夏に遭う時
167.突然現れた背後の気配に驚いて、思わず振り向く。
けれどそこにあったはずの姿はすでに無く、再び前へと振り向くと、そこには二匹の仲間であろう、サーナイトと、その腕に抱かれた、白いワンピース姿の女の子が居た。
女、のこ……
「礼ちゃん、おっそーい! もう礼ちゃんの居ない間に、こっちはてんやわんやよ!」
「お待ちしておりました……!」
ほっと胸を撫で下ろす、ニンフィアとエルフーン。
待てよ。てめえ等、待てよ……。
「ミツキ……」
三匹が、振り向く。
「ミツキに、何を、した……?」
「あら、ミツキっていうの。この子」
素っ頓狂な声で、俺に訊き返して来る、ニンフィア。
まるで明日の天気でも聞いていたかの様なもの言いに、俺の頭の中で、何かが砕けた。
「ミツキを返せ!!」
牙を剥き出し、サーナイト相手に詰め寄り飛び掛かる。
かなりのスピードで飛び出したのに、相手は捕まらず、牙も爪も虚空を裂いていく。
素早い上に、短いテレポートを何度も使っているらしい。
くそ、どうして、どうしてミツキを……!
こいつ等の狙いは、絶対に俺である筈だ。
だから俺が囮になって、ミツキだけを先へ行かせ、逃がしたというのに。
あのまま一緒に、走っていれば良かった?
手を握ったまま、離さないでいれば良かった?
一人ではいけないと、ミツキは言っていた……?
ミツキ。ミツキ、ミツキ……!!
伸ばした腕に、突然、植物の蔓が絡みついた。
次の瞬間、何かに凄い勢いで足を引っ張られ、頭から地面に叩き付けられた。
痛みさえ感じられず、咄嗟に足元を見やると、そこには綺麗に結ばれた草の蔦が、俺の足を地に留めていた。
エルフーンの、草結びだ。
「……っ、く……っ!」
「……最早、声も出ない様ですね」
「ぐっ……ぅ……!」
ミツキ。
その名前さえ呼べず、もう、姿もほとんど見ることができない。
なあ、頼むよ。
どうして、俺じゃないんだよ。
お願いだから、ミツキは。ミツキだけは。
「彼女……ミツキさんなら、大丈夫。催眠術で、眠って頂いているだけです」
サーナイトが、俺を見下ろしたまま、話し出す。
「私達は今から、彼女を別の場所へと連れて行きます。貴方が心配なさらずとも、彼女に危害は加えません。約束します。必ず……、必ずです。但し、彼女を直ぐにお返しすることは出来ません。…………ここから少しばかり遠く離れた、サンヨウシティの外れ、夢の跡地で、貴方を待っています。……ピスカ。また、お会いしましょう」
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