夏を知る人
144.振り返った途端、私は悲鳴に似た大声を上げてしまった。
「あ、ああっ!!」
「ん? 確か君は……」
男性も私の反応で何かを思い出したのか、眼鏡の奥の目を細める。
「電気石の洞穴に居た、ダストダスのトレーナーか」
「……ええ。あの時はどうも」
そう。
電気石の洞穴で出会った、どこかの研究員という男性だ。
長い白衣を腕まくりし、何とも暑苦しそうな姿である。
「まさか、同じトレーナーに二度も注意することになるなんてな……」
かちゃり、と重そうな眼鏡を持ち上げる仕草。
……二度も……?
あの時は確か、ダストダスに変化した陽を、研究場所を汚さない様、モンスターボールへ仕舞いなさいと言われたのだった。
言っていることは最もなのだが、その失礼なもの言いに抵抗の一つもしたかったのを覚えている。
しかしここは仕方ないと思い、命令に従ったのだった。
……少し、ふてくされた態度を取ってしまったけれど。
そして、今回。
一体、何を注意されるというのだろう……。
「知っているとは思うが、ポケモンが人間化したままの勝負は禁じられている。このまま続けるつもりなら、警察を呼ぶぞ」
そう男性は言い放った。
当たり前かも知れないが、洞窟で出会った時よりも、口調が強い。
で、でも……一体、どうすればいいの……?
私だって、彼等の勝負を止めたい気持ちでいっぱいだ。
「できないのか?」
「それが、ええっと……」
「まあいい。相手のトレーナーはどこだ。あちら側にも話をつけなければ、話にならん」
「相手のトレーナーは、分かりません……。一方的に、いきなり攻撃を仕掛けられたんです」
「はぁ? 何を言っているんだ」
まるで訳が分からない、といった風に、眉をひそめる男性。
どうしよう……。なんだか、自分でも混乱してきてしまった。
あのピンク色の女性は何故、私達を狙い、今、陽と戦っているのだろう?
早くしないと、今こうしている間にも、陽はあの女性から攻撃を受け続けているというのに……。
上手くかわしていればいいのだが。
私がそんな焦りを募らせている最中、男性の背後に、一人の女性が走り寄る姿が見えた。
美しい、銀髪。
「ナガアキ」
その姿に、私は既視感を覚えたのだが、彼女の男性に続ける会話の内容で、その思考は遮られた。
「データとして撮っていた映像に、彼等が一方的に攻撃を受けた記録があります。あの女は、人間である彼女にも、一方的な攻撃を発した危険なポケモンです。早急に、対処しましょう」
「……ふん、なるほどな。人間化したままの一方的な攻撃に加え、人間に向かって技を繰り出すとは。……ある意味、興味をそそられるな。何者だ、あいつは」
「分かりません。どうされますか」
「トレーナーが居ないのであれば、捕まえるのも手だな。……行くぞ」
「はい」
頷き合い、海岸線へと走っていく二人。
何がどうなっているのかよく分からないが……。取り敢えず、彼等は私達に手を貸してくれる様だ。
私も二人に続き、光の差す戦いの場へと、砂を踏みしめ駆け出した。
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