夏に遭う時

 168.

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草の蔓に巻かれ、暴れまわるぼろぼろのゾロアークさんを落ち着かせ留めるのは、とても大変な作業でした。
まず、私の電磁波でゾロアークさんを麻痺させ、それでも回復せず出発しようとした彼にポケモンセンターで休むよう促し、今日は一先ず身体を休めた方が賢明であること、また、相手に言われた指定の場所……夢の跡地まで行くにはどうすれば良いかをきちんと考えるよう、説得しました。

こんな時こそ、ナガアキが強く言ってくれたら良いのですが、残念ながらナガアキは、何故こいつの為に時間を費やさねばならんのだ、の一点張りで、全く協力してくれません。
困った人です。

「ゾロアークさん」

「……なんだ」

カゴメタウンの、ポケモンセンター宿舎の一室。
静かな町の夜風を受けて、ゾロアークさんの鬣が、さらさらと揺れています。
ゾロアークさんの回復が終わった後、私がナガアキのトレーナーカードを使って宿舎の予約を取り、彼を無理矢理ここへと連れてきました。
しかし彼は、窓際へ静かに座り込んだまま、全く動こうとしません。
困った方です。
これでは勝手に逃げ出してしまうのも、時間の問題ですね。

「ゾロアークさん、名前が二つあるんですね」

ぎろり。
ゾロアークさんの、蒼い、鋭い眼光。
……睨み返されてしまいました。

「ミツキさんには、陽。あのポケモン達には、ピスカ、と呼ばれていましたね」

「……だから、何だっていうんだよ」

「私達は、どちらの名前で呼べばいいですか?」

「……」

眉間の皺を緩ませ、瞳に陰を落とすゾロアークさん。

「……」

「ゾロアークさん」

「……、そんなこと……」

「そんなこと、ではありません。大切なことです」

私が少し、強い口調で言うと、彼は真っ直ぐ私を見返してきました。
初めて見る、彼の真っ直ぐな瞳でした。

「実は私も、二つ名前が在るんです。一緒ですね」

にっこりと笑うと、彼は怪訝そうな表情を見せました。
先程から黙って話を聞いていたナガアキが、会話を中断させようと小さく声を出したのが聞こえましたが、それ以上は何も言いませんでした。

話を続けましょう。


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