夏を追う朝

 175.

電灯が辺りを照らし出し、人々が家路へ着く様子が伺えます。
南風が少し和らいで、辺りにはそよそよと涼しげな空気が漂い始めました。
夕暮れ間際の街中で、手近なベンチへ座り、陽さんはぽつり、ぽつりと私に話し始めました。

「あんまり驚かないで、聞いて欲しいんだけど……。俺は……、俺はな、罪人なんだよ」

「…………。罪人、ですか?」

「そう。ポケモン達だけが住む森で、人間を騙した」

「……騙した?」

「森にある魔法の花と、俺のイリュージョンを使ってさ……、森に迷い込んだ人間達と、森のお妃様にな、悪戯をしたんだ。人と人とが、互いに想う相手を、入れ違いにさせた」

「想う、相手を……。恋をしている人を、互い違いにさせた……、ということですか?」

「そう。ロンの……俺の友達の、おせっかいというか、出来心でさ。……本当はな、人間の、本当に想うべき相手同士を、くっつけたかったんだ。あの人間達は、何故か分からないけど、本当に好きな人を、好きになれなかったらしくて……」

「……」

「でも結局、その悪戯は失敗した。森の皆にもそのこと……人の心を操ったことがばれて……、俺は、罪人になった。……あの人間達がその後どうなったのかは、俺には分からない」

「……」

「……驚いたか?」

「ええ、まあ……。……その、陽さんと共に悪戯をしたというご友人は、今……」

「分からない。そいつは森の王様だったから、きっと、俺と同じ処罰は受けなかったんだ……、と、思う」

「……森の王様、ですか」

「そう」

すう、と息を吸い込んで、ゆっくりと前を見据える陽さん。
生温い風がざわざわと、街路樹の木葉を揺らしました。

「そんな中、俺は森から逃げ出した。自分の犯した罪やその罰から、逃れるために」

「……」

「きっかけは、まあ、事故だったんだけどな。けれどそれを決めたのは、俺自身だから……」

とても静かに、淡々と話す陽さんでしたが、その瞳はまるで、誰かを射抜いてしまえる様な、鋭いものでした。
その言葉と眼差しは、彼自身をも傷付けてしまうのではないか。そんな風にさえ、思えました。

「それからは延々と、ひたすらに逃げ続けた。もう、あれからどこへ行ったのか、どのくらい経ったのか、俺はよく分からなくなった」

とにかく遠くへ、遠くへ。
長く、長く逃げようと思ったんだ。
そう、陽さんは言いました。
私はただ、黙ってそれを聞いているしかありませんでした。

「それからだよ、ミツキと出会ったのは」

ふ、と、陽さんの顔がほころびました。
優しい、それでいてどこか寂しそうな、陽さんの笑顔でした。


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