夏の陽の下
16.ホドモエの跳ね橋が、その赤い鉄の翼を海へと落ち着かせた。
今、私達はその翼の上を歩いている。
歩いてみると、鉄橋の重々しさがよく分かる。
こんなものがあんなに高くそそり立っていたなんて、驚きだ。
「すごいよなー、船を通すために橋を上げるなんて」
逆転の発想だよな!と隣の彼は言う。
そんな彼の手には紙袋が一つ。
先程の待ち時間、私達はサンドイッチを買っていた。
彼曰く、ホドモエは海沿いの港町で、ぜひ海を見ながら食事を摂りたいとの事。
タウンマップを見ると、その町はホテルが建ち並んでおり、観光客も多い様子。
それならばと、私達は近くに出ていたベーカリーへと足を運んだのだ。
移動販売しているらしいそのお店の店主は、恰幅の良い女性だった。
その女店主からも私達は勝負を受け、そして、あっさり勝ってしまった。
……私は見ていただけなのだが。
「ねぇ、どうしてそんなに強いの?」
「えー。うーん、分かんねえなぁ」
「そんなに強いのに」
どうして私と一緒に居てくれるの?
……そう尋ねそうになって、慌てて口を止めた。
危ない危ない。
「言っとくけど俺、まだミツキにナイショにしてることがあるんだよなー」
「!!」
きた!
やっと言ってくれる気になったのか。
先刻は私の事を好きだから一緒にいるなどど言っていたが、何かを隠しているに違いない。
「……いいわよ」
いつでも来なさい。
こっちの心の準備は出来てるわ。
「……」
「……」
「……え」
「……えっ」
「何よ、話してくれるんじゃないの?」
「いや、だめだろ! さっきナイショだって言ったろー!」
「はー!? 何よそれ!」
内緒にしている事があると言っておいて、その内容を言わないなんて!
何という思わせぶり!
はぁ、と思わず溜め息を付く。
大体、内緒にしている事があるなんて言ったら、ナイショも何も無いだろうに。
……この人、天然なのかしら。
少し心配してしまう。
「え、ご、ごめんな。いや、別に今言ってもいいんだけどさ」
じゃあ、どうして言ってくれないのよ。
そう念を込めて彼を睨む。
「だって、今言っちゃったらミツキ、混乱しちまうかもだろ? ミツキ、今は色んなことで頭いっぱいなんじゃねーかなと思って……」
「……」
……なるほど、彼なりの優しさあっての事なのか。
でも、これはちょっとひどいんじゃないの……?
そう思い、本日何度目かの溜め息を付く。
確かに、私の不安は未だに消えない。
何故ここに来てしまったのか。
帰る方法はあるのか。
友達や……家族はどうしただろう。
今頃、私の事を心配してくれているのだろうか。
また、無事に会えるのだろうか。
会えるといいのだが。
会えなかったら、どうしよう。
もし、もう会えないとしたら、私は
「な、また落ちついたら言ってやるよ」
ふと、我に返る。
ああ、そんな事まで彼が気にする必要は無いのに、と思う。
しかし、変に頑固な彼は、急かしても言ってはくれないだろう。
「ありがとう。じゃあ、楽しみにしているわ」
「おう! 待っててくれよ!」
にかっと笑い、彼は応える。
その笑顔は太陽に照らされて、とても明るかった。
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