夏の夜の光

 151.

*****

俺が罪を犯し、罰を受けることになっても、俺にその罰の内容は伝えられない。
それが、森の掟だった。
このまま延々と蔦の檻に閉じ込められたままなのか、枷を外してもらえないのか、森から追放されるのか、殺されるのか。
俺には何も伝えられないまま、その日はやって来た。
けれどその日、目覚めた瞬間、俺は青ざめた。
俺は檻の中……いや、あの森の中に居なかった。
そこは俺の知らない匂いで満ちた、ひどく小さな、知らない森の中だった。

「どこだ、ここ……」

辺りを見渡そうと立ち上がると、自分の身が自由になっていることが分かった。
視界が広がり、森の緑が鮮やかに色づく。
手足が自由に動く。
生温い空気が、頬を撫ぜた。

「目覚めたか」

不意に聞こえた誰かの声と共に、目の前で黒煙が巻き上がり、黒い大きなポケモンが立ちはだかった。
森の宙に浮いたその姿が酷く不気味だったことを、俺はよく覚えている。

「我が名はダークライ。暗黒ポケモンと呼ばれ、恐れられている者」

暗黒ポケモン? ダークライ?
聞き慣れない名に混乱しているうちに、ダークライは言葉を続ける。

「ピスカよ、其方の悲劇、私はしかとこの目で見たぞ。何とも嘆かわしいことよ」

「……」

「王に従い、忠誠を尽くしたお前が、何故罰を受けねばならないのか、甚だ疑問である」

「……」

「しかし安心せよ。お前は今をもって、自由の身である。どこへでも行くがよい」

「……何を、言ってるんだ」

言っている意味が、よく分からない。
相手に質問を投げかけると、ダークライは少しうんざりした様子で、俺を見返した。

「ふん。早い話、私は其方を助けてやったのだ。其方と私は、同じ匂いがするからな」

「まさかお前、勝手に俺をあそこからこの変な森に逃がしたのか……?」

「もちろん、その通りだ。あの森の奴等から、お前を解放してやった。これから追手がやって来てお前を捕えようとするかも知れぬが、黙って罰を受けるよりはましであろう? まあ、上手く逃げることだな。捕まったら最後、どんな仕打ちを受けるか分からぬぞ」

「は……。お前、何をそんな無責任なこと言って……」

「ふん。逃がしてやったというのに、無礼な奴だ。もういい。後はお前の好きに生きるが良い」

ダークライが、踵を返そうとする。

「なっ! 待ちやがれ、ダークライ!!」

逃がしてやるものかと、必死に手を伸ばす。
しかし、ダークライの姿は一瞬にして黒い煙に包まれ、消えてしまった。
やがて煙もすぐに無くなり、ダークライが居たという痕跡は、全て消えてしまった。
ぬるい風にさらわれて、全て消え去ってしまった。


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