夏の月に陰
196.イッシュ地方最大の都市、ヒウンシティには、空路を使うと思いの外早く到着してしまって、俺は拍子抜けした。
八里の背中に乗ったミツキは、怖かったけど楽しかった、なんて無邪気に笑ってるもんだから、俺はどういう顔をしていいのか、よく分からなかった。
大体なんだよ、怖かったけど楽しかったって。どっちだよ。可愛いから許すけど。
「ミツキ、大丈夫か?」
「陽は心配性ね。大丈夫よ」
「……そうか」
「ふふっ」
ミツキは笑うと、俺の腕に自分の腕をするりと絡ませて、手を繋いだ。
「八里さんが言ってたじゃない。私、とっても上手だったって! きっとセンスがあるんよー、って言ってくれたわ!」
八里の喋り方を真似て、得意気に話すミツキ。
……ミツキって、こんな人のおだてに乗るような性格だったっけ?
いやまあ、本当に上手だったのかも知れないけれど、前回の……雪解に乗った時のこと、忘れた訳じゃないだろうに。
「……」
「……陽? どうしたの?」
「えっ。いや、なんでもない……」
「変な陽ね」
そう言って、ミツキは笑った。
俺は何か言い返したかったんだけど、やっぱりやめておいた。
別に、深い意味はないんだけど、何となく。
それにしても、この握られた手でどきどきしてるのって、俺だけなのかな。
……俺だけなんだろうな。ちくしょう。
すっげえやわらかくて、あったかくて、気持ちいい。
「陽、あそこじゃない? 船のチケットが売ってるの!」
ミツキが、俺の手を強く握った。
駆け出したミツキにつられて、俺も走り出す。
握り合った二人の手に海の風が当たって、とてもくすぐったかった。
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