夏を知る人

 141.

*****

「お前、また何か企んでんじゃねえだろうな」

「……」

野営地から少し離れ、森の入り口まで歩く俺たちの声を、夜の静けさが迎え入れる。
遠くから何かの楽器の音が聞こえるが、それもじきに聞こえなくなるだろう。
一体、何なんだ。俺に話って。

「ねえ、おにいちゃん……」

智秋が、くるりとこちらを振り向き、立ち止まった。
その朱い瞳は、俺の姿を捕えて離そうとしない。
しかし、その姿はどこか、何かに怯えている様にも見える。
……どうしてだろう。この姿が、俺にはひどく懐かしく思える。

「……ぼくね、おもいだしたよ。ぜんぶ……ぜんぶ、おもいだしたんだ」

「……?」

「この、あたらしいなまえをもらってから……、すこしずつ、なにかがわかってきたきがしていたけれど、わかったよ。もうぜんぶ、おもいだしたから……」

「……智秋、何を言ってるんだ……?」

どうしたんだ? 智秋。

「ぼくがあのおやしきにいたわけも、クレセリアをさがしていたほんとうのいみも、ぼくがおにいちゃんやおねえちゃんとであって、ミツキおねえちゃんのことがだいすきになって、おにいちゃんと、はなればなれにさせたかった、りゆうも、なにもかも。それから、それから……」

「ちょ、ちょっと待てちょっと待て!! 何なんだそれ。何を言ってんだよ。それじゃあ、それじゃあまるで……」

まるで、最初から決まっていたみたいだ。
こいつが、俺とミツキに出会ったことも、散々振り回した挙句、一緒にここまで来て、過ごしてきたことも、全部、全部……。
そんなこと、あるわけがない。
そんなこと……。

「……」

「……」

俺の言いたいことが分かったのか、智秋は俺の目を見つめたまま、動かない。
……いや、動けないだけなのかもしれない。
俺は知っている。
こういう瞳を、俺は、よく知っている。

「わるいけど、これいじょう、いまここでおにいちゃんに、ぜんぶはなしてしまうわけにはいかない。いまは、はなすときじゃない……。でも、だから…。だから、これだけは、おぼえていてほしい」

「……」

この瞳は……。

「みかづきのはねは、ぼくがもっている」

子供が、何かを必死に守ろうとしている瞳だ。

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