストレンジャーハウスと呼んでいる」

「ストレンジャーハウス……」

「ああ。俺も詳しくは知らねぇが、野生のポケモン……それもエスパーやゴーストタイプのポケモンがわんさか住み着いてからは、景観も相まって、今じゃそこそこ有名な心霊スポットだ」

「し、心霊スポット……ですか」

「そうらしいぞ。なんでも家具が勝手に移動しているだとか、女の子の幽霊を見たっていう奴等が続出してるんだと。まあ粗方、住み着いた野生ポケモンの仕業だろうな」

「……」

「で、本題はこっからだ。二、三年ぐらい前の話だ。あるポケモントレーナーが、自分の荷物や手持ちのポケモン全てを置き去りにして、姿を眩ませた。行方不明になった場所はここ、ヤマジのポケモンセンターだ。……居なくなったトレーナーは、すぐに見つかった。あのストレンジャーハウスの中で、眠っているところを発見されている」

「……それって……」

「この事件はもう、ここ数年で何度も起こっている。今回ので…何度目だろうな。残念ながら、いくら捜査しても全く実証が掴めなかったんだ。被害者は被害者で、夢をみていた、だとか、男の子と遊んでいた、なんて妄言ばかり吐く始末だ。ここにはジムリーダーもいねえから、フウロが調査に当たった事もあったんだが、何も分からなくてなあ……」

「……」

「でも、今回の件でひとまずは解決だ。この一連の事件は、あの坊主の仕業だって事が分かった」

「……あの、それはどうして?」

「あの坊主が、あっさりと自白したんだよ。数年の間に何度も、何人ものトレーナーをあの屋敷に呼んで、一緒に遊んでた、ってな」

「……あの男の子が、自分で……?」

「ああ。……お嬢ちゃんは信じられねえかもしれねえが、あの坊主のレベルは相当なもんだ。恐らく、元々はどっかのトレーナーの手持ちポケモンだったんだろうよ。それがまあ、捨てられて、いつからかあの屋敷に住み着いたんだな」

「で、でも私達、以前あの男の子に会ったことがあるんです。PWTの、会場前の広場で……」

「まあ、力も有り余ってるだろうからなあ……。その辺は、坊主本人に訊いてみたらどうだ?」

兵太さんが振り返ると、陽と少年がこちらに気が付いた。

「なになに? おはなし、おわったの?」

少年が、陽のお腹を蹴り上げて、こちらに駆け寄って来る。
陽は少し唸った後、何かをぼやきながらこちらに足を向けた。

「いや、まだ終わってねえよ。それより坊主、陽と嬢ちゃんに初めて会ったのはどこだ?」

「え? ぼく? ……うーん」

少年が首を傾げると、その後ろから陽が腰に手を当てて溜め息を吐いた。

「お前なあー、とぼけてんじゃねえぞ。PWTの会場にいただろうが。シャボン玉の水鉄砲だってお前、覚えてたじゃねえか」

「それは、おぼえてるよ? あわのてっぽうだって、たいせつにしてる。でも、ばしょがどこかなんて、わかんないよ」

「……そうかよ」

「……どうして、あんな遠くに居たの? ここから行くには、随分と時間が掛かったんじゃないの?」

少年に尋ねると、彼はぱっと顔を上げ、そしてポケットから何かを取り出した。
そこには、不思議な淡い光を放つ、羽根の様なものが握られていた。

「ぼくね、クレセリアをさがしてるんだ。みかづきポケモンの、クレセリア。おねえちゃんも、おはなし、よんだでしょう?」


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