夏に遭う時

 164.

「俺が奴等を引き付けるから、ミツキは一人で走れ。いいな?」

「……っ、い、いやっ」

「えっ! い、嫌って……、ミツキ?」

「だ、だって、陽、一人じゃ……」

言葉が、続かない。
何か言わなきゃ。何か。何か。何かを。
刹那、ひときわ強い閃光が辺りを照らし、遅れて凄まじい轟音が洞窟内に鳴り響いた。
その瞬間、陽が私の手を振り解いて、私の身体を洞窟の奥へと押し込んだ。

「走れ!!」

何に怯んだのか、怖気づいたのか。
陽が怒鳴った途端、私は洞窟の奥へ一目散に駆け出した。
目の前が、真っ暗だ。

陽、陽、苦しい思いをさせると分かっているのに、私は、何も、何もしてあげられない。
私はこうして、逃げることしかできない。
ごめんね。陽、ごめんね。

ただただ情けなくて悔しくて、涙が止まらない。
いつか、星空の下で、私は陽に言ったのだ。
私も貴方を守りたい、と。
この世界で、貴方の味方でありたいと。
もう、何を言ってるんだろう、私は。
結局、何も出来やしないじゃないか。嗤ってしまう。

恐怖と後悔が堰を切り、色々な感情が溢れだしていく。
ああ、どうか、どうか陽が、無事でありますように……。

「仲間想いな方ですね」

息が、止まった。

「けれど残念ながら、あちらは囮。狙われているのは、貴女の方ですよ」

…………え?

*****


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