夏の海と君

 131.

「うみ! だー!!」

「ああー、待てこら坊主。勝手に突っ走るんじゃねえ」

そう言って、海辺へ駆け行く少年と兵太さん。
青い空に、白い雲。
その真下では太陽に照らされた白い砂がきらきらと瞬き、その向こうには、深いエメラルドグリーンの美しい海が広がる。
そこにはすでに沢山の観光客達が羽根を伸ばしており、思い思いに夏の休日を満喫している様だ。
陰鬱とした洞窟の中をただひたすらに歩いて来た私達には、眩し過ぎる光景だった。

「ははっ、なんかいいな。こういうの」

「そうね。あの子も、すごく嬉しそう」

そう言って陽の方を見ると、彼はいつの間にか人間の姿に戻っていた。

「それにしても、シキミってやつはどこにいるんだろうな?」

「そうね。まずはシキミさんを探さないと……。別荘……とかあるのかしら」

その辺りはきっと、兵太さんがよく知っているのだろう。
よく聞いておかなければ。

「……あー、でも、この感じだと先にポケセンに行っといた方がいいかもな」

「え? どうして?」

「これだけ人がいたら、宿舎が空いてるか分かんねーぞ」

「ああ、確かにそうね……」

よく考えてみれば、確かにそうだ。
この夏の時期に合わせてサザナミタウンを訪れようと考えるトレーナーは、きっと多いに違いない。
だって、こんなに綺麗で、楽しい場所なんだもの。

「先にポケセン行って、宿舎の空き見て、それからまた戻って来ようぜ。そしたら海で遊んで、ついでにシキミを探そう」

「そうね……。って、あははっ。陽ったら、シキミさんを探す方がついでなの?」

「だって遊びてーじゃん!」

「ふふ。それじゃあ取り敢えず、ポケモンセンターに行こっか」

「おう!」

張り切った返事をして走り出す陽に、私はまた、笑ってしまった。

「楽しいな」

そんな私の小さなひとり言は、広大な浜辺と賑やかな人々の中に、溶けて消えてしまった。


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