夏を追う朝

 176.

「最初はさ、迷子の女の子を、助けたつもりでいたんだ」

「迷子の、女の子……。ミツキさんですか?」

「そう。でも、それは森から逃げる、俺自身の為でもあった。森の奴等は皆、人間の事を好いていなかったから……。ミツキと一緒に行動すれば、奴等も俺に気付かないだろうって……、そう、思ったんだ」

「…………、なるほど」

つまり、陽さんはミツキさんを利用し、自分自身の更なる逃亡を図った、と……。
その考えが伝わったのか、陽さんの方を見ると、サイテーだろ? と、彼は自嘲気味に笑いました。

「しばらくはさ、全然ばれなかったんだ。大体俺のこと、ゾロアークじゃなくて、別のポケモンだと思ってたみたいだし」

「……」

ただ黙って聞いているだけの私を見て、陽さんは少しだけ笑って、言いました。

「でもさ、そういうのって結局、全部ばれちゃうんだよな」

「……」

「なんで俺、こんなことしちゃったんだろうな」

「……」

「どうせばれちゃうなら、最初から、そんな汚い考え、捨ててしまえば良かった」

「……陽さん、それは」

「最初から、嘘なんかつかなきゃ良かった」

「陽さん」

「こんなことになるなら、最初から、」

「陽さん」

出会わなければ良かった

「陽さん!!」

私が大きい声で言っても、陽さんはただ、笑うだけでした。
とても哀しそうに、笑うだけでした。
私も私で、何も言えず、ただ陽さんへ責める様な視線を送るのが、精一杯でした。

そんな私を一瞥し、陽さんは再び、前を見据えました。
彼は一体、何を見ているのでしょうか。
彼にしか見えない彼自身を、見ているのでしょうか。

「でもミツキはさ、そういう俺の嘘を、全部……、全部知ってしまっても、ミツキは、俺のこと…………」

そこでふと、言葉が止まりました。
ちら、と陽さんの方を見やると、彼は、空を見上げていました。
無数の星々が瞬き始めた夕暮れの空を、見上げていました。

「嫌いって、言ってくれなかったんだ」

少しかすれた、浅い声で、そう言いました。
とても、とても辛そうな声でした。


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