夏を追う朝
174.*****
「オオー、ナガアキ!! 待っていたヨー!」
「いつでもどこでもうるさい男だな、お前は」
「零も久しぶりだネー! 会いたかったヨー、今日もベッピンサン!」
「お久しぶりです、ミスターアズマ。今日も素晴らしい筋肉です」
「いいからほら、前回の研究データと情報ファイル、あと調査の際に入手した、かつての研究員が保管していたフロッピーディスクだ。これは慎重に扱えよ。あとは……」
「マーマー、そんな堅苦しい話は置いといてサ! ちょっとブレイクしようじゃないカー! 淹れたてのコーヒーと、アッツアツのポップコーンだヨー!」
「なんだその組み合わせは……って、どこへ行く気だ、おい!!」
ずるずるとミスターに引きずられていく、ナガアキ。
体格の良いミスター相手に、ナガアキが敵う筈ありません。
そんな彼等の様子を見て、ぽかんと口を開けたまま棒立ちになっている、陽さん。
「助けなくていいのか?」
「いつものことです」
西の丘へ沈む夕陽を見やりながら、そうあっさり返すと、陽さんはそうか、とだけ返事をしました。
少し呆気にとられていた様子の陽さんでしたが、彼はまたすぐに心此処に在らず、といった表情に、戻ってしまいました。
「陽さん。逸る気持ちも分かりますが、今日はもう一泊、ここで休息しましょうね」
「……ああ、分かってる」
頷く陽さんを見て、私も頷き返します。
これは昼間ビレッジブリッジで、私達三人がミーティングを行った結果です。
調べたところ、ミツキさんが連れて行かれたとされる夢の跡地とは、かつて工場、もしくは研究所があったとされる場所なのだそうです。
現在はポケモンの住処になっており、またその廃屋には、広い地下階層も存在するのだとか。
日が沈んでから野生ポケモンの住処に忍び込むという行為は十分に危険ですが、それが地下の廃屋ともなれば、そのリスクは計り知れません。
ミツキさんを連れ戻す作戦は、日中に行うこととなりました。
「この調子であれば、明日の夜明け頃に出発。あちらへは、正午前に到着となりそうですね」
「……そうだな」
一応は頷いて見せる陽さんですが、あまり賛成はしていない様です。
……仕方ありませんよね。
大切なパートナーが、今、相手の元で一体どうなっているのか、何をされているのか、全く分からないのですから。
「陽さん。辛いお気持ちも、分かりますが……」
「俺は、大丈夫だよ。……今、一番辛い思いをしているのは、きっとミツキだ」
そう言って、陽さんは私に背を向けました。
広い背中に、何とも言えない感情を抱えているのが、本当に見えてくる様な気がしました。
「陽さんは本当に、ミツキさんのことを大切に想っていらっしゃるのですね」
そんな私の言葉に、陽さんはこちらへ振り向き、眉根を少し下げて、言いました。
「うん。大切なんだ。……守って、あげたいんだ」
西日に照らされた街並みを背景に、今の陽さんはどことなく、別の世界に居る様に感じられました。
「よろしければ、聞かせて下さいませんか? なぜ、陽さんがそんなにも、ミツキさんを大切に想っていらっしゃるのか」
身体を休める時間は、大切です。
その間に、私に教えて下さいませんか?
私は、知りたいのです。
ミツキさんが、彼をこうも切ない表情にさせる理由は、何なのか。
こんなにも想わせる理由は、何なのか。
それに、お話でもしていないと、貴方は一人でミツキさんを迎えに、突っ走ってしまいそうですからね。
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