夏を追う朝

 173.

「貴女、あまり喋らないのね」

「……」

「まあ、それは良い判断よ。こうして貴女を連れ去った相手なんかに、情報をくれてやる必要は無いわ」

「……」

彼女の話を聞けば聞く程、彼女等の目的が分からなくなってくる。
彼女等は確か、刑罰から逃れ、森から抜け出した陽を追ってきたポケモン達だ。
それなのに何故、陽を残し、私をここへ連れてきたのだろう。
私へ危害を加えようとする様子も、一切見受けられない。

そして、先程彼女が言った、私を迎える準備、とは?
私を迎えることで、一体何をしようというの?

様々な思考が駆け巡る中、目の前の桜と名乗る女性は、先程よりも暗いトーンで、私へ話し掛けてきた。

「それにしても、本当に貴女……」

「……え?」

「……ううん。何でもないわ」

「……」

「…………貴女、ピスカのこと、好き?」

「…………え、……えっ!?」

突然何を言い出すのだろう、この人は。
意外なことを訊かれて、思わず心臓が跳ねた。
顔に集まる熱を抑えようと、頬に手を当てる。

「……いいわ。その反応で、充分よ……」

そんな私を見て、彼女は俯き、目を伏せた。
そして私の方へゆっくりと顔を上げ、こう言った。
とても険しく、哀しい表情だった。

「これから先、どんなに辛いことが待ち受けていたとしても、心を強く持ちなさい。赤の他人が廻した歯車に、貴女が怖気づいて、悲しむ必要なんかない。貴女はとても強くて賢い女の子だと、私は信じているわ。そして、何を聞いても、何を知ったとしても、貴女とピスカが一緒に居たことは、変わらない。本当よ。誰も信じてくれなくても、貴女が自分を信じられなくなったとしても、この私が証明してあげる」

こんこん。
ドアをノックする音が、聞こえた。

*****


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