夏の夢の中で

 CLXXXVIII.

「ミツキさん、貴女にはこれから直ぐに、この眠りから目覚めて頂こうと思います」

「……え?」

「ここに一つ、三日月の羽根、と呼ばれるものがあります。これはクレセリアというポケモンの持つ羽根で、ダークライのみせる悪夢を晴らし目覚めさせる効果があると言われているものです」

「……それを、私に?」

「ええ。残念ながら、ピスカにこの方法は通用しませんでした。しかしその通用しない根源となっている貴女であれば、ピスカよりも先に目覚めさせることが可能であると、私達は考えています。それに貴女を目覚めさせることが出来れば、ピスカも同じ方法で目覚めさせることが出来るのでは、とも考えています」

「……なるほど、そういうことですか……」

「はい」

「その、三日月の羽根を使えば、私は……、私も陽も、元の世界に、戻ることが出来るのですね」

「はい」

「……それは、その……。私は、今すぐにそれを使って、帰らなければならないのでしょうか……?」

「もちろん貴女やピスカの気持ちの問題もあるでしょうし、一時的な猶予はあるといって良いでしょう。しかし、なるべく早く事を進めた方が良いのは確かです」

「……と言うと?」

「……これは貴女の不安を助長させてしまう恐れが高いため、言うべきか否か考えていたのですが……」

「……。どうぞ、構いません」

「……貴女は今、私の目の前に居ながら、私達の手に届かぬ存在です。本来そこに在るはずの貴女の身体は、此処にはありません。この夢の世界に在るのは、貴女の精神のみ。貴女の肉体は今、貴女の元居たという世界に在るのです。……ここまでの話は、理解できますか?」

「はい。今までのお話で、なんとか……。……正直、まだ信じられないという気持ちも拭えませんが……」

「そう、ですよね……。でも、よく考えて下さい。今、ここに在るのは貴女の精神のみ。しかし今、貴女の肉体がどうなっているのか……、残念ながら、私達には分かりません。何度も言うように、私達がいま見えているのは、貴女の精神だけなのですから」

「……」

「……ミツキさん。私達には、貴女の身体が今どういう状況にあるのか、何も分かりません。けれど貴女の精神が生きているということは、貴女の肉体もまだ無事なのであろうと、私達は推測しています」

「……つまり私が目を覚ましたとしても、私の身体が無事であるかは保証できない、と……」

「……。ええ。そういう事に、なりますね……」

「……なるほど。分かりました」

「……ミツキさん」

「……私達に、少しだけ……、猶予をください」

「え?」


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