夏を知る人

 142.

*****

高く昇った太陽が、今日も世界を明るく照らす。
燦々と降り注ぐ光のシャワーは、歩いて移動する私達の体力を着実に削っていく。
強く吹き込む海風が涼しいが、じりじりと肌を焦がす熱には敵わない。
自分の吐く息さえも熱を帯び、喉がひりひりと麻痺してくる。
まだ少ししか進んでいないのに、身体からは噴き出るように汗が滴った。

「ちょっと休憩しようぜ」

陽が指差したのは、巨大な崖の下に出来た大きな日蔭だった。
ここ13番道路は、砂浜のすぐ傍に断崖絶壁の岩肌がそそり立っており、私達はその砂浜の上を歩いている。
またこの砂浜の方も随分と特徴的で、海上に砂浜でできた一本道が、しばらく続いている箇所があるのだ。
少し歩き難そうだが、小さな天の橋立の様で、とても綺麗な場所である。

「はあ。まだ着きそうにねえなあ、カゴメタウン」

「そうね……」

ちら、と陽を見ると、陽も相当暑いのだろう。
玉の様な汗が、額やこめかみに滲んでいるのが分かる。

今朝、目覚めると、陽が部屋に居なかった。
今までのこともあって、不安になり、私は急いで身支度をしてポケモンセンターのロビーへ駆けたのだったが、陽はのんびりとベンチに腰掛けており、私は驚きと安心が入り混じり、つい、強い口調で陽に怒ってしまった。
しかし、陽の方は予想に反して謝りも笑いもせず、ただ、ああ、とだけ応えたのだった。

詳しく事情を訊くと、早朝、シキミさん一行…リーグ関係者は皆、それぞれの地へ帰ってしまったらしいのだ。
もちろん、智秋くんも。
陽は、彼等を見送りに行っていたと言うのだ。
こんな朝早くに立つとは思っていなかったから、私は昨夜、シキミさんはもちろん智秋くんにも、まともな別れの挨拶をしていない。
何故、知っていたのに教えてくれなかったのかと、陽に問いただしたのだが、返って来た答えはどれもうやむやで、よく分からなかった。

「……。陽ってば、また何か隠し事してるでしょ」

「え、ええっ!? し、してない! してねえぞ!!」

「もう、絶対に嘘! ばればれなんだから!」

「ええーっ」

流石、涼しい場所だと口もよく回る。
暑い中で悶々と考えていたことが、次々と言葉になって出てくる。
女は口が達者なのよ。

そんなことを考えながら、陽に大きな声で話をしていたとき。
ふと、小さな石ころが、上から落ちて来た。降ってきた。
ぽとり。
砂浜の上に落ちたその石を、何の気なしに目で追った瞬間、頭上から、誰かの大きな声が聞こえた。降ってきた。

「見つけたわよ、ピスカ!!」


prev / next

[ back ]