夏に遭う時

 163.

「観念なさい、ピスカ!!!」

突然現れた閃光と、長い植物の蔦が目の前に飛び込んできて、再びあの女性の声が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。
それよりも早く私の手を引いて走り出した陽の表情は今、見えない。

「はっ、はぁっ、けほっ……、はぁっ」

急に走り出したものだから、息が整わない。
心臓が早鐘の様に打って、張り裂けそうだ。
手を繋いでいる筈なのに、陽の背中が、酷く遠くに感じる。
視界がぼやけて、目の前が黒で塗り潰されそうだ。
こわい。こわい……!

前とは違う。
前に彼女等と出遭った時、追われて攻撃されたのは陽だけだった。
けれど今は違う。
この狭い洞窟の中で、私の逃げる場所など無い。
背後から追われているが、この先に道が続いているかどうか、分からない。
もし、この先が行き止まりだったら?
もし、この先で、彼等に捕まってしまったら……?

こんなにも絶望的な感覚を、かつて経験したことがあっただろうか。眩暈がした。

「は、はる……っ」

陽、貴方はいつも、いつも、こんなに、こんなにも苦しい思いをしてきたの?
だって今、私はまるで生きた心地がしない。
吐く息は喉が焼け付く様に熱を帯びて、心臓は鈍器で殴られているかの様な痛みが続いている。
走りながら殺されている様なこの苦しみに、貴方はずっと耐えてきたの?
ずっと独りで、背負ってきたの?
私は、わたしは……、

「ミツキ、大丈夫だ」

振り返った陽が、笑った。

「大丈夫だから、泣かなくていい」

あの、太陽の様な笑顔で、笑っていた。


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