夏の海と君
137.ひゅん、と真横を横切る白いボールは、まるで巨大な鉛玉の様だ。
ボールはやわらかい筈なのに、砂浜には信じられない程大きくて深い穴が開いてしまっていた。
「あぶねえー! おい、今ぜってー俺の顔面ねらってきただろーが!」
「ぴーこらうるせえぞ赤髪ぃ! ちょろちょろ逃げやがって、ドッジボールじゃねえんだぞ!」
「それはこっちのセリフだー!!」
夏の暑い日差しが燦々と照らす砂浜に、人々の怒号と歓声が轟く。
ありがたいことに、こんな著名人達に囲まれている一般人の私の事を、咎める声は聞こえて来ない。
むしろ、頑張れという声援が飛んでくるぐらいだ。
まあ、練習時のあの有様を見て同情している人が大半なのだろうが……。
もしかしたら、リーグ関係のスタッフか何かと勘違いされているのかもしれない。
そんな浮足立ってのぼせそうになる頭を必死に叩き起こし、先程のシキミさんの作戦を反復してイメージする。
上手くいくだろうか……。
私達は宙に浮いているとはいえ、その力は支えてくれるエスパータイプポケモン達の強力な力があってこそだ。
上空から勢いを付けて下降などしてしまえば、落ちる。
だからこそこの競技も、やわらかい砂浜の上で行っているだろうが……。
まあ、痛いものは痛いだろう。
「よしっ! チャンスボールですよー、陽くん!」
相手からのボールを上手に受け取ったシキミさん。
そのボールは、ネットの傍で待機していた陽の元へと飛んでいく。
「おーす。ばしっといけよ、智秋(チアキ)!!」
陽が気合いを入れた、少年……否、智秋くんへのボール。
そのボールは信じられないぐらい、高く高く上がっていく。
ちょ、ちょっと待って。
いくらなんでも、高すぎるんじゃない……!?
「たかすぎるよー!」
案の定、智秋くんは文句を言いながらボールの方へと昇って飛んでいく。
相手も皆、茫然と口を開けたまま、ブロックは諦めてやって来るであろうボールを待ち構えている。
「いっくよー! シャドーボール!!」
スイングした手から同時に放たれる、大量のシャドーボール。
ボールはその中に紛れ、どこを飛んでいるのか、全くと言っていいほど分からない。
「くっそぉ、なめんなあああああ!!」
「おはんら、ようきばりぃよぉー!!」
地面に落ちる大量のシャドーボールは、見事に相手の身体をすり抜けていく。
智秋くんのコントロールも凄いが、全く避けようとしない相手も相手だ。
威力は抑えているとはいえ、当たれば痛いで済まないだろうに。
皆、どこにボールが紛れているか、探すのに必死だ。
……と、私の出番だ。
「えい!」
手から、ぽこっ、と変な音がした。
……まあ、ボールはちゃんと地面へ着地したので、大目に見てやってほしい。
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