夏の夜の光

 154.

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私が彼と出会ったのは、私がコイルからレアコイルに進化してからすぐのことでした。
その時の私は、モンスターボールの中ではなく、透明なガラスのケースに入れられていました。
それまで見たことのない景色を見ることができると少し期待していたのですが、それまでの道のりも、新しく連れて来られたこの部屋も、前に居た部屋と大差ありませんでした。
そんな部屋の中で、無精髭を生やし、猫背になり、静かに目を光らせる小太りな彼は、その部屋で唯一、妙な生々しさを放っていました。

「君か。人工的なレベリング進化を遂げたというレアコイルは」

「……はい」

「自ら成果を上げるためとはいえ、よくやってくれたものだ。お陰で私は、それ以上の成果を上げなければならない」

「……」

「人工的なレベリングはとうの昔に企業の研究チームが発見している。一部においては一般で商品化され、出回っているのだ」

「……」

「そんな中、君は進化してしまった。コイルから、レアコイルへ」

彼の言っていることは、大体理解できます。
恐らく、この組織のリーダーが変わった事を、彼は良く思っていないのでしょう。
そしてそのリーダーの言う通りの指示に従った研究員を、良く思っていないのでしょう。

此処は、ポケモンに関する生体実験が行われる研究所です。
元は国が管理していたのですが、あまり公にはなっておらず、その手の人間のみが存在を知っている様な、細々と活動している研究所でした。
数年前から国が財政難になり、一部の研究所が独立せねばならなかったのですが、残念ながら、私の居るこの研究所もその中に含まれてしまいました。
命を扱う場所でもありますから、その経営は大変困難でした。実験用のポケモンは、大変に高額なのです。
独立を余儀なくされた大半の研究所が、泡の様に消えてしまったと聞いています。

私達の居る研究所も、いつ姿を無くしてしまうか分からない。
そんな中、この研究所を買った者がいました。
ロケット団という組織のリーダー、サカキでした。

新たなリーダーが要求するものの難易度は恐ろしく高く、また実験用にと送られるポケモンの数も、半端な数ではありませんでした。
その中にはサンプル用にと、トレーナーのものであったというポケモンも、数多く居たようです。
異論を唱えた研究者も多かったのですが、聞き入れてもらえないどころか、大変酷い目に遭ったと聞いています。
どんな酷いことなのかは、分かりませんが。

そんな中、元々コイルの電気通信に関する実験に参加していた私も、とうとう新たな実験体にされてしまいました。
私に与えられた新たな実験内容は、人為的に行う進化の実現。
研究員はそれを、人工進化と呼んでいました。

そして私はその研究に、成功してしまいました。


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