夏の海と君
132.冷房のよく効いた、ポケモンセンターの一階ロビー。
快適なこの空間では、多くの旅人や観光客が、のんびりとその羽を休めくつろいでいる。
大きな広い天窓からは夏の鋭い日差しが射し込んでいるが、今ではその熱も心地良い。
「よかったなー、まだ部屋が開いてて」
宿泊の予約を済ませ、陽と共にロビーを歩く。
ここサザナミのポケモンセンターは、アンティーク調の木やラタン素材の椅子や机が並び、さながら南国のリゾートホテルの様な装いだ。
観賞用の大きな天然のヤシの木には、見たことも無い色鮮やかな鳥が、自らの羽を繕っている。
「うん。しかもそのお部屋がね、リゾート風のインテリアになっていて、とってもお洒落なんだって」
「へえー、そうなのか。よかったな!」
「うん。でも、本当に空いていなかったら、どうしようかと思ったわ……」
「そうなってたら、野宿だな。キャンプだ、キャンプ!」
「もう、陽ったら……。キャンプだって言っても、お金が掛かるのよ?」
サザナミタウン周辺には広いキャンプ場が設けられていたり、ペンションやコテージといった施設も数多く存在しているらしい。
テントや寝袋などがあれば快適なアウトドアを楽しめるのだが、今の私達は、その様な物を持ち合わせていない。
「うーん。じゃあ、トレーナーと勝負だな」
「……。その発想、私はあんまり好きじゃないな……」
「え? でも、そうやって散々リバースマウンテンで稼いできたじゃねーか」
「もうっ! それはあなたたちがすぐに勝負をしたがるからで……!」
「兵太もノリノリだったなー」
「うう……」
そう。あの洞窟の中で出会ったトレーナー達に、彼等は目が合う度、ポケモン勝負を仕掛けたのだった。
唯一、ストッパーとなってくれると信じていた兵太さんも、身体が鈍っちまいそうだったんだ、などと言って勝負に挑んだのだ。
結果は言わずもがな、全戦全勝。
お陰様で、私達の旅の資金はとても潤った。
……お金は、多いに越したことはない。大切なものだ。
ただ、このポケモン勝負の賞金、というものに対し、私は未だに慣れを感じてはいない。
他人様のお金を力ずくでむしり取った、という感覚を、今でも払拭できないままでいるのだ。
「……このまま帰れなかったら、私、どこかで働こうかしら……」
「へ? 何か言ったか?」
「え? ……えっ!? う、ううん。何でもない……」
「……?」
……私、帰れなくなったら、だなんて……。
そんな事、今まで考えたこと無かったのに。
……。
……、ばかな私。
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