夏に遭う時

 162.

ジャイアントホールと呼ばれる大穴を、ぐるりと囲う様に出来た洞窟。
この洞窟も長い年月を掛け、自然の風や水の力だけで出来上がったというのだから、驚きである。
どんよりと湿った空気の中で、風の吹かない洞窟の雨は直線を描く。
その雫は私達の足元をしっとりと濡らしていった。
この赤いスニーカーも、随分とぼろぼろになってしまったな。
何かを思い出す訳でも憂う訳でもないが、私はふと、そんなことを考えていた。
もう、彼の手は離してしまっていた。

「あの、陽……」

「ん? どうした?」

「……ううん、何でもない」

可能性はとても低いが、もうすぐ、お別れしなくちゃいけないかも知れない。
……そういうことに、なるかも知れない。
そう言おうとして、私は口をつぐんだ。

本当にこの場所で、私が元の世界へ帰られるかどうかは分からない。
けれど、いつか。いつの日か……。

その時が来たら、貴方はそれからどうするの?
自分が選んだ、本当に進むべき道を、進んでいくの……?

私が居なくたって、貴方なら大丈夫だって、分かってる。
だって貴方は、こんなにも強くて優しい。
……自分の辛い過去を、笑顔で覆い隠してしまうくらいに。

「……大丈夫か、ミツキ? 寒いのか?」

俺の上着、貸してやろうか?
そう言って、心配してくる陽。
彼がいうほど寒くはないので、大丈夫、と返答するが、確かに色々と考えすぎて、ずっと暗い表情になっていた気がする。
いけないいけない。

「頑張らなくっちゃ」

そう自分に喝を入れると、陽が横から不思議そうに見つめてきた。
陽。私、頑張るからね。
気合を入れて踏み出す足に、すぅっと冷たい風が、吹き抜けていく。

…………風?


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