夏に残る風
202.「いらっしゃいませー!」
「いやーありがとうね、ミツキちゃん! おばちゃん助かっちゃうわー!」
「いえいえ、私も楽しいです!」
太陽が沈み始めたとはいえ、盆地になっているヒオウギシティの気温は、湿度と共に未だ高いままだ。
そんな中、如何にも暑苦しそうな服を着込んで汗水垂らして働いてる俺たちを、誰か褒めてほしい。
どうして今こんなことをしているのかというと、それは数時間前の出来事にさかのぼる。
この街に来てすぐ、俺たちは目の前で大きな段ボールの山をぶちまけたおばさんに出くわした。
きゃあー!というおばさんの大きな悲鳴と、段ボールから沢山の何かがどさどさとこぼれていく音。
突然のことで驚いたけれど、目の前の不運なおばさんを無視することは出来ず、俺とミツキはそれらを掻き集めて、段ボールの中へと仕舞った。
その拾い集めたものが何なのか、俺は思わず首を傾げた。
カラフルな、小さくて丸いボール玉みたいなものが、色ごとに包装されている。
「なんだろう。子供のおもちゃか?」
そんな俺の疑問に、ミツキが答える。
「きっとこれ、どんぐり飴よ。綺麗ね」
「飴? 食べ物なのか。すげえ」
こんなきらきらしたものが、食べ物なのか。
人間って、こんな木の実みたいなものを自分で作っちゃうんだな。
俺が感心していると、おばさんが駆け寄って来た。
ありがとう、ありがとうと何度も言い、お礼にとそのカラフルな飴を瓶詰めにしたものを渡してくれた。
そしてまた、大きな段ボールを担いで、俺たちの元を去って行こうとする。
「……」
「……」
俺とミツキは、顔を見合わせた。
多分、考えてることは一緒だ。
あのおばさん、絶対同じことを繰り返すぞ……。
「あの、手伝います」
ミツキが声を掛けた。
振り返ったおばさんの段ボールが揺れて、またひっくり返りそうになったのは、言うまでもない。
prev / next
[ back ]