夏の海と君
135.「陽ー!」
「あ、ミツキ!」
「えっ、ミツキおねえちゃん?」
陽と少年は、いつの間にかトランクス型の水着に着替えていた。
本人たち曰く、砂で汚れるからとビーチバレーの参加トレーナーから注意され、貸してもらったのだとか。
全く、気前の良い人がいたものだ。
「シキミさんとのお話、終わったよ」
「そっか。兵太も帰っちまったし、俺たちもそろそろ行くか」
「そうね。……できるだけ、早くここから離れたいな……」
「あはは。ミツキ、ずっと居心地悪そうだもんな」
「あ、当たり前じゃない! こんな大勢の人前で、シキミさんと話をして……。ファンの人に、何を思われたか……」
「カルネの時みたいな顔してたぞ」
「うう……」
「ねえねえおねえちゃん、もう、いっちゃうの……?」
後ろから少年が、ぎゅう、と私のワンピースの裾を引っ張る。
今まで持っていたオレンジ色のビーチボールが砂の上に転がり、ゆらゆらと揺れている。
私はしゃがみ込み、同じ様にゆらゆらと揺れる朱い瞳を覗き込んだ。
「大丈夫。この町には、もう少しいるよ」
「ほんとう?」
「うん」
自分でもびっくりするほど、この子には懐かれてしまった。
それは、とても嬉しいことだ。
だって、目の前で笑顔になってくれる少年が、こんなにも可愛いのだから。
「じゃあ…じゃあ、おねえちゃん、いっしょにバレーしよう?」
「え? ああ、うん! いいよ」
少年はしばらく、皆とビーチバレーを楽しんでいた。
その輪に私も入れてくれるというなら、喜んで参加させてもらおう。
「ほんと!? だったら、はやくきがえないと!」
「え?」
「みずぎだよ、おねえちゃん! みずぎにきがえないと、おねえちゃんも、おこられちゃうよ!」
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