夏の海と君
136.「きゃああああ!?」
「わーっ、ミツキー!?」
今、私達の身体は宙に浮いている。
砂浜の上から、約二メートル。
ふわふわと浮かび上がるその頭上では、勢い良くビーチボールが飛び交う。
これぞ、サザナミタウンに集いしリーグトレーナー戦名物、空中ビーチバレー!……だそうだ。
毎年この様な変わったスポーツをして夏のバカンスを満喫しているというのだから、リーグトレーナーの女性陣は、中々にパワフルだ。
先程から行われているのは練習で、後に本戦が始まる。
しかし、私は未だこの特殊な感覚に慣れず、この様に、どうしようもない有様だ。
ただでさえこの水着姿が恥ずかしいというのに、多くの聴衆の面前で、空中で、逆さまになったまま止まってしまう。
「は、恥ずかしいー……!」
「がんばれミツキ! 慣れれば楽しいぞ!」
陽が、手を取って体制を立て直してくれる。
この不思議な現象の正体は、コートの四角に居る、多種多様なポケモンが放つ念力だ。
彼等は四天王の一人、カトレアさん率いるエスパータイプのポケモン達。
因みに私と陽の身体を浮かせ、支えてくれているのは、ランクルスという、巨大な緑色のゼリーで覆われたような姿のポケモンだ。
大きな腕で一生懸命、私を支えてくれているのが分かる。
……こんなに下手くそな私を担当にさせてしまって、凄く申し訳ないと思う。
何故、私達がこんな事をしているかというと、早い話が、人数合わせだ。
急遽来ることが出来なくなった、ギーマさんという人物の、代役である。
ギーマさんとは、シキミさんやカトレアさんと同じく、イッシュ四天王の一人だ。
そんな凄い人の代役で良いのかと尋ねたところ、彼は運動神経は全くと言って良い程センスが無いため私が代役でも構わない、と、何とも的外れな答えが返ってきた。
「おうおう。目の前でいちゃついてくれんねぇ、あんわろー」
「全くだ。あの赤髪野郎、叩き潰してやる」
「ごったましー」
向こう側のコートから、からかう様な挑発の様な、野次が飛んでくる。
私達の対戦相手となる、セイガイハシティのジムリーダー、シズイさんと、イッシュ四天王の一人で格闘タイプポケモンの使い手、レンブさん。
二人共、よく日に焼けた、屈強な身体を唸らせているのが分かる。
……こんな人達を、今から相手にするなんて。
しかもポケモン勝負ではなく……失礼だが、こんなよく分からないビーチバレーで。
早くも、挫けそうだ。
「はぁー、だから嫌だったんですよねー。男性陣をここに連れてくるの」
「あいてのひと、つよそうだもんねー……」
心底うんざりとしているといった風に溜め息を吐くシキミさんに、少年が頷く。
これから行われるゲームは私とシキミさん対、シズイさんとレンブさんで行われるのだが、それぞれの手持ちポケモンを一匹ずつ、各チームに参加させることが条件となっている。
私は陽を、シキミさんは、つい先程手持ちポケモンとなった少年を参加させ、試合に出場することになっている。
因みにポケモンは人間の姿でも構わないが、基本的にはポケモンの姿で参加するのがルールらしい。
まあ、率直に考えてポケモンの姿の方が能力的に優っているからなのだろうが……。
ただ、陽とシズイさんの手持ちポケモンは、こちらの方が勝手が良いからと言って人型のままなので、まあ、それも各ポケモンによるのだろう。
「強そう……ね。実は、そうでもないんですよ」
向こうのコートを眺めると、屈強なシルエットが四つ。
レンブさんの手持ちポケモンは、ナゲキ、という格闘タイプのポケモンだ。
人並み外れた青色の体躯に、柔道着の様なものを羽織っている。
風貌に関して言えばトレーナーのレンブさん自身も負けてはおらず、誰がポケモンで人間なのか、遠目では判断し難い程だ。
……それなのに、シキミさんのこの自信は、一体どこから来るのだろう。
「私に策があります。すっかり舐めきっちゃってるあの人たちを、こてんぱんにしちゃいましょう」
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