夏の夜の光

 153.

後から分かったことだが、俺がダークライに連れてこられたあの小さな森は、迷いの森という。
……どういう事か分からないが、ミツキが目覚めたっていうあの森と、同じ場所なんだ。

そして、そのミツキと出会い、一緒に旅をしていても、奴等の追跡は止まらなかった。
……いや。むしろ、随分と早くなったのかもしれない。
だって俺はそれまで、奴等の気配を感じることはあっても、実際に追い掛けまわされたり攻撃された事なんて、一度も無かったんだから。
ここが俺の故郷であるあの森から遠く離れた、イッシュ地方であるにも関わらず、だ。

「その、やっぱりあのピンク色の女性や、近くにいたポケモン達も、皆、陽を追ってきたの……?」

ミツキが、心配そうに俺の顔色を伺いながら尋ねてくる。
……そんな酷い顔してたかな、俺。

「ああ、そうだと思う。……正直、あんなに攻撃を受けたり、口を聞いたりしたことなんか無かったけど……」

「それって、今まで以上に追い詰められてるってこと……?」

「……そうだな」

ミツキの顔が、一瞬、暗く曇る。
ごめん。ごめんな、ミツキ。
ミツキにこんな表情をさせる俺自身が、情けなくて仕方ない。

「ピスカ」

ミツキが、俺の、もう一つの名前を呼ぶ。
ゆっくりとミツキの方を見やると、ミツキはいつの間にか、何故か嬉しそうな顔をして、俺に微笑んでいた。

「貴方は貴方の故郷で、罪を犯し、その罰を受ける前に逃げ出してしまったのね」

ああ……。そうだよ。

「そして私を利用して、もっと遠くへ、もっと長く逃げ続けてしまおうと……そう思ったのね」

そう……。その通りだ。

「……私は」

ミツキが窓から漏れる月光を追い、月を見上げる。
そこには目が眩むほどに明るい満月が、静かに浮かんでいた。

「私がもし今、貴方と初めて出会ったのなら、その罪を、私は許さないかも知れない。森へ帰ってと、言うかもしれない。利用されたことも、騙されたって、酷いことをされたって、嘆くかもしれない。……悲しむかもしれない」

「ミツキ、それは……」

「でもね」

月から目を離し、俺の視線を捕える。
その瞳は、とても暖かい光を宿していた。
まるでこの満月の光を、すべて閉じ込めてしまったみたいだった。

「そんな貴方に、私は助けられたと思っているの。出会えて良かったって、思っているの。その気持ちは、今でも変わらない。だって初めて出会った時の貴方は、陽なんて名前は付いていなかった。私に初めて声を掛けてくれた貴方は、紛れもなく、ピスカだったんだもの。……だからもう少し、私は騙されていてあげるわ。その間に、自分で答えを見つけ出しておいて。自分で納得できる方法を、探し出しておいて。……ね、ピスカ?」


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