夏の海と君

 133.

「あー! ミツキおねえちゃーん!」

砂を踏みしめ駆け寄って来る少年を、しゃがんで迎え入れる。
太陽の下で輝かせるこの笑顔を見ていると、あの薄暗い地下室で見せていた不気味な微笑みが嘘の様だ。
その少年の手には、見たこともない程に巨大な巻貝が握られている。

「わあ、大きい貝殻だね」

「うん、そう! すごいでしょ! ヤドンのしっぽにぴったり!」

「ヤドン?」

「もしかしたら、ヤドランにしんかしちゃうかも!」

「や、ヤドラン……?」

話の流れからして、ポケモンの名前だろうか……?
その答えを乞おうと陽を見上げるが、陽も私と同じように顔に疑問符を浮かべていた。
もしかしたら、陽も知らない、珍しいポケモンなのかもしれない。

「おーい」

そんな事を考えていると、兵太さんの大きく低い声が聞こえた。
立ち上がると、海辺の方から歩いてくる兵太さんの姿があった。

「兵太さん」

「なんだお前等、ポケモンセンターにいたのか。探したんだぞ」

「す、すみません……。今日の宿をとりに行っていました」

「宿? ああそうか。いや、別にいいんだよ。それよりな」

「……え?」

兵太さんが、海岸の方へ向き直し、指差す。

「見つけたぞ。シキミだ」

「え……、ええっ!?」

その指先には、とんでもない数の聴衆や野次馬たちがひしめき合う、賑やかな空間があった。
輪の中心では、どうやらビーチバレーが行われているらしい。
ちらちらと白く光って見えるボールとネットが、歓声と共に揺れてこちらまで響いてくる。

「あ、あそこにシキミさんが……?」

イッシュリーグの四天王、ゴーストタイプの使い手、そして、副業で作家をしている……。
失礼かもしれないが、どのキーワードを取っても、あんな熱でむせ返る様な場所に居るような人物だとは、到底思えない。

「どうやら、非公式で四天王やら近くのジムリーダーやらを集めて、ビーチバレー大会をやってるらしい……。全く、騒々しい奴等だ」

まあ、上があんな奴だからなあ……。
そうぼやく兵太さんは、どこか他人事ではない様子だった。
その姿に苦笑しつつ、私は兵太さんに尋ねた。

「でも、どうしましょう……? あの様子じゃあ、シキミさんとお話が出来ません……」

「いや、向こうとはもう連絡がついてる。次のゲームが終わったらしばらくは休憩だから、もう少し待って欲しいってな」

ライブキャスターを取り出した兵太さんが、私達の方へその画面を向けた。
そこには、現在行われているビーチバレーの様子が、モニターいっぱいに映っていた。
白い砂が間近に見える低いアングルからして、ライブキャスターを地面に置いて通信しているのだろう。

「ほら、この紫色のおかっぱ頭が、シキミだ」

その姿に、私はまた、大きな声を上げて驚いてしまった。

「ええっ、じょ、女性……!?」


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