夏が終る日

 212.

*****

「おい、ピスカ」

「はい。王様」

「こっちへ来なさい」

「……? 何でしょうか」

「お前に、頼みたいことがある」

「……? …………はい、何でしょう」

「この前、僕たちで見つけた魔法の花の汁があっただろう。あれを我が妻、×××××の瞼に垂らしてくるんだ。今頃、彼女はぐっすり、僕の魔法で眠っている」

「……は? 王様、一体何を考えているのですか。突然そんなことを言い出して……。他の者に、聞かれでもしたら……」

「安心しろ。今、ここには僕たちしか居ない。…………だから、この変な喋り方も、いらないよ」

「……え? そうなのか?」

「うん。ちょっと小さい声で喋っていれば、大丈夫だと思うよ」

「なーんだ、よかった。そういうことは早く言えよな、ロン」

「ふふふ、ごめん。けれど、本当に久しぶりだよね、こうやって話すの」

「ああ、そうだな。……でも本当に、どうして急にそんなこと言い出したんだよ。……お妃様にそんなことするなんて、俺、流石に出来ねえよ……」

「ちょっとした悪戯さ。僕のこと、嫌いだなんて言った罰だ」

「……。ただの痴話ゲンカじゃねぇか……」

「いいんだよー。それにこれは僕の命令だから、もし誰かにバレても平気だよ」

「本当かー? ……だったら、ロンもここを出て、俺と一緒に来いよ」

「えー?」

「今、森に人間が来てるんだよ。しかも、結構な数だ」

「ああ、それなら知っているよ。今度、人間の村で祭りがあって、その準備やらダンスの練習やらで、この森に来ているんだってね」

「ああ。なんだか楽しそうだよな」

「そうだね。…………そうだ。そういえば」

「ん?」

「ねえ。その人間の中に、報われない男女のカップルが居るんだろう?」

「はあ? ……ああ、そういえば確かに、そんな噂を聞いたな。それがどうした?」

「そいつらにも、あの花の汁を使ってやろう」

「え?」

「実らない恋を、実らせてやるのさ。人間には、様々な格差や障害があって、大して好きでもない奴と妻夫にならなければならないと聞く。今来ている人間も、そうなのだろう? 好きな者が目の前に居るのに、それとは違う者と一緒になろうとしている……。それを僕たちの手で、正してやるんだよ。どうだ、素敵じゃないか!」

「あははっ、すげえな。それが出来たら、きっと、そいつらは最高に幸せだ」

「そうだろう! なあピスカ、やろう。これはきっと、みんなにとって、とてもハッピーな悪戯だ!」

「ハッピーな悪戯って、いいな、それ。よし、乗った!」

「うん、決まりだ!」

「おう!」

「目指すはこの森で一番素敵な、ハッピーエンドだ!!」

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