夏の夜の光

 156.

レアコイルからジバコイルへの人工進化計画は、比較的スムーズに進んでいきました。
一度コイルからレアコイルへの進化が成功したという研究成果がこの研究所にあるため、その成果を踏まえた研究を行うことが出来たのです。
ただし、ジバコイルへの進化の条件として一つ、前回と大きく異なる点が存在します。
ジバコイルの進化には、特殊な電磁環境……磁場が必要なのです。

ジバコイルの進化には強力で広範囲の磁場が必要であると考えられていますが、現在のところ正確な答えは明らかにされていません。
磁場とは電気的、磁気的な現象を表す場合に用いられますが、その電磁場、電磁波は鉄などの無機物だけでなく、あらゆる生物、生態系にも影響を与えます。
中でもレアコイルは磁場の影響を受けやすく、レベルアップ時の身体変化に合わせ、体内の分子構造が組み替えられるのでは…と、現在の科学では考えられています。
ある日彼は、このジバコイル進化条件として必要な特殊な磁場についての資料を持ち込み、私に見せました。

「特殊な磁場として挙げられている場所の例だ。シンオウ地方のテンガン山、イッシュ地方の電気石の洞穴…、強力な磁場が条件として含まれるのであれば、ホウエンのニューキンセツも可能なのではと、我々は考察している」

「……」

「どうした」

「私がこれらの場所へ、実際に行くのですか? それとも……」

「……いや、実際に行くのは数人の研究員だ。これらと同じ環境を、この研究所に造る。君には、この研究所で進化してもらう」

「……」

「……、……」

「え?」

「……いや、何でもない。……どこか、気になる場所でもあったか?」

気になる場所。
そんなことを、問われるとは思いませんでした。
毎日毎日、身体調査、精神検査、能力テストバトル、耐久審査の繰り返し。
日々色々な、沢山の研究員と会いますが、こんな会話は、いつ以来でしょうか。

「この、青い場所が」

そう言って私は、資料の一角に添付されている写真を指しました。

「ああ、電気石の洞穴だな」

「電気石の、洞穴……」

暗いはずの洞窟の中で、蒼白い光を放つ岩がいくつも連なり、洞窟全体が優しい光に包まれているのが見えました。
この光に包まれたなら、私はきっと幸せだ。
直感的に、そう思いました。

「行ってみたいのか」

「……」

彼がどうしてそんなことを訊くのか、私には分かりませんでした。
そんなことを訊いたところで、私がこの場へ行くことは決してありません。
私は、首を横に振りました。

そんな私を見て彼は、そうか、とだけ言い残し、部屋の外へ出て行きました。
彼の持ってきた資料は、私の前に置かれたままでした。
ガラスのケースに入れられた私の目の前に、置かれたままでした。


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