夏に残る風

 207.

*****

時を忘れた。

どれぐらい、そうしていたんだろう。
どれぐらい、こうしていたいんだろう。
どれぐらい、こうしていられるんだろう。

何もいらない。
何も望まない。

ただ、ただ、このままでいたい。
このままでいいんだ。
このままで。

赤い、赤い、光の弾は、空に昇って、爆発して、世界を照らした。

時間なんて、止まってしまえばいい。
そう思った。

「なあ、ミツキ」

大きな音が、聞こえる。

「え? 何? 聞こえないよ!」

その音に掻き消されそうな声が、聞こえる。

「じゃあ、でかい声で言う!!」

「え? う、うん、分かった!」

遠くで轟音が、鳴り響いている。

「俺、ミツキに言わなきゃいけないことがある!」

叫ぶ。世界中のどこにいても、届くような声で。

「俺、ミツキのこと、大好きだ!!」

「へ!?」

暗転。
そしてその日極大の光の弾が、撃ち上がった。

「世界中の、誰よりも!! …いや、この世界だって、別の世界だって、どこのどんな世界の奴にだって負けねえ! 俺はミツキが好きだ! 大好きだ!!」

「ちょ、ちょっと陽……!」

困った表情をしたミツキの顔が、赤い光に照らされる。
派手で巨大な光の弾とそれに続く轟音は、今でもなかなか鳴り止まない。
空も森も、世界中の全てが、赤い光に包まれている。

まるで、燃えているみたいだ。

「ミツキの、笑った顔が好きだ! 声が好きだ! 手が好きだ! 髪の匂いも、泣き虫なとこも、意地っぱりなとこも、強がりなとこも、怒ったらちょっと恐いとこも、全部、全部好きだ!!」

「は、陽……?」

そしてそれは、唐突に終わった。
銃声の様な残響が世界を包み、空気が一気に冷えていくのが分かった。
あとは何も、残らなかった。

「俺、ミツキのこと、好きなんだ。大好きなんだ」

この暗い世界に、俺たちだけが取り残されていた。

「だから、言わなきゃいけないことがある」

時間なんて、止まってしまえばいい。

「俺、あの森に帰るよ。罰を受けるために」





時間は止まらなかった。

だから俺の言いたかったことを、今から話すよ。


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