夏に残る風

 205.

飴を売る以前に、お店屋さんをするということ自体が初めてだったけれど、始めてみると思ったより楽しかった。
お客さんが来たら袋、若しくは瓶をお客さんに選んでもらう。
袋には飴を好きなだけ選んで入れてもらい、その重さで値段を決める。
瓶詰めにする場合の値段は少し高いが値段の変動は無く、その分沢山の飴を入れることができるのだ。

皆思い思いに飴を選んでは入れ、飴を買っていく。
何を入れるか悩んでいる女の子が居たりすると、つい声を掛けてしまう。
どの色が可愛いかな、とか、どれが美味しそう、とか。
そんなちょっとした会話をするのが、とても楽しかった。
陽は陽で、隣のお面屋さんからピカチュウのお面を貰ってかぶり、客寄せに一役買っている。
……一体どちらの客を呼んでいるのか分からないけれど、どちらの店主も何も言わないので気にしないおく。

私達が店先に立ってからしばらくの時間が経ち、お客さんの波が一時的に退いた頃。
一人の男性が近付いて来て、私の顔を見るなり、上擦った声で奥さんを呼び止めた。

「おいおいおいおい、一体どこのお嬢さん連れて来ちまったんだよ……! って、あっ、なんか赤いのも居る! 誰だお前!!」

「赤いのじゃなくて陽くんよ」

「だから誰だよ!! ああーびっくりしたぁー! え、何? バイト雇ったの?」

「そうよー! 二人が居るから、あんたはもうあっち行ってていいわよ。ビールとジュース買ってきて頂戴」

「ああーそうなの? ……って、ただのパシリじゃねぇか!! 勘弁してくれ!!」

突然始まった痴話喧嘩に、私や陽はもちろん、周りのお客さんも笑いが止まらない。
結局、旦那さんは奥さんから預かったお金を手に、飲み物を買いに走って行ってしまった。
仕事帰りで、疲れているだろうに……。
そんなこちらの心配を他所に、奥さんはやれやれと肩をすくめながら、私達の傍へ戻って来た。

「旦那が返って来たら、二人共もう遊びに行って来ていいよ。今日はありがとうねぇ」

「えっ、もういいんですか?」

「いいのよいいのよ、もう充分働いてもらったわ。お駄賃あげなくちゃね」

「おおー! やったなミツキ!」

「陽、がめつい」

「あははっ、この通りの先へ行けばまだ色んなお店があるわ。それにもうすぐ花火も始まるしね」

「あっ、花火は絶対見たいです」

「そうよねそうよね。じゃあ良い穴場があるの、教えてあげる」

奥さんはそう言うと、可愛い笑顔を浮かべながら私に近付き、こっそりと耳打ちした。

「私と旦那だけが知ってる、秘密のデートスポットよ。楽しんでおいで」


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