夏の夜の光

 155.

私達ポケモンの進化とは、急激な細胞の発達と、それに伴う機能の向上です。
未だに全てが解明された訳ではありませんが、多くのポケモンは自らの経験を蓄積していくことで、身体的な発達…進化に繋げているのです。
人工進化とは、その経験を蓄積する工程を省略する、ということです。
つまり人工進化には、人為的な細胞の組換えが必要となるのです。

「君は、ここに居るべきではなかった」

「どういう意味ですか」

「……君は、まだ気付いていないのだろう。人間が手を加えたことで、君は生命としての神秘を失ったのだ」

彼は苦々しい顔で、くしゃくしゃになったレポートに目を通しました。
分厚い眼鏡の向こうで、彼の眼光は痛々しい程の鋭さを放っていました。

生命の、神秘。
それが何を表しているのか、私は分かりませんでした。
彼が何を私に伝えたかったのか、私には分かりませんでした。
しかし、私は今、少しだけ分かったことがあります。

「あの」

声を掛けると、彼がこちらを振り向きました。
あまり寝ていないのか、彼の目の下には隈が出来ています。

「心配して下さって、ありがとうございます」

「……」

「私は、嬉しいです」

「……馬鹿者」

表情ひとつ変えず、彼は再びレポートに目を通し始めました。
彼の心に、私の気持ちは伝わったでしょうか。
彼の心に、私が感じたぬくもりは、伝わったでしょうか。

だって、酷く久しぶりに感じたこのあたたかさに、私はこんなにも心が躍ったのです。

このぬくもりを、いつか、返すことはできるでしょうか。
生命の神秘を失ったという私にも、できるでしょうか。
貴方なら、分かるでしょうか。


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